ロボアドバイザーを使ったサービスはこんな感じ?

リサーチによると、ファイナンシャル・アドバイザーがIAにとって代わられる可能性は58%だそう。架空のお話で未来予想図を。

(以下、架空のお話です)


その名も”Sado”

午前8時。

出社した私は憂鬱な気分でパソコンを立ち上げる。昨夜の米市場が荒れに荒れていたのを起き抜けのニュースで知っているからだ。仲間のアドバイザーのチャットルームには次々と新情報が流れてくる。その中に毎分10本程度の情報を投稿しているアドバイザーがいる。

アドバイザーの名前はSado、人間ではない。いわゆるAIで実態はプログラムとデータベースの塊だ。業界での一般名称はロボアドバイザーで、大手ITベンダーと共同で作った。AMGには200名のアドバイザーが在席、国別取扱商品別で15チームに所属しているが各チームに1つのロボアドバイザーが与えられた。Sadoという名は私が大学時代に日本文化に慣れたいがために習い始めた”茶道”に由来する。はっきり言って名前なんてどうでも良かったのだが。チームメイトも名付け親になるのに興味がなかったので、日本チーム所属のロボアドバイザーは私が命名することとなった。

昨夜のSadoはマーケットが荒れはじめてボラティリティが急上昇した時点から投稿のペースを速め、パソコンが立ち上がるのを待っているこの瞬間にも携帯電話の通知はなりやまない。

Sadoが拾ってくる情報は実に多岐に渡る。ニュースサイトからの投稿はもちろん、ブルームバーグ端末の生データを解析したもの、著名投資家や投資ブロガーのツイッターやフェイスブックの投稿を要約したもの、投資銀行からの緊急ニュースレターなどだ。とてもじゃないけど人間の目の速度でSadoがもたらす元ネタを追うことはできないが、Sadoがそれら情報をまとめて解析している。Sadoは24時間アドバイザー間のチャットルームにいて在席を表す緑マークが常に点灯している。重いタスクを計算しているときは鉛筆マークが出る。

Sadoが作成したアドバイザー向けサマリーは米市場が閉まってから数時間の間に7度も更新されている。市場が不安定になった原因3つと市場へのその寄与度をパーセンテージで示している。会社からは「最新のサマリーがもっと精度が高い」と言われているが私はきちんとサマリーを最初から読むことにしている。時系列に読むとマーケットの動きが躍動する生き物のように浮かび上がってくる瞬間があるからだ。何でもSado任せにしていては、アドバイザーとして恥ずかしい。Sadoが導入された1年前はチームメイトはみな懐疑的であり私自身も「ニュースが勝手に流れてくるのであれば、Bloomberg端末と何が違うの?」くらいの認識でいたが、今はもはやSadoなしで仕事をすることは考えられない。

ネアンデルタール人になった私たち

ずいぶん昔から金融サービスはテクノロジーに置き換わるだろうと言われてきた。金融が扱う数字とコンピューターは相性がいいからだ。最初はそれは、テクノロジー好きのオタク投資家にだけしか受け入れられないだろうと思っていた。資産運用をロボット任せにするなんて、自分の資産をブラックボックスに放り込むようなものだ、という認識でいたからだ。しかし、数年前老舗の欧州系プライベートバンクが「ロボアドバイザーをクライアントとのメイン窓口とする」と発表してから一気に流れが変わった。ロボアドバイザーはクライアントが欲しい情報を瞬時に手に入れ、手続きのための書類を瞬時に作成する。

たまに「人間の」プライベートバンカーが出てくることがあるが、それは事業承継や相続などややエモーショナルな、人間の感情が介在する部分についてのみである。しかし人間が介入するかどうかの判断ですらロボアドバイザーが行っているらしい。

プライベートバンク業界が一気にロボアドバイザーの流れに傾いたせいもあって、私たちIFAもその流れに乗らざるを得なくなった。乗らなければクライアントに見捨てられるだけである。ロボアドバイザーのようにクライアントの要求を瞬時に満たさねば、「アドバイザー変更」という、クライアントからの事実上のクビ宣言が待っている。

香港証券管理局(日本でいう金融庁)のルールで、ロボアドバイザーはクラウドに設置することはできず物理サーバーを社内に置かねばならないことになっている。無数のケーブルとLEDライトがちかちかしている高さ2メートル、広さ1畳ほどの黒い物体がオフィスの一部を占領することになった。私はそこから見える香港大学周辺の景色が好きだったのに。

3ヶ月ほどの試用期間を経て、Sadoが稼働した。後で気づいたことだが、それは私たちがパソコンなどの道具を使う時代が過ぎ、道具が私たちを使う時代が始まる瞬間でもあった。Sadoは毎秒2兆回の計算をし、クライアントからの質問に1.5秒以内に回答し、必要な書類を0.5秒以内に作成しながら同時に市場を分析し、クライアントのための運用設計書を作成し各アドバイザーのダイレクトメッセージに吐き出す。

Sadoの「取扱説明書」のようなものは存在しない。なぜならSadoを最終的に扱えるのは開発ベンダーの技術者で、私たちは扱えないなのだ。むしろSadoが私たち人間の取扱方を知っている。私ができるささやかな反抗といえば、Sadoの電源を抜くことくらいだがそれも緊急電源が供給され技術者が飛んで駆けつける仕組みになっているらしい。

どんなに優秀な人間でも毎秒2兆回の計算はできない。ネアンデルタール人がもし現代で生息していたら、今の人類は彼らを見下すだろう。しかし1秒間に2兆回の計算ができるSadoも1秒間にせいぜい1-2回しか計算のできない私たち人類を見下しているのだろうか。1兆分の1しか能力のない私たちは彼らにどう思われてるのだろうか… そんなことを思いながらレポートに目を通していた。

10時。

本日一人目のクライアントの来客だ。私はSadoの作成した資産運用設計書のPDF版の入ったノートパソコンを手に部屋に入る。メールのやりとりは何度かしてある。医療法人の理事長とのこと。Sadoはメール文章を解析し、どのような人物かをプロファイルしていた。Sadoによるとその方はせっかちなところがあり、運用判断を急ぐ可能性が78%あること、したがってクライアントが退屈するくらい商品説明をしっかりしたほうが良い結果につながるとハイライトされていた。またSadoがネットで拾ってきた”信憑性92%”と書かれた情報に目をやると前妻との間に一人のお子様が、現在の妻との間に二人お子様がいるので相続でいさかいが起こったりしないような配慮が求められること、それに対応するようなアドバイスの仕方が例示されていた。

Sadoが作った作文を読むような気分だが、ここ最近は「こちらは弊社のロボアドバイザーが作成した資料ですが」と枕詞をおくとクライアントの反応がいい。クライアントも人間よりもロボアドバイザーのほうが信頼できると思い始めている。人間は怠けるし、感情のある生き物なのでクライアントはアテにしなくなり始めている。また、昨夜からSadoが吐き出し続けているアドバイザー向けサマリーをクライアントに見せるとさらに上機嫌となった。

Sadoはそのクライアントが質問しそうな(Sudoが人物プロファイリングから抽出した)Q&A集もプレゼンテーションの最後につけてくれ、まさにスキのない説明となった。1時間ほどの説明で、そのクライアントは2億円の投資を決めた。Sadoは会話の内容を逐次解析し会話の要点を顧客管理システムのログに残す。私たちは会話内容そのものを後から再生することはできない。コンプライアンス上の問題があるからだそうだ。

成約の見込みがほぼ確定となった時点でSadoはAMGのアプリのダウンロードリンクをクライアントに送る。それがクライアントと弊社のコミュニケーションの窓口となり、Eメールは使わない。Sadoのデータ精度を高めるためにも、会社からは既にEメールの利用を禁止されている。対外的なコミュニケーションはもちろん、従業員のコミュニケーションは、Sadoが監視しているチャットルームで行われる。

この状況に異を唱えるものも居なくはない。「箸の上げ下ろしまでAIに監視されるのはたまらん」と。しかしSadoのいるチャットルーム1週間も出入りしていればその状況は変化する。なぜならSadoに蓄積されたログからSadoが絶妙なタイミングで情報をもたらすからだ。たとえばアドバイザーの小椋が「債券指数が40ベーシスも下がった」とチャットルームでつぶやけば、Sadoは小椋が債券指数を気にしているということは、近々債券を買うクライアントがいるのでは」と推測し割安な債券のリストを小椋にダイレクトメッセージする。小椋は数日前にチャットルームで何をつぶやいたかなど忘れているから、Sadoがなぜ債券リストを自分に送ってきたか検討がつかない。しかしまさに「かゆいところに手が届く」タイミングであったので、チャットルームでいろいろつぶやいたほうが自分の利益になるということを体感する。

人間が機械の下請けに

昼過ぎ。

午前中のクライアントがAMGのアプリをダウンロードし、そのアクティベーションが確認できたのでAMGのアプリ越しにお礼を言うが、既にクライアントはSadoと何度かメッセージのやり取りをしていた。Sadoが導入されてから明らかにクライアントの満足度は上がったが、アドバイザーとしてここが一番かなしいところである。私ではなくSadoがメインのアドバイザーだと、クライアントも認識しているのだ。Sadoに聞けばAMGの継続的な顧客サービスが完結する。クライアントに会ったのはたった一度きりで、その後はクライアントがオフィスに来る用事がなければ顔を見ることもない。そして用事もないのに弊社オフィスを訪れてくださる酔狂なクライアントはいない。カール・マルクスが資本論の中で「疎外」と言った意味を140年後の今納得した。この仕事に私の個性はない。

以前はクライアントとアドバイザーの二人三脚で、というのが弊社のモットーであった。それが今はクライアントとロボアドバイザーの二人三脚となっている。私たち人間のアドバイザーはすっかり隅に追いやられたが、顧客満足度はむしろ向上しており預かり総額は順調に増えているためAMGのボスは嬉しそうだ。

そのボスから「みんなに大事な話がある」と従業員用のフリースペースに集められ、新しい雇用体系が伝えられた。今後アドバイザーは、これまでのような出来高制ではなく固定給を支払う。またロボアドバイザーの業績を個別のボーナスに反映させるという。営業行為ですらももはやオンライン上で完結できるシステムが導入されるため、アドバイザーがもっとも労力をかける営業行為が不要となったそうだ。簡単にいうと、今後人間アドバイザーはロボアドバイザーの下請けとなる。

私たちは会社の決定に従うしかない。なぜならロボアドバイザーがいよいよ業界を席巻しはじめており、どのIFAも遅かれ早かれロボアドバイザーを導入することが予想されるからだ。ロボアドバイザーの利用料は毎月200万円~300万円だが福利厚生を要求せず24時間働くことを考えるとかなりのコストダウンとなる。すなわち人間アドバイザーはもう居場所がなく、したがって高い報酬は期待できなくなる。営業がもっとも骨の折れる仕事でかつ報酬も高かったのだが、それも機械に取って代わられた。マクドナルドのレジから人が消えてすべてタッチパネル式の注文となったとき、私たちアドバイザー業界ではまだまだ機械と手を組んで生きていけると思っていた。しかしこんな早く状況が変化するとは。

名付け親の私が、名付けた子に使役されている。Sadoが作る各種レポートも精度があがってきており、プライバシーを重視するクライアントはインターネット越しにSadoと、というよりSadoだけと会話する。人間アドバイザーがバックアップサービスを提供することが売りだったのに、人間アドバイザーが介在していること自体プライバシーへの挑戦だとみなすクライアントが増えてきたのだ。

そんなこんなで、私たち人間アドバイザーの存在価値はますます少なくなってきた。今の私の仕事はアプリ上でかわされるSadoとクライアントの会話内容をチェックすることだ。Sadoがおかしなことを言っていないか、サービスの質は保たれてるかをチェックする。会話内容におかしな部分がなければマル のついたボタンを押し、会話内容に問題があると判断すれば「報告」ボタンを押す。マーケット情報を集めたりレポートを作成することではない。マルか報告かのクリックが私の仕事のすべて。

マーケットが好調なときはアプリ上でSadoとクライアントの会話は少ない。その「マーケットが好調である」という情報も今朝Sado経由で知った。Sadoがそういうサマリーを私に送ってきたからだ。Sadoが吐き出すマーケットサマリーはますます精度が高まってきたのはいいが、私はもうそれを読みたいという意欲がない。気付けばここしばらくマーケットニュースにふれていない。今日もSadoに呼び出されたときのために備えて、ぬるいコーヒーをすすりながら日がな一日だらだらとくだらない情報をネットサーフィンしている…


ファイナンシャル・アドバイザーが機械に置き換わる可能性は58%

私たちアドバイザーにとってはちょっとホラーな展開になりましたが、あながち荒唐無稽なものであるとも思いません。ほとんどの仕事は手続きに則れば実践可能です。たとえばファイナンシャル・プランニングについてもAIが作成することができますし、実際すでに証券会社や保険会社でそのような試みはあります。人間が膨大な時間をかけて獲得する知識や経験もAIがディープラーニングという形で学習することができる時代です。

以下の図は年収と機械に置き換わる可能性とを職業ごとにプロットしたものです。置き換わる可能性の少ないものとしては教育や福祉が、置き換わる可能性の高いものとしては会計士やレジ係などがあります。より手続きに則ればできるものが機械に置き換わり、柔軟な対応が求められるものが機械では代替できないことになりますね。

Bloombergによると、ファイナンシャル・アドバイザーも58%の確率で機械化されるとのこと。これは確率ですからファイナンシャル・アドバイザー100人中58人が仕事を失うわけではなく58%の確率で100人が本来のファイナンシャル・アドバイザーとしての仕事を失うことになります。サンフランシスコ市のタクシー業界がウーバーによって壊滅的打撃をうけたように、変化は急速かつ急激に訪れるのですね。

対抗策はあるのか

先ほどの架空の話では、弊社のボスとITベンダーが勝ち組でした。すなわち機械に負けたくなければ機械を使う側に立たねばならないということになります。更にいうと機械を使う側に立つには資本と技術を持たねばならないということに… 機械が代替できない福祉と教育が聖域として存在し、残りのビジネスは資本家と技術者が高給取りで、それ以外は低賃金という世界。なんとも世知辛い。私もプログラミングの勉強始めようかしら…

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