香港カリスマ大家の金銭感覚

一見、金持ちに見えない金持ちが多い香港や中国。筆者の身近なところでも、とても質素な資産家の大家がいる。節約に励み、よく働き、優秀な息子を育てた彼女の価値観や教育論とは?

お金持ちに見えないお金持ち

ファイナンシャルアドバイザーの柳田です。「香港や中国の金持ちは金持ちに見えない」という話はよく耳にします。ヨーロッパですと、資産家というのはだいたい貴族の家系で、生まれた時から自然に身に着けた立ち振る舞いや着こなしからクラスを感じさせる人が多いですが、アジアではそうではないようです。日本人でも、クライアントと接していると、投資金額一億円以上ある方でも服装や持ち物は一見普通で、見た目でお金のあることをひけらかしているような方はいません。それが香港や中国の資産家となると、びっくりするほどに質素な外見であったりします。

香港の有名な資産家に李嘉誠(り かせい)という人がいます。香港の巨大財閥・長江グループの創業者です。中国本土で教師の家庭に生まれ、移民として香港に移った後プラスチックの造花の製造で成功し、その後は不動産や発電、通信、小売りなどあらゆる分野に進出し、香港経済において独占的な地位を築きあげ、フォーブス誌によると2017年時点で世界19位のビリオネアで、総資産は335億ドルとのことです。そんな彼も質素な服装で知られています。愛用の時計はシチズンやセイコーだそうです。

大家に見えない大家

私の身近なところでも、とても質素な香港人の資産家がいます。住んでいるアパートの大家さんで、60代の女性です。私のように外国人のテナントも多く、まるで香港の母のような存在なのでみんなから「マミーチョイ」と呼ばれ、慕われています。彼女はいつもちょっとヨレたTシャツに、ジムで履くようなナイロンパンツ、足元はマジックテープで止めるタイプのスポーツサンダルを履いています。おかっぱ頭をこげ茶に染めていますが、頻繁に手入れをしていないようで、いつも髪の根本が白くなってしまっています。その質素な外見からは想像もつかないですが、彼女の家族は香港島の中心、中環(セントラル)~上環エリアに100件程のアパートの部屋を所有し、SOHOエリアのハリウッドロードというおしゃれなカフェが連なる通りに骨董品店を経営しています。このエリアの物件は、50平米のアパート1室が1億円越えることも珍しくないことから、家族の総資産は軽く100億円を越えると想像できます。

マミーチョイは香港生まれ、香港育ちの香港っ子ですが、親戚はアメリカ、カナダ、イギリスなどに散らばり、ニューヨークでも骨董品店を経営するなど、さまざまなビジネスを行っているとのことです。そうやって一族が国境を越え、さまざまな国に散らばることでリスクを減らし、チャンスを増やし、資産を形成するというのは、いかにも華僑の文化です。

彼女が服装にお金をかけないことは外見からわかりますが、その他のことに関しても「ド」が付くほどのケチで、どんなことでも節約し、お金を使おうとしません。例えば、エアコンやコンロなど借家の備品が壊れた際は、大家に伝えると修理業者を読んで直してくれるのが普通ですが、彼女の場合は節約のために修理業者を呼ばず、自ら直しにきます。基本的な家電の修理や電気やガスの供給の仕組みなどは独学で覚えたということで、ほとんどのことは自分でやってしまいます。新しい借主にアパートを貸すにあたっては壁の塗り替えや床の掃除をしますが、業者や掃除人に頼めば時給70ドル~100ドル(1000円~1400円)ほどでやってもらえるのにも関わらず、絶対に自分で作業をしています。アパートの住人に請求する月15,000ドル~30,000ドル(20万~45万円)の家賃にしたらわずかな経費だと思いますが、それでもお金を支払うのがいやなようです。ある時、我が家のエアコン壊れてしまい、マミーチョイでも直すことができず結局業者に頼んで新しいものに付け替えることになりました。まだ暑い10月頃から再三頼んだにもかかわらず、おそらくエアコンの料金が割引になる寒い2月まで変えてもらえませんでした。付け替えの際には男性二人の業者が来たのですが、その際になぜか彼女は大家だという自分の身分をあかさず、大家のお手伝いさんを装って業者を手伝いました。作業料として「大家から預かった」という2000ドル(2万8千円)を支払った際に、なんと手伝ったお礼に業者から100ドル(1400円)をチップとしてもらって嬉しそうにしていました!業者の男性は親切心からチップを渡したはずですが、実は知らないうちに大家に代金を5%割引させられていたのです・・・。マミーの節約術恐るべし・・・・。

新たな経済力を生むお金をかけない教育法

実は、マミーチョイには、とても優秀な1人息子がいます。彼はイギリスのオックスフォード大学で博士号を取り、新卒で有名なコンサルティング会社マッキンゼーに就職し、その後通信会社でエンジニアとして勤務しているとのことです。私も何度かマミーと息子と一緒に飲茶をしたことがあるのですが、エリートにも関わらず謙虚で気遣いがあるとても感じのいい青年で、押しの強いマミーとは大分雰囲気が違うので驚きました。出費が嫌いな彼女が、息子の教育にはお金をかけたのでしょうか?いえ、そんなわけはありません。息子は常に成績優秀で、生涯にわたり6つもの奨学金を取ったため、学費を払ったことは一度もないと自慢していました。また、幼少期にはセントラルにある公立の図書館に連れていき、たくさんの本を読ませたとのことです。それも当然無料ですから、お金をかけない教育法の最大の成功例と言えるのではないでしょうか。ある時マミーチョイに、子どもの教育の上で大切なことは何かと聞くと、「たとえお金があっても子どもには言うな。一所懸命勉強して、一所懸命派働いて自分でお金を稼ぎなさいと言い続けなさい」とのことでした。やはり子どもが優秀になるのにはハングリー精神が必要で、それが新たな経済力を得るための実力になるのでしょう。

お金にまどわされない生き方を貫く

そのようにお金に厳しいマミーチョイでも、意外にいいところだなぁと思うのは、お金で人を判断したり、態度を変えたりしないことです。香港にはフィリピン人などのドメスティックヘルパー(お手伝いさん)が多く暮らしていますが、借主のヘルパーに対しても親切にし、対等に扱っているのを見かけます。また、職を失ってしまった借主に対しては、賃料を割引してあげたり、安い部屋に移るよう世話したり、職を紹介してあげたりと色々と親身になってあげているようです。独身の借主同士を紹介して結婚させたこともあるそうです。彼女自身の結婚について聞くと、「夫は公務員でお金はあまりなかったけど、自分が彼を愛するよりも彼は自分のことを愛してくれたから結婚した」という、素敵な話をしてくれました。

資産家になるには、無駄使いをせず、お金にまどわされずに、人を大切にして、よく勉強し、よく働く。そんな人生の教えを彼女は体現しているかのようです。我が家は、マミーチョイの家族の所有するアパートに住んでもうすぐ4年になり、この秋には2年ごとの契約更新が待っています。住宅相場が上がり続けている香港では契約更新の度に家賃を10~20%を上げられてしまい、引っ越さずを得なくなる場合も多く、同じアパートに住み続けるのはなかなか大変です。何とかマミーチョイとの交渉に耐え、引っ越しを避けて今後も彼女の教えをこえるよう、今から身構えているのでした・・・。

 

 

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