プライベートバンクが提供するサービスとは

資産運用だけではもはや差別化は難しい。付き合うプライベートバンクにどのようなサービスがあるかをあらかじめ知っておいたほうが良い

プライベートバンク、プライベートバンキング、ウェルス・マネジメント等の呼び方については、以下の投稿をご覧いただきたい。ここでは業態に関係なく、富裕層向けに金融サービスを提供するすべての事業体をひとまとめにして「プライベートバンク」と呼ぶことにしている。

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前回、利回りについて触れたが、本稿ではIFA含めたプライベートバンクではどのようなサービスを提供しているのかについて解説していきたい。

かつてのプライベートバンクが提供していたサービス

まず、本題に入る前に2000年代前半までのプライベートバンクが提供していた”サービス”は何だったか。

口座情報の秘匿

老舗のスイスのプライベートバンクは口座情報の秘匿性が売りであった。正式な裁判手続きを経ない限り、誰がその口座の保有者なのかを国を含めた第三者に開示されることはなかった。「報酬はスイスのプライベートバンクに」と言っていたゴルゴ13の世界である。しかし度重なる脱税幇助が明るみになり、スイスのプライベートバンクもOECDの税務情報交換フレームであるCRS(共通報告基準)の対象となり口座情報が税務当局に毎年筒抜けになっている。すなわち、この「顧客情報を秘匿すること」というサービスをプライベートバンクが提供することはもはやできない。

あなたが「資産を隠す」という目的でスイスのプライベートバンクを利用するなら、のちのちあなた自身に巨額の罰金や懲役刑が課せられる可能性がある。

ヘッジファンドやプライベート・エクイティへの投資

プライベートバンク・サービスを提供する各事業者はヘッジファンドやプライベートエクイティとの付き合いを減らし続けている。かつてはプライベートバンクがヘッジファンドやプライベート・エクイティに客付けしていたのが今ではプライベートバンク経由の客付けは大変に厳しい。

これには理由がある。ヘッジファンドなどの私募債は情報開示義務がないに等しく、投資をしたければブラックボックスに投資金を投げ入れるしかない。しかし昔は現在のように情報技術が発達しておらず、ヘッジファンドが得意とする裁定の機会、価格のねじれなど市場アノマリーが拾えたが、現在ではそれらは一瞬で是正される。勝てるヘッジファンドが少なくなってきているのだ。

ウォーレン・バフェットの「バフェット・チャレンジ」、ヘッジファンドがインデックスに勝てるかというチャンジで9年間でS&P500(=インデックス)が85%のリターンを上げたのに対しヘッジファンドはわずか22%だったという。

Buffett Challenge, hedge funds vs. index funds, 9 years on

ヘッジファンドやプライベート・エクイティには「1億円預けて、秘密の投資クラブへの参加権を得て、リスクなしで年利20%!」みたいなイメージを持ってらっしゃる方もいるが、現実は誰でも買えるインデックスに連動するファンドやETFを選択したほうがより儲かるのだ。

「プライベートバンクなら、そういった優秀なヘッジファンドを選んでくれるのではないのか」という向きもあるだろうが、それも間違いだ。もしプライベートバンクが卓越した能力をもって優秀なヘッジファンドを選択できる能力があるとすれば、プライベートバンク自身が組成したヘッジファンドもまた卓越した成績を残すはずだ。しかしUBS、ピクテ、クレディ・スイスなどが自身で組成したヘッジファンドを2,3みてみると分かるが、月並みな成績しかあげられていない。自社で運用しても月並みなのに、どうして他社が運用するヘッジファンドをより良く見分けられよう。

事実として中小のプライベートバンク、IFAなどでは販売手数料稼ぎのために中身のよく分からないヘッジファンドをポートフォリオに組み込んだりしているが、「中身の分からないもの」が優秀であるとは限らないし、むしろ逆なことが多い。

ただ世の中にはとんでもなく優秀なヘッジファンドは存在するし、それに投資をしている機関投資家もいる。たとえば「ハーバード大学基金のような機関投資家はポートフォリオにおけるヘッジファンドの割合は半分以上」みたいな記事を読むと「なるほど。自分もヘッジファンドにチャレンジしてみるか」となるだろうが、1ロット数百億円規模の機関投資家と個人投資家を並べて語るには無理がある。

そしてプライベートバンクがヘッジファンドやプライベート・エクイティを紹介しなくなったのにはもうひとつ理由がある。中身が分からないものにクライアントのカネを投資させて、後から訴訟問題にでもなったら大変だからだ。HSBC香港はかつてリーマン・ブラザーズの社債とリンクした金融商品を「安全なもの」と大した説明もせずにクライアントに販売していた。リーマン・ブラザーズ破綻後、額面のわずか数%しか返金されないと知った投資家は激怒し銀行前で毎日シュプレヒコールをあげ返金を叫んだ。HSBCはその後50億円以上の罰金を食らい、投資家にもいくばくかの投資金を返済することになる。これは担当者レベルで商品リスクを理解していなければ、金融機関にとって制御不能なリスクになる、という好例だ。富裕層といっても金融リテラシーが備わっているとは限らない。そのような投資家に中身の分からないものをオススメするのはリスクが高い。

必然的に、プライベートバンク利用客に対しては複雑な金融商品は提供しなくなる。これは利回りの点で顧客のためになるし、コンプライアンスリスクを低減したい金融事業者のためでもある。

そしてプライベートバンクに口座を開設できるくらい資金ボリューム、USD1-2mがあれば、必然的に分散投資がなされる。投資国分散、アセットクラス分散、セクター分散など基本的な分散をしていればきちんとしたポートフォリオになる。あとはリスク許容度や好みに応じて現物を増減させたり株式/債券の割合を増減させたりするだけだ。

またリーマンショック以降、クライアントのほうでも「分かりやすい投資先」を選好する傾向にある。ヘッジファンドだけでなく、仕組債などデリバティブも中身が分かりにくく、クライアントからも敬遠される投資先である。

分かりやすい 現物株式、現物債券、ファンド(アクティブ、パッシブ)、ETF、不動産
分かりにくい ヘッジファンド、プライベート・エクイティ、金融派生商品(デリバティブ)

以上のようにプライベートバンクといっても「富裕層しか買えない優良な投資先」はなくなった、と言ってよい。先ほどバフェット・チャレンジでもあげたとおり、優良な投資先はヘッジファンドではなくインデックス投資だったりするのだから、富裕層の投資先もシンプルなものに回帰していくの当然だ。そしてシンプルなものはプライベートバンクでなくても買えてしまう。

まとめ

以上のようにかつてのプライベートバンクの専売特許であった口座の秘匿性は失われ、資産運用でも市井の金融サービスと差別化できなくなっているのが現状だ。

プライベートバンクが提供するサービス

以前は口座情報を隠すというサービスを提供していれば、プライベートバンクに富裕層マネーが集まってきた。プライベートバンカーはダブルのスーツを着て「信頼できる人間」としての雰囲気を醸し出せばクライアントに「俺もひとかどの人物になったな」なんて思わせて仕事になった。

しかし昨今、資産運用以外のサービスを明確に打ち出していかないと富裕層を囲いこめなくなっている。

しかもこのごろの富裕層は金融サービスに対して大変シビア。「証券会社はIPO支援はしてもらったもののプライベートバンクは別のところを選ぶ」というようなアラカルト形式で金融サービスを選択している。かつては融資も資産運用も上場も銀行そしてその銀行系列の証券会社で完結、いわばズブズブの関係だったのは今は昔。

もっともこれには理由がある。日系の都銀では低金利のせいで融資から資産運用への手数料商売にシフトするにつれ、適合性の原則を無視したあらっぽい営業を強行し顧客離れが進んだ。客のほうも本気で資産運用するつもりはなく、そういった銀行の販売手法を知りながら「低利で融資してもらってるし、お付き合いで」金融商品を買っている。本気の資産運用は別で、となるのは当然だろう。

世界はフラット化し、伝統あるプライベートバンクですらも「そこに存在するだけで」商売を成立させることが難しい。ここでは、投資銀行・証券系、商業銀行系、老舗系、IFA系と各事業者ごとに「これが特徴的なサービスだ」といえるものをあげていく。

投資銀行、証券系 – IPO、M&A支援

もともと彼らの本業であるIPOやM&A支援など投資銀行業務を通じてクライアントを仲良くなり、その延長としてプライベートバンク・サービスが存在する。彼らにとってはそもそも本業のほうが彼らにとってバリューチェーンの起点であり、プライベートバンクはそれに続くサービスということになる。

プライベートバンク単体としてのサービスは、IPO株の割当や株式や債券の発行企業体の詳しい情報の提供があげられるだろう。

商業銀行系 – 事業支援

銀行目線からのバリューチェーンで見ると、融資先が事業に成功して金持ちになり社長をプライベートバンクサービスに勧誘するという流れは当然すぎるほど当然に思える。しかしグローバルバンクや都銀では商業銀行だけでなく証券、信託とユニバーサルサービスを展開しているのにもかかわらずセクショナリズムが顧客体験の向上を阻んでいるようだ。

しかし、商業銀行の融資担当からプライベートバンカーになるなど事業に対して豊富な経験があるのでいわばコンサルタントのような立ち位置でサービスを提供してもらうことができるだろう。

外銀のプライベートバンクでは、この「事業支援」がやや弱い。なぜなら外銀プライベートバンクは事業に融資することはないからだ。

老舗系 – グローバルな子女教育

スイスやイギリスのボーディングスクールに入学するためには、試験を受験するだけでなく卒業生の紹介状が必要になることもある。老舗のプライベートバンクにはそういった学校に入学するための手続き一切を代行してくれる委託業者がスタンバイしており、学校の選定はもちろん住まいやビザまで手配する。むしろ子女教育サービスを利用したいがためにそのプライベートバンクに口座を開いたりすることも多いだろう。

IFA系 – 資産承継、事業承継

IFAはその名のとおり金融事業者から独立しているため、様々な金融サービスを取捨選択できる立場にある。したがって自社商品しか売れない他の事業者よりもよりクライアントと近い立場にいることができる。家族や事業の問題は繊細な場合が多いし、何よりも息の長い作業だから担当者が変わる、ということはあってはならない。また景気によってプライベートバンクの日本デスクごと消滅したりする金融機関と違って、IFAは景気に左右されにくく同じ担当者が同じ顧客にサービスを提供し続けられるというメリットがある。IFAが一族の繁栄をサポートする「ファミリーオフィス」として機能するのも、そういった理由による。

アメリカの銀行でも、銀行内部のプライベートバンク・サービスでは顧客満足度を高められないのでIFAを子会社化し、銀行の雇用慣行や人事制度に左右されない富裕層サービスを行ったりしている(例: アメリカBMO銀行におけるHarris My CFO)。

その他のサービス

富裕層にとってはあまり優先度は高くはないものの、プライベートバンクが提供している他のサービスをあげておこう。

ブラックカード

アメックスのブラックカードを発行するところもあり、かつてはそれをウリにするプライベートバンクもあったが富裕層のほうがブラックカードに価値を置かないようになってきている。新興諸国のリッチ層はブラックカードを持ちたがるが、日本を含めて先進国の富裕層は自分が富裕層であることを隠したがる傾向にあるからだ。

オークション代理

弊社にも時々依頼が舞い込む。香港のオークションはアジアでは東京よりもずっと規模が大きいため商いが成立しやすい。美術品はもちろん宝石、時計、ワインなどもオークションの対象になる。サザビーズやクリスティーズなどのオークションハウスでは取引アカウントが必要なため、弊社がこれを代行する。

トラベル・コンシェルジュ

予約の取りにくいレストランや、世界の絶景などへの旅行を手配する。ただ、アメックスのコンシェルジュサービスに電話すれば手配が完了するし、最近ではテーラーメイドのビスポーク・トラベル専門の旅行会社が充実しているためこのサービスを提供しているプライベートバンクは少なくなっている。

クライアント同士の交流

かつては情報を秘匿することがプライベートバンクのサービスであったため、クライアント同士を引き合わせる、なんてことは到底考えられなかった。しかし当社でもクライアントに「こういう人いれば紹介してくれないかな」と言われたら、該当する人物と引き合わせることはある。弊社を通じることで信頼が担保され、当人同士で新しいビジネスが生まれたりもする。

サービスまとめ

プライベートバンクの資産運用サービスに荒唐無稽な利回りを期待することはできないし、プライベートバンクのほうでも資産運用を売りにしているわけではない。ご自身が資産運用を入り口として何を欲しているのかを、事業者のサービスメニューに触れながら知るべきだろう。

QRコード https://amgwm.jp/2SUb7M7

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