低金利・選択肢の乏しさ・リスクを恐れない個人投資家
低金利状態では、金融資産はリスクを選好するようになる。タイミングさえよければ暴騰にのって大きなリターンを得られるかもしれないが、それはごくわずかだろう。
いまだトランプは敗北宣言をしていないが、バイデンが新しい大統領になることは確実な情勢だ。バイデンはオバマ前大統領のもとで副大統領だったが、かつてはリーマンショック直後を、そして今はコロナショック後を経験している。しかも2014年、いまだリーマンショックの傷が消えないなかで連銀議長に就任したジャネット・イエレンを財務長官に迎えるという。
このハト派な布陣で政権運営にのぞむということで金融市場は大きく沸いている。ハト派であるだけに低金利・ドル安傾向が当分の間続きそうな勢いだ。おっして低金利状態であるということは、上場企業の株式買い戻しが加速するし本来なら市場から撤退しなければいけない企業でも低金利で資金を調達できることもあり市場にはネガティブなニュースは出にくい。また個人投資家の、「市場の上昇に乗り遅れたくない」という感情いわゆるFOMOも手伝ってよほどの悪材料が出ない限りは、底堅そうではある。
S&P500銘柄に入ったテスラは年初来よりほとんどこの個人投資家の情熱だけで何倍にもなった。株価収益率(PER)はもうすぐ1,000倍を突破している。ふだん見ているほとんどの株式のPERは数倍からよくて数十倍のレンジでしか見かけないが、もはやイーロン・マスクが経営するSpaceXのロケットのようでもある。
日本も通った道
これだけ投資家がリスクに対して寛容になっているのは、この低金利のなかでもはや何かを冷静に判断することが難しくなってきていることを示しているのかもしれない。テスラは間違いなくイノベーティブな企業だが、同じくイノベーティブなGoogle(Alphabet)でもPER30-40倍である。
低金利下では、マトモに分析してより良い投資対象を見つけるのが難しくなる。銘柄選択ができないなら、いっそのこと選択はあきらめてインデックスでも買っておくか、となるのが人情だ。しかしそのインデックスも今は絶好調だがこのコロナ不況の影響が完全に織り込まれているとも思えず変いづらい。
日本の投資家もこの数年で特に海外に投資をするという傾向が続いている。華々しくデビューした個人向け国債も保有割合はずっと落ち続け、そのかわり株式、ファンド、そして海外投資とリスクのある資産保有割合が増えてきた。

保有資産が増えなければ「もっと他によりよい投資方法はないか」と探してしまう。これは日本もかつて低金利後にFX投資が流行したこととダブって見えてしまう。
ビットコインとFX
当時「ミセス・ワタナベ」という言葉が流通していた。円売り・ドル買いが主婦が動きやすいお昼に集中したから、らしい。その後のリーマンショックの後に訪れた2011年の円高でミセス・ワタナベは市場から存在感がなくなった。また高レバレッジ規制によりそもそも取引をする人たちが少なくなったのもある。
そもそもミセス・ワタナベが登場したのは日本国内景気がバブル崩壊後パッとせず、低金利が続き、国内でなにか金融商品を買おうにも魅力的な選択肢がなかったことによる。香港での海外投資ブームも金融ビッグバンともあわさってこのころから始まった。
それと同じような状況が、今後全世界的な現象となるのではないか。もちろん、リスクを承知で市場に参加するのであれば全く問題ないが、たいていの個人投資家はその金融商品にどういったリスクが内在されているのかを判断できない場合が多い。
2007年当時の私のクライアントで、FX投資にハマっている方がいらっしゃったが「日米でこれだけの金利差(当時は日本がゼロ金利、アメリカが5%)なんだから円安ずっと続くっしょ~ 円売りドル買いでしない人ってバカなの? w」と煽り気味で言っていたが、その数年後には「x千万円が吹っ飛んだ。もうFXからは卒業」とおっしゃっていたのが印象に残っている。
当時、2倍前後の低いレバレッジのものであればFXでの投資… というよりも長期の資産運用としてアリかなぁなんて個人的には考えてはいたが、すでに状況が大きく変わってしまった。アメリカもすでに低金利となっており、為替リスクをとってまで運用するかというと難しい。
全世界的に低金利であるので、当時日本で起きたことが世界的に起こっている。ビットコイン価格の急騰もそうだろう。ゴールドと同じく供給量が限られ価格を裏付けるためのキャシュフローがないという点では同じではあるが、世界中にミセス・ワタナベやミスター・ワタナベが登場して仮想通貨マーケットを動かしているのではないか。

ただ、これもかつてのミセス・ワタナベと同じような感覚を覚えるのは私だけではないはずだ。低金利、金融商品の選択肢の乏しさ、そしてリスクを恐れない個人投資家。うまく売り抜けられればいいが、こういった場合は往々にして大きなリターンをあげられる投資家は多くないのが実情だ。グラフだけみるとビットコインを買った人が全員儲かってても不思議じゃない気がするが、実際に儲かった人はこの相場ですら半分もいないのではないか。
では何を買えばいいのか…
私どもなら、VIX(恐怖指数)が下がっている今次の暴落まではそんなには時間がかからないと考える。なので弾=現金を少しずつリスク資産に変えつつも、今年の3月のような相場がくるのを淡々と待つ方向でいく。