新財務長官イエレンが考えていること

新・財務長官に任命されるジャネット・イエレン。彼女の手腕は2018年までの連銀議長で高く評価されている。

新財務長官となるジャネット・イエレン。女性で初の財務長官となるばかりか、連銀・財務長官と歴任することとなる。2018年の2月まで連銀議長だったので、このブログでもずいぶん取り上げさせてもらった。特に連銀の膨らんだバランスシートをどう縮小していくか、また金利をどう正常な水準に戻すかについて金融市場は彼女の言動ひとつで一喜一憂した。「イエレンが何を発言するか」についての予測サイトや、市況について強気なのか弱気なのか、前回の発言から比較してどういう変化があったのかをAI解析して資産運用に活かすというファンドまで現れた。

定量的な分析はしていないものの、パウエル議長にバトンタッチしてからというもの、かつてのイエレン時代よりも連銀の役割は低下しているかもしれない。もはや低金利・超緩和というのがニューノーマルになってしまい、もはや市場が反応しなくなった結果なのかもしれない。

バイデン新政権は開始早々、コロナ対策という大変重たい任務を最初から背負わされるわけだが金融市場はバイデン大統領の動向と同じくらい、イエレンの動向にも注視するはずだ。そこで、新しい財務長官となるイエレンが今後どのような行動をするのか、分かっている範囲で確認していきたい。

コロナ対策

すでに1.9兆ドルの予算で「アメリカン・レスキュー・プラン」が議会で承認されている。合計でUSD2,000の家計への補助金や家賃のモラトリアムを含む。アメリカは日本とは比較にならない規模で感染者・死者ともに発生しているので、これほどの規模の下支えが必要になるのだろう。

政府債務

政府債務についてはイエレン本人が「Right now, with interest rates at historic lows, the smartest thing we can do is act big」すなわち歴史的な低金利下では大胆に行動して政府支出を増やす絶好のタイミングであると発言することが予定されている。ただし「どれくらい増やすか」までは言及していないこともあって、今後議会でこの点が追及されることになるだろう。

アメリカの負債も増加の一途をたどっていて、GDPの100%を越えようとしている。ただしホワイトハウスも議会も民主党が掌握しているため債務上限問題で「公務員に給料が払えない」みたいなことは起こり得ないだろう。なので政府債務については緩和的な措置がとられると考えられる。これは金融市場にとってはプラスとなる。

連銀との連携

イエレン議長時代の2014年から2018年まで、「イエレンはハト派かタカ派か」という議論がよくなされた。ざっくり言うとハト派は緩和派であり、タカ派は緊縮派である。連銀の仕事は物価の安定と雇用の維持だから、金利の上げ下げや財政出動はあくまでそれらを達成する手段なのでハトなのかタカなのか本人に聞いても困るだろうが。

トランプ政権下の財務長官、ムニューシンがパウエル議長とどれだけ密にコミュニケーションをとっていたかわからないが、トランプ本人がパウエル議長をクビにする方策を考えていたことからあまりいいコミュニケーションが取れていなかったのではないかと推測される。

しかしイエレンとパウエルは考え方も親しく、調和のとれた連携をすると考えられる。その連携を文書化し、いわゆる財務省・連銀の共同のフォワードガイダンス的なものがでてくるかもしれない。

Former Fed Chair Yellen Makes Great Treasury Pick in Era of Coordination – Bloomberg

通貨政策

財務長官に就任した後は「市場バランスの為替レートを支持し、輸出高揚のためのドル安をあえて追わない」という宣言をするという。就任後、どういう演説を行うかというのがすでにレポートとして出回っていて、通貨政策については穏当なものだ。ドルが今後も安くなるかについては意見の分かれるところだ。一方的なドル安はどこかのタイミングで必ず巻き戻るだろうが、それがいつになるか分からない。

また財務省は、アメリカの主要貿易取引国の通貨操縦を随時確認している。そのなかでも中國は2019年8月から2020年1月まで為替操縦国として認定している。最近ではスイスとベトナムが操縦国認定されていた。

対中国

中国に対して、イエレンがこれほどまでに強い口調になっているのは連銀議長時代には見られなかった。「すべてのツールを使って中国の濫用的な行いに対処する」としており、バイデン政権下では軟化すると思われた対中国に対する態度だがトランプ時代とそう変わらないことになる。

Biden Team Hints at Keeping Trump’s Tough Line Toward China – Bloomberg

連銀は国内の雇用・物価の安定を目指す部署であり財務省は国内のみならず国外の通商に関わる。職務領域が大きく違うので、イエレンが中国とのビジネスについて何かを言うのは不自然ではないのだが、まさかこんな厳しいトーンになるとは思っていなかったというのが正直な感想だ。米中貿易戦争はますます終わりが見えないことになる。

税制

法人税については、バイデンが主張する21%→28%の引き上げにイエレンが反対していることもあってすぐにはまとまりそうにない。法人税の引き上げがアメリカの競争力を削ぐことになるということらしい。ただし、税率以外のところで企業税制が企業にとって厳しくなるかもしれない。また富裕層に対しても認められてきた減税政策が認められなくなる。

まとめ

対中国ではトランプ政権下での政策が引き継がれ、その他の経済政策では大きな政府を目指すという民主党寄りの政策がとられるようだ。大胆な緩和が続けば、金融市場にとっては追い風となるだろう。

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