中国人旅行者が世界を変える

2016年には1億3500万人が海外を旅し、数年後には2億人にものぼると予想される中国人旅行客。世界中で影響力を強める彼らに熱い視線を送る旅行業界について、香港の新聞記事をご紹介。

日本の百貨店や小売、観光業はもはや中国人観光客なしには成り立たなくなっていますが、それは世界中で起こっている現象のようです。香港の新聞South China Morning Post(SCMP)のオンラインに「How Chinese tourists are changing the world」という記事が掲載されていて、興味深かったので内容をご紹介します。

昨年は海外旅行が1億3500万件に

World Tourism Organisation (UNWTO,世界観光機関)によると、中国では毎年国内旅行件数が44億回に上るが、2016年の海外旅行件数は1億3500万件だった。2010年より毎年二桁増で伸びているので、この数字はまだまだ氷山の一角。パスポートを保有しているのは、まだ国民の6%だけなので、数年後には2億人の中国人が海外を旅するようになると見込まれている。しかも、この数は香港とマカオからの観光客を除いた数字。昨年度の中国人観光客による総支出は2611億USドル(約29兆円)で、1人当たりの支出も国際平均の2倍程なので、中国人旅行客の各地の経済における重要度は増すばかり。

中国政府が国民に対して渡航してよい国や地域を許可する「Approved destination status (ADS)」は1983年11月に始まった。まず試験的に、広東省の人が香港とマカオに旅行する許可がおりた。そして5年後にタイが加わったが、これはタイに親戚がいる人のみが対象だった。UNWTOによると、2000年の海外旅行件数は1047万人のみで、出張や海外の親族に会うための旅が主な目的だった。2004年にはほとんどのアジアとヨーロッパの国がADSに加えられた。中国の急激な経済成長によって海外旅行数は2009年に爆発的に伸び、2014年には1億人を越えた。「このような急激な成長は過去にも未来にも見ることはないだろう」とUNWTOのディレクターは語っている。

世界中が誘致に躍起

European Travel Commission(欧州旅行委員会)のディレクターは、中国人が欧米人とは違った時期や場所に旅することに注目して、観光業界の広がりに貢献すると期待する。例えば、中国で連休のある5月1日の週、10月1日の週、旧正月などは、欧米人が通常旅行しない時期だ。また、目的地も欧米人の好みとは異なり、例えばドイツならベルリンやフランクフルトではなくて、マルクスの故郷トリーアという町の人気が高い。著書「資本論」で資本主義を批判し、共産主義国思想に大きな影響を与えたマルクスは、中国では教科書でおなじみの人だという。

UNWTOのメンバーでマレーシアのテイラーズ大学の観光学教授が語るところでは、アジア開発銀行によると中国の中産階級は2030年までに11億人なるとみられ、新たな旅行先や目的地が必要になり、ニッチな分野ですら大きなビジネスになる可能性がある。例えば、ドイツではスキーの人気が高く、人口の4分の1にあたる1400万人がスキーをするが、あまりウインタースポーツの人気のない中国では人口のわずか1%程。それでもドイツのスキー人口と同じ数になる。

南太平洋のバヌアツや、サファリパークのあるアフリカのジンバブエ、ブラジルなどの南アメリカなどの国々も中国人観光客に注目しており、各国が空港の整備やビザの緩和もしくは廃止などをして、積極的な誘致を行っている。

マナーの悪さへの対応は

中国人のいわゆる「爆買い」は現地の経済に与える影響が大きく、旅慣れてない旅行者のマナーのない行動には不満の声も多い。そこで、中国人観光客に人気の国タイでは、様々な対中国人対策をしているとタイの観光大臣は語る。「昨年タイを訪れた3285万人の観光客の中で、中国人は870万人でしたが、今年は9月の時点ですでに600万人を越えています。中国人は突出して1番大きい数です。でも、私たちは観光客の数よりも質にこだわっています。」マナーの良い旅行客が欲しいので、「ゼロドルツアー」と呼ばれる安いツアーは去年禁止し、大きなグループでのツアーも自粛するよう求めている。 中国でヒットした映画Lost in Thailand (2013年)の舞台となったチェンマイ大学にたくさんの中国人客が押しかけて問題になった際には、大学の周りに観光ルートやトラムを整えて、邪魔にならないように観光してもらうことができるようにした。

中国人の観光客は、うるさくてマナーがなくてがさつだという評判はあちこちで聞かれる。フィリピンのバラカイ島のあるホテルの支配人は、「中国人は成金で、人を動物のように扱い、いろいろ注文をつけても一切ありがとうと言わない。ビュッフェで食べものをめぐって争ったりちらかしたりする。」と不満を漏らす。

その対策として、UNWTOのディレクターは、観光地は資源とマーケティングを活用し、ちょうどいいバランスで様々な国から観光客を迎えられるよううまくタイミングと場所を分けることを推奨している。また、UNWTOの事務局長は「多くの中国人は学ぼうという姿勢がある」と語る。今年「Travel, enjoy, respect’ for the International Year of Sustainable Tourism for Development in 2017」というスローガンを掲げた啓蒙活動には中国政府も協力しており、パンフレットを作成し、ブラックリストにのった観光客には旅行前の授業も実施している。

タイでも中国大使館の協力を得て、していいことと悪いことを伝える標識を設置している。「その土地の習慣に従わなくてはいけないのは中国人だけではなく、迎える側もコミュニケーションの方法を学ばなくてはいけない。」と観光大使は語る。

古い世代とは違うミレニアルズの旅スタイル

UNWTOの事務局長も、若い世代の中国人の旅のスタイルは、古い世代とは全くことなると指摘する。古い世代の中国人はグループで旅行し、環境に配慮せずホテルを汚く使ったりする傾向があったが、若い世代は変わってきていて、全体のすでに25%は個人旅行だという。UNWTOのレポートによると、中国人ミレニアルズは、旅行で買い物するよりも現地のライフスタイルを体験することを重視している。携帯電話を駆使して、現地の情報を取集し、オンライン決済で買い物する。旅での高価な買い物を楽しんだ世代から、現地の文化や歴史を学び、貴重な体験をすることを重視する世代に旅の主役が移ってきている。モルディブのビーチでも、4年前にはいなかったビーチで日焼けする若い中国人が今はたくさん見られている。

各地の観光地が中国人客に頼りすぎることにはリスクもつきまとう。中国政府によって、旅行客の増減を政治的に利用される可能性があるということが指摘される。実際、日本とフィリピンが中国との間で政治的摩擦があった時に観光客が引き上げてしまったケースがあり、今年も韓国でのアメリカ製ミサイル配置の問題をめぐって中国と対立し、中国から韓国行きのツアーがキャンセルされ、韓国も経済的に痛手を被った。

それでもUNWTOの事務局長はいう。「好きか嫌いか関係なく、中国が観光の未来である。それを背に向けることはできない。」


以上、記事の要約でした。中国人旅行客の影響力、ものすごいですね・・。日本の人口をはるかに超える2億人の海外旅行客を獲得するために、他の国に負けないよう、やるべきことはたくさんありそうです。街中での無料Wi-Fiサービスやモバイル決済などの整備はアジアの他の国に遅れているように感じます。文化・歴史を感じてもらうプログラムや体験型ツアーは最近増えているようですが、まだまだ新しいビジネスモデルはいくらでも作れるのではないでしょうか。東京、京都、北海道などの主要観光地だけでなく、地方の小さな町や農業・漁業の分野でも開拓の余地が多そうです。

おまけ:最悪の旅行客はどこの国?トップ7

面白い記事をもう1つ。hotel.comが行った2015年の調査に基づいて書かれた「Who are the world’s worst tourists? Six nations that stand out – you may be surprised」とう記事をちょっとご紹介します。旅行先でマナーの悪い国ランキングのトップ7です。

1.中国⇒前述のとおり。

2.イギリス⇒お酒を飲むとタチが悪い?

3.ドイツ⇒クレイマー?

4.アメリカ⇒現地の文化をわかってない?

5.イスラエル⇒失礼?

6.ロシア⇒不愛想?

7.もっとひどいのは・・・自国の国内旅行客という声が多数あったそうです!

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