IFA移管、3つのヒント
お問い合わせの多いIFA移管について。移管を進めるにあたって知っておくべきこと、IFAに確認するべきこと。焦って解約しようとしないこと。
金融商品は野原に落ちているわけではない。会社を媒介して購入する。購入の際には金融商品を仲介する立場の会社・人がいるはずだ。本稿では金融商品を媒介するファイナンシャル・アドバイザー(IFA)を通して契約した場合の移管について説明する。
そもそも、IFA移管って何?
IFAを通じて金融商品を購入する場合、金融商品を提供する会社(口座のある会社)とクライアントとの中間にIFAファーム(IFAが所属している会社)が媒介として存在する。投資家は、IFAを通じて間接的に金融商品を購入するのだ。金融商品を提供する会社が直接投資家に販売をしないのか。そういう会社もなくはない。しかし大部分が、金融商品を「作る会社(口座)」と「売る会社(IFAファーム)」の明確な役割分担されている。得意分野の住み分けである。
ちなみに、IFAをアドバイザー個人のこと、IFAファームをアドバイザーが所属している会社のことを指す。
そのIFAを移管するとは、口座とクライアントとの関係はそのままにIFAを入れ替えてしまうことを意味する。異なるIFAファーム(アドバイザーが登録している会社)に所属しているIFAにその金融商品を紐付けるということになる。
IFAを移管するにあたって、知っておきたい事実が2つある。この2つの事実を知らないためにIFAの移管を思いつきもしないか、あるいは思いとどまってしまうことがあるからだ。
IFA移管をしても、金融商品は解約されない
IFA移管しても、金融商品と旧IFAとの関係が解かれて新IFAが新たに紐づくだけだ。移管によってその金融商品も自動的に解約されることにはならない。
旧IFAに新IFAの名は通知されないが、IFA移管の事実は通知される
無用のトラブルを避けるための措置である。仮に旧IFAに新IFAの名前が通知されるとなると、新旧IFA同士でいさかいが起こらないとも限らない。また、「紹介してくれた人に角が立つからIFA移管はしない」という方もいらっしゃる。気持ちはわからなくもないが、投資は紹介者のためにするものではなくご自身のためのものだということを思い出して頂きたい。
ただし、旧IFAが移管の事実を知る必要はある。IFA移管が行われたのにもかかわらず、サービスを継続する必要はなくなるからだ。
以上、2つの事実を知っていただいた上、新しいIFAから良いサービスを受けられるようにするためにも3つのポイントを列挙する。
ポイント1. 冷静になる
IFA移管を検討しているクライアントは、切羽詰まっていることが多い。たとえば住所変更したいのに現IFAに連絡が取れない、現在運用中のポートフォリオについての疑問に対して説明が受けられず不安、などの状態に陥っている場合だ。何のきっかけもないのに、IFA移管を検討したりはしないのだ。
そんなところに、新しいIFAがひょこっと現れて「IFA業務を引継ぎます」と言われれば飛びついてしまうのが人情というもの。中には、高額な料金(おそらく事務手数料という名目、5万円から20万円)を支払ってでもIFAを変更したいと考えるクライアントもいるだろう。
しかし、よく考えて欲しい。IFAはそこらじゅうにいる。困っているところにたまたま出会ったのがそのIFAであるだけで、そのIFAが人生で出会う最後のIFAであるはずがない。いったん冷静になってネットで探すなり、詳しい方に聞いてみるなりしてIFAを探す努力をするべきだ。その労を惜しんでいては、また同じようなトラブルに巻き込まれないとも限らない。
ちなみに香港には日本人IFAは何人くらいいるのか。残念ながらIFAの国別統計がないので推測するしかない。香港の人口が730万人、現在IFAとして登録している数が香港全体で9500人で、香港在住の日本人数が2.7万人だから、人口比でいうと香港にはおよそ35人程度は日本人IFAがいる計算となる(実際に調べたわけではないが、実感としては大きく外れてはいないと思う)。
もし英語が達者なのであれば、わざわざ日本人IFAを選択せずとも良いことになる。すなわち9,500の選択肢がある。
ポイント2. 手数料体系 / 運用ポリシーを確認する
IFAファームの手数料体系は画一的なものではない。もっというと、同一IFAファームの中のアドバイザー個々人ですら異なることがある。
手数料を高くする代わりに手厚いサービスが受けられるのか、その逆か、あるいはそのどちらでもないのかを確認する必要がある。移管後に言った言わないでモメないためにも手数料体系は確認しておくべきだ。
また、どのようなポリシーでポートフォリオを決定しているのか等の運用ポリシーを聞いておく。ファームによっては特定の市場に偏った運用をしたり(たとえば中国など)、頻繁に売買をしたりするところもある。
過去の運用成績は気になる項目なので聞いてもいいが、話半分にとどめておくべきだ。なぜなら、IFAファームはファンドハウスとは異なり毎日値洗いをしているわけではなく、仮にしていたとしてもそれに対して監査法人のチェックが入るわけでもない。どのような数値を言おうが裏の取りようがないのが実情だ。
ポイント3. 最初から解約するつもりならそう伝える
IFAファームの中には移管を全く受け付けないファームがある。それは違法でも意地悪でもなんでもなく、単にビジネス上の判断でそうしているだけだ。
なぜか。金融商品の販売手数料は販売した旧IFAが全額受け取るのため、IFA移管を請ける新IFAには経済的に動機がないからだ。そればかりか、旧IFAで様々な問題を抱えたクライアントが来るので新規で金融商品を販売するよりもむしろ難しい部分がある。たとえば、契約時に受けた説明が正しいものではない場合、新IFAはその軌道修正をしなければならない。
よくあるパターンは旧IFAで「年10%儲かります!」と聞いていたのだけど実際にそうならなかったから新IFAに移管しようとしている場合だ。この場合、クライアントが「よく考えれば、年10%儲かることが分かってるなんてあり得ないよね、そんなおかしな説明をするIFAよりも正直なIFAを選びなおそう」と理解した上ならまだしも、「年10%を達成してくれるIFAはどこにいるんだ」と誤解したままでいると状況は一変する。新IFAはイチから「資産運用とは」「金融市場とは」を説明せねばならない。この苦労は新規で顧客を獲得する以上だ。
さらに、移管直後にクライアントがその金融商品を解約したりすると新IFAの金融商品提供元からの信用が下がる。IFAファームは金融商品提供元からポイントで管理されており、解約が続いて一定のポイントを下回るとその商品を販売できなくなってしまうこともある。解約の引き金(運用成績が悪い、連絡が取れない、など)が旧IFAにあったとしても、だ。IFAも営利企業である以上、お人好しで次から次へと移管を受け付けていてはビジネスの継続が難しくなってしまうのだ。
しかし一方で、移管を受けいれることにビジネス上のメリットが全くないわけではない。
- 移管したクライアントに異なる商品を販売するチャンス
- アドバイザリー・フィーを得る可能性
- 新しいクライアントを紹介してもらえる可能性
このようなメリット / デメリットの間でのせめぎあいがあるので、条件付きで移管を認めているIFAファームがいくつも存在する(弊社AMGもそのうちの一社)。ちなみに、何の条件もなく移管を認めているところもあるが、そもそもライセンスあるIFAではなく単なるサポート業者である場合がほとんどなので注意が必要だ。
論理的には、移管が完了したら新IFAに証券に関してどんなリクエストを出すことも自由だ。しかし移管を悪用し、投資資金を引き上げるためだけにウソをついて移管が完了したとたん解約してしまう方が少なからずいらっしゃる。
たとえば、弊社AMGで積立投資のIFA移管を受け入れるための条件として”過去5年以上積立を継続していること”また”将来積立を継続する意思があること”があるが、5年に遡って弊社で裏を取ることは可能だとしても将来積立を継続する意思があるかどうかは移管時に判定することは困難である。結局はクライアントが”継続する意思がある”といえば移管を受け入れることになる。
直後に経済状況が変化し、泣く泣く解約したりしなければいけない事情もあるだろう。しかし、IFAとしての私たちの経験から言うとそういった事象が発生するのはまれであり、次々と起こることではない。
移管を受け入れたクライアントからの解約発生が統計的に有意なほど平均値と乖離していれば(実際そうなのだが)、それはクライアントの一定数がウソをついていることになる。
IFAは新しいクライアントであれ移管するクライアントであれ、信用関係を構築したいと考えている生身の人間だ。それも、わずかなビジネスメリットを期待しながら。この”ウソをついているクライアントが一定数いる”という事実に向き合うのは辛い。こういったことが積み重なると「今後IFAファームとして移管は受け付けません」ということになる。後に続く、IFA移管を真面目に検討する人の可能性を奪うことになるのだ。
もしIFA移管後の投資計画がなく、単に解約をしたいだけなのであれば。解約の仕方を教えてくれる業者もいる。「正直は最大の戦略である」とは社会学者の山岸俊男の言葉だが、IFAを選択する場面でもこのことは当てはまる。正直に自分が何をしたいのかを伝えてくれれば、IFAも「力になりたい」と自然に思うものだ。
IFAを味方につけるためには、今後の投資計画を正直に話すとよい。
☆移管を考えている人 → まずはお問い合わせから
また、以下の記事は本来契約前に読んで欲しいことだが、移管を考えるほど旧IFAとトラブルになっているならば、こういったことを契約前に確認したかどうか思い出してもらいたい。