2020年の金融市場、読み間違えたこと3つ

市場芸人は市場の予測ができないが使いみちはある。小椋が今年読み間違えたことを振り返りつつ、市場芸人と上手に付き合う方法を考える。

2020年もいよいよ終わりということで、例年であれば「2021年に起こりそうなこと」みたいなタイトルでブログを書くのではあるが、マーケットのコメントをする人間は光の速度で自分が何を言っているかを忘却してしまう。そしてそれを振り返ることはない。証券会社の市場調査部やシンクタンクが書いた「来年の市場予測」はサルの当てずっぽうと当たる確率は一緒というのが一般的な評価であり、事情をよく知る投資家はそういった「専門家」を”市場芸人”と揶揄する。

”予測”芸人ではなく”市場”芸人であることがポイントで、予測が付加価値を産んでいるのではなく市場についてあれやこれやと書くことに付加価値がある(付加価値があるのだが、それは当たることはない、そもそも誰も検証しない)。読者が喜びそうなコンテンツを、多少の事実とロジックを織り交ぜながら書く。断定的な表現は避け、「という可能性がある」「とも考えられる」「と仮定するなら」みたいな市場芸人特有の文法で読者を分かったような分からないような気にさせる。

市場芸人がポートフォリオのアイデアや、マーケット分析について「なるほど、そういった考え方もできるな」と投資家に思わせたら勝ち。市場芸人として泊がつく。ただし、投資家が市場芸人のアイデアに乗ったからといって資産運用の成功が約束されいてるわけではない。それは控えめに言っても「サルの当てずっぽうよりも良いときもあるし、悪いときもある」という程度だ。

市場芸人が投資家に伝えるのは儲かる銘柄ではなく、儲かりそうな雰囲気なのだ。

そして私もそんな市場芸人の一人。そしてクライアントにもっとも近いラインにいるのでマーケットの話をクライアントとする立場にある。市場芸人の端くれとして、他の市場芸人がやりたがらないことをやろうと思う。それは自分が間違えていたことを顧みる、ということだ。自分が2020年に顧客に行ったアドバイスのなかで、明確に間違っていたものあるいは間違えつつあるものはいくつかあるがその中でもインパクトが大きかったものを3つあげる。

1. コロナからの株価回復がこんな早いとは思わなかった

コロナウイルスについては未知のウイルスだったということもあって3月に市場はクラッシュした。クライアントにはこの株価の回復は重たいものになる、もしかしたら2-3年くらいかかるかもしれないと伝えた。そしてそれは間違っていた。

  • 急激な利下げと財政政策
  • 補助金を手にした人たちの市場参加
  • ワクチン開発スピード

このような要因によってわずか10ヶ月で株価は今年2月のピークを超えていった。足元の景気が悪いなか株価だけが上昇するという、直感には反する事態をうまく飲み込めずにいた。しかも実態も遅ればせながら追いついてきている。世界経済の2つのエンジンである米国での消費・中国での輸出はすでに例年なみの水準に近づきつつある。ポストコロナで国や民間の借金が一気に増えたことは確かだが、少なくとも低金利であるかぎり金利支払いは羽よりも軽く額面上の債務額は問題にならない。

またコロナがもたらす金融不安も、その片鱗すら見せることなく消えていった。リーマン・ショック後に金融機関は資本を積み増してきたが、その安定感がコロナで試されたもののびくともしなかった。これは今後の市場にとっても福音だ。

しかし6月の時点においてもまだリスクテイクするには至っていない。あの時自信をもってキャッシュポジションを減らし買い進めていれば、今の水準からさらに3-5%程度は追加リターンを取れた可能性はある。

2. 原油売り判断が早すぎた(かも)

3月の株価につられて4月の石油先物はゼロを突き抜けマイナスとなった。原油を売る人が、買い手に対しておカネを払うから原油を引き取ってほしいという状態だ。ポートフォリオにはふだんはコモディティについてはチラ見するぐらいだったがこの時ばかりは画面に張り付いて落ちていくナイフのような価格を見ていた。

バレル20ドルをあっさり割り、10ドル、5ドルと落ちていく。さすがにマイナスになることはないだろうと思ったもののあっさりマイナス更新。もちろんこれが買い場と考えてオイルについては脊髄反射的に買い推奨をしていた。

予想通りに原油価格は調整局面を抜け出した。しかしまだ自分の頭の中には「コロナで景気は低迷する」というイメージがこびりついていたため1バレル35-40程度が売り時だろうと考えていた。実際、40ドルあたりで上値が重かったことを考えると40ドル売りコールはあながち間違いではなかったのかもしれない。

しかし足元の景気が回復するに従い、また株式以外の投資機会を求めてマネーが流入するに従い石油価格は徐々に上昇していき、50ドル付近まで戻している。今年初旬には60ドルあったわけから、この低金利・カネ余りのなかでは60ドルを超えてさらに伸びていく可能性もある。それを考えると35-40でいったん手仕舞いというのは早すぎたかも。

3. ビットコインがこんなに上昇するとは思わなかった

ビットコインはゴールドと同様、それ自体でなにか価値を生み出すものではない。しかもビットコインは単に投資熱に浮かれた人たちのための、「一儲けしたい」という気持ちが具現化したものだと思っていた。

そしてビットコインは発行に関してルールだけがあり、コントロールする政府をもたない。僕が時の政府トップであれば通貨発行権を毀損するようなビットコインはその存在を許さない。もしビットコインが自国通貨より信任されてしまえば自国内でコントロールできない経済圏ができる。これは絶対に阻止したい、と考えるだろう。実際に中国は、香港も含めてビットコインは存在しないに等しくなっている。

3,000ドル付近をうろうろしていたビットコインは急激に火が付いて一気に20,000ドルの天井を突き破った。そして今のところアメリカがビットコインに関して大胆な規制をかける気配はない。すなわち、ビットコインはじめ仮想通貨をとりまく状況はビットコインホルダーにとっては有利な状況となっている。

とはいえ配当も何もない。ビットコインはボロ株(低位株)のような存在になりつつある。もっというと、何やら実態の分からない怪しげなものから、少なくとも仕組みが投資対象としては確立しつつある。

これからビットコインの価格がどう変動するかわからない。10倍になるかもしれないし、10分の1になるかもしれない。しかしビットコインを取り巻く状況への、ネガティブな見方は完全に間違っていたといえる。ではこういう状況でビットコインへの投資をオススメするかというと、やはりNoだ。機関投資家ですらも続々と市場に参加していることは知っているが、そもそも値段の問題ではない。アドバイザーとしてはビットコインもゴールドもオススメしていない。株式や債券、不動産のようにそれ所有することで稼いでくるものについては資産運用だが、ゴールドやビットコインはボロ株と同じく投機の域である。「マカオのカジノで、老後の資産を作りましょう」なんてことを言わないのと同じだ。

それでも市場芸人を活用するには

市場芸人は市場の予測ができない。予測するとしても、サルの当てずっぽうだということは前述した。では時にはサルの当てずっぽうと同じでも市場芸人が役に立つことはある。

これは私のアドバイザーとしての15年の経験から日に日に確信を強めているのだが、資産運用がうまくいく投資家は「儲かりそうななにか」を買う投資家ではない。むしろ考えられるリスクを大雑把にでも把握しておき仮に不都合なことが起こったときにも狼狽売りをしない投資家だ。

この狼狽売りしないために腹をくくるために市場芸人にマーケットを語らせる。同じような資産状況で、同じ銘柄を同時に購入したAさんBさんがいたして、その銘柄がもたらす様々な状況に耐えられるかどうかが資産運用の巧拙を決める。しっかりと心の準備をしている人は、長期運用に立ち向かっていくことができ必然的に資産運用の成功率が上がる。よく分からないまま購入してしまうと、すぐに売却してしまい結局証券会社に手数料を抜かれてなかなか資産が増えないということになるのだ。

そういう意味では市場予測ができないとしても、市場芸人を活かす道はある。

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