国家安全法施行から3ヶ月。何が変わって、何が変わらなかったか。

国家安全法施行から3ヶ月。個人的に感じた変化をいくつか書いていきたい。

最初の30秒ちょっとは昨日のデモの様子。

香港で国家安全法が施行されてから3ヶ月が経過しました。7月1日に施行されて以降、お客様から「香港での資産運用にリスクはないのか」との問い合わせが相次ぎましたが、9月以降は国家安全法関連のお問い合わせはほぼなくなりました。そしてまた、このウェブサイトに「香港 国家安全法」という検索ワードでの流入もなくなりまして、台風一過といったところです。日本を含め海外のメディアも香港の国家安全法の取り扱いも日に日に小さくなり、それに連れて人々の関心も薄れた… といったところでしょうか。

しかしクライアント側からみるとこの国家安全法絡みの問題は足の裏についた米粒。今すぐ何らかのリスクは顕在化しそうにはないが、問題を考えずに放置しておくわけにもいかない… という感じかと思います。

私達も遠い将来を見通すことはできませんが、お近い将来については、これまで起こった事実を演繹することで多少は見通せます。そこで、この3ヶ月で起こったことと起こっていないことを並べてみました。

変わったこと

この法律によって3ヶ月で28人逮捕された

あらためて法律の概要については、拙ブログをご一読くださればと思います。

オフショア金融センターにおける表現の自由については、シンガポールやリヒテンシュタインなどもそうですが時の政府に対する反論を法律で禁じている国はいくつかあります。小国で金融センターを生業にする国々は、他の成熟した大国たとえばロンドンやスイス、アメリカ(NY)と対抗するために低い税率に加えて安定した投資環境を実現するために表現の自由に制約を加えているといっていいでしょう。革命が起こりそうな国に誰もおカネを置いておきたくないですからね。

28という数字ですが、微罪・余罪による取り調べなんかを入れるともう少し膨れると思います。ちなみに民主化の急先鋒である黄之鋒、ジョシュア・ウォンも逮捕されていますが容疑は昨年2019年の違法な集会によるものとされています。国家安全法が遡及適用されたのではなさそうですが、国家安全法の施行により民主派の活動に対する包囲網は完全に敷かれています。

ですのでこの28人は香港を居住地ではなく資産管理地として利用する方々のための代償であったといえるのかもしれません。28人が多いか少ないかをどう捉えるかですが、僕の個人的な印象としてはこの3ヶ月間に限って言えば国家安全法の運用は抑制的であったと感じています。これは、中国政府が香港を今後も世界のマネーの集積地にしたいと考えているからでしょう。

報道によると28人のうち中国に送還された被疑者はまだいません。これは裁判を待たねばならないのかもしれませんが、逮捕されていきなり大陸送りになるというケースは今のところはないということになります。

香港ドル高が続いている

国家安全法が施行されてからメディアで繰り返し言われたのが「香港ドルが売られまくって香港政府は現在のペッグ制を維持できなくなる」といったものでした。仮に香港ドルが売られまくって国中の香港ドルがなくなりそうだとしても両建ての潤沢なドルで買い支えればいいだけなのでペッグ制は維持できると考えていましたが、これもメディアが良く調べもせずにペッグ制を放棄せざるを得なくなるという論調が目立ちました。安定を伝える報道よりも危機を煽る報道のほうがおカネになりますしね。

実際にはペッグ制は維持されているどころか、香港ドルが買われまくってこの数ヶ月ずっと香港ドル高が続いています。これは香港で続いている巨大IPO、たとえばJD.comや渤海銀行、そして目玉のAnt Financialによるものです。これら巨大IPOで8月だけで全世界から5兆円以上が香港に集まってきているので、香港の中央銀行であるHKMAは7月から13回も介入する事態となっています。

尺は1年です

この事実から分かることは世界の投資家にとっては儲かることが大事であって、その国での表現の自由がどういう扱われ方をしているのかなんて知ったこっちゃないということ。身も蓋もないですが、これが現実。投資家は勝ち馬に乗りたいわけであって馬の色は問わないんです。

香港ドルが売られまくってペッグ制が維持できなくなると煽っていた方たちはこの現象についてどうお考えなのか、お聞かせ頂きたい。しかしそういった方々は次の煽りネタ探しに奔走されているだろうからわざわざ書かないのでしょうね。

香港駐在員が減った

公平のために書いておくと、香港金融業界がかつてのような華やかさを維持しているわけではありません。むしろ衰退傾向にあるでしょう。国家安全法の施行によって銀行あるいは証券会社が香港に駐在させている社員のリスクを管理できなくなったため本国に呼び戻すことが頻発しているようです。月50万円から100万円くらいの、金融マンが住むような賃貸住宅市場では家賃相場が下がっています。またリモートワークが進み駐在コストをかけずとも本国からコントロールできる環境が整ったというのもあるのかもしれません。

駐在員の現象は金融だけに限った現象ではなく、他の業種全般に言えることですが。

変わらないこと

香港の金融センターとしての地位

金融センターは一日にして成らず、一日にして崩れず。香港を起点として様々なグローバルバンクが網の目のように張り巡らしたネットワークが簡単に死滅はしたりはしません。昨日まで行っていた送金業務が、国家安全法によって止まったりはしないんです。

もちろん、遠い将来、たとえば数十年後にはこの「金融センター」の地位を失うかもしれません。しかしそれは数年後とかいうスパンではないことは確かでしょう。

投資家の法的保護

これが直接的に投資家に関わる最もシビアな部分で、普段ならスルーするような通知もこの数ヶ月はしっかり読み込んできましたが、香港を通じた資産運用における投資家の法的保護という意味では国家安全法以前と以降で異なるところはありません。

よくよく考えてみると、これは香港政府あるいは中国政府の一存ではどうにもならないことがほとんどだからです。証券投資にしても、生命保険にしても香港はあくまでサービス拠点であって管理地(カストディ)は別の金融センター、たとえばマン島やBVIであることが多いものです。

投資家が口座/保険を維持しながらサービス提供地を容易に香港からシンガポールやイギリスに変更できちゃうのもそういった理由によります。

また中国大陸国内ですら預金や証券が理由なく召し上げられたという話は聞かないのに、なぜか香港でそういったことが起こると想像してしまう投資家の方は少なくないようです。「幽霊の正体見たり枯れ尾花」ということわざがありますが、まさにその類です。

あと、香港の怪しい投資話に乗っかって「おカネが返ってこない、香港の投資家保護の仕組みはどうなっているのだ」と憤慨する方も時々いらっしゃいますが怪しい投資話に乗ってしまえば国安法があろうがなかろうが、日本だろうが香港だろうが国があなたのためにおカネを戻そうとすることはありません。

弊社の政治スタンス

特段、会社から何か指示があるわけではありませんが政治活動をしているアドバイザーはほとんどいないと思います。おカネに色がついていない以上私たちアドバイザーもノンポリが多い気がします。仮に主義主張があるとしても、クライアントの資産を預かる身としてはもし声を上げて主張したいことがあるなら今の仕事=IFAを去ってから、というのが筋でしょう。

まとめ

  • 香港は今後当分の間は金融センターであり続ける
  • 極端なことはしていない
  • 投資家の資産は変わらず法的に保護される
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