バフェットに(不遜にも)反論してみる
3月中旬に航空株を手放したウォーレン・バフェット。理由はどうあれ、個人的には違和感があり…
バフェットが航空業界を見限った
3月中頃、金融市場が大きく下落するなかでウォーレン・バフェットが航空業界の株式を大量に売却したことがニュースになった。特に航空業界はコロナの影響でインデックスと比較しても大きく下落していたなかでのバフェットの売却決定だったので売りにさらなる拍車がかかったのは想像に難くない。
しかしその後、主要な上場航空会社が自社株買いを始めたのち株価は戻している。下のチャートは航空業界株式のETF(: JETS)だが、3月と5月の底値から反発している。
これをもって「バフェットは間違っていた」なんて言うつもりはない。バフェットのマーケットに対する慧眼と知慮はほとんどの投資家が参考にしているのではなかろうか。彼はあまりにも有名になりすぎたせいで、ことあるごとに「バフェットはヤキが回った」と言われている。今回もそうだ。損失を覚悟してまで一気に売却してしまったのは、今年90歳になるバフェットの能力がさすがに衰えた証拠だろう… みたいなネット言説が散見された。
「アメリカの航空業界ってどうですかね?」というお問い合わせもポツポツも頂いているので、個人的に思っていることを書きたい。最初に結論だけ言っておくと、バフェットのようにラディカルな意見ではなく、平凡なものだ(だから僕はバフェットにはなれないのだろう… )。
航空業界が死なない3つの理由
バフェットは「世界は変わった。航空会社は倒産するだろう」と言い、航空株を手放した。コロナ以降たしかに旅行者数は激減し、固定費用が凄まじくかかる航空業に悲観的な見方をする投資家は多い。短期的にみると、完全に元に戻るのは難しいようにも思える。
1. 政府の補助
今回のコロナ禍で航空業界への500億米ドルの補助が決定、うちすでに250億米ドルが航空会社の手に渡っている。アメリカにとって航空業界は自動車業界に並ぶ主要産業だ。アメリカでは全労働者の15人に1人が航空業界に関連した仕事をしているという。
もし航空業界従事者が多数失業してしまうようなことがあれば、その経済波及効果は計り知れない。アメリカ政府が航空業界を放置しておけないのはそういう理由だ。
また今回はリーマン・ショック時と違って「強欲な金融機関」という悪者がいない。コロナは自然災害で、台風や竜巻と一緒。納税者も納得して航空業界を助けられる。今後追加の政府援助が必要となれば、そのハードルは金融機関ほど高くないだろう。今後航空会社一社も倒産しないというわけではないが、わりとスムーズな統廃合が進む可能性が高い。
2. 旅行者が増えている
アメリカ運輸保安局(TSA)のデータによると、飛行機に乗る人は遅いペースながら増えている。1日の飛行機搭乗者が4月の87,000人/日を底に、35万人/日程度にまで戻っていることを考えると、今後も急激ではないにしろ漸増いていくことは間違いない。デルタ航空は搭乗率50%で損益分岐点を超えると言われていることから、必ずしもかつての搭乗率(80%-90%)が戻ってこなくても黒字経営にはなる。
3. 人間はすぐ慣れるし忘れる
そして、これが一番の理由だが… これから数年経ってもコロナワクチンがいまだ完成していないと仮定して、それを気にして海外旅行を避けたりする人が果たしてどれくらいいるのだろうか。
自粛生活はたった2,3ヶ月で経済に壊滅的な打撃を与えた。アメリカでは過去100年の最悪の失業率に達するかもしれないと言われている。「生活か経済か」という選択を迫られ、政府レベルではともかく個人レベルで経済を選択する人がほとんどだろう。
そうなると、後は雪崩を打ったように日常生活に戻る人が増える。仮にコロナで何万人もの死者が出ようとも「手洗いうがいをきいんとしてれば大丈夫」くらいの意識に収まってしまうかもしれない。仮にワクチンが完成したら、もはやコロナのことを思い出しすらしない人ばかりになるだろう。
「移動したい」という欲求は人間の根源的なもの。いくら「感染リスクを考えて不要不急の外出は控えましょう」と言ってもそれを押さえつけることはできない。ワクチンが完成してようがしてまいが、数年たてばすっかり元の木阿弥になるのではないか… 人間はリスクを都合よく忘れるようにできているのだ。
LCCよりナショナル・キャリアを、個別株よりETFを、バークシャー・ハサウェイを買うよりS&Pを
個別株を買うなら、きちんとその航空会社の残存体力を確認しておいたほうがいいだろう。もちろん、体力があるのは格安航空会社よりもナショナル・キャリアだろう。また、さらにリスクを薄めるのであればやはりETFのような形で航空株全般を保有しておくといいかもしれない。
ちなみにバフェットのファンであってもバークシャー・ハサウェイの株式よりもS&P500を買っておくほうがいいかもしれない。理由は2つ。バークシャー・ハサウェイの株式はほとんどS&Pに追随しており(この10年ではバークシャー・ハサウェイはややS&Pに負けている)、バークシャー・ハサウェイに超過収益があるわけではないこと、もう一つはバフェット本人ですら「個人投資家はインデックスを買っとけ」と口を酸っぱくして言っているからだ。