日本の投資家がわざわざ香港に来て買う債券3選

なぜ日本人富裕層はわざわざ社債を買うために香港へ来るのか。世界の債券市場にアクセスできる香港での人気の債券3つを例に、債券を買う方法などを考えてみる。

香港で日本人富裕層がこぞって社債を買うワケ

株式市場が高止まりしている。

アメリカ連銀が予定通り利上げをし、かつ金融市場から吸い取った資産を再び金融市場に放ったにも関わらず、リスク資産に対する圧力は高まっている。アメリカ連銀はじめ、世界の中央銀行が資産価値の膨張の片棒をかついできたが、やがて投資家の熱狂が醒めれば調整局面がやってくる。

それは債券市場とて例外ではない。格付けの低い債券が低いクーポンレートで資金を調達できたのも中央銀行が金利を下げバランスシートを膨張させて世の中をマネーでジャブジャブにしたからである。銀行から、あるいは社債マーケットから低利で資金調達ができるという環境は、まさに中央銀行が景気回復の手段として望んだことであった。

このようなマクロ環境があるなかで、鼻の利く個人投資家は無理をせずリスク資産のポジションを徐々に解消している。レバレッジを解消し手元にキャッシュを残しておき、次の調整局面が来るまで待とうという算段である。

つまり今金融市場は、どちらかというと「刈り取り」の季節。これから大きく成長する見込みがないうえ、下落するリスクのほうが大きい(と投資家に思われる)ので様子をみて新規の投資は控えようとする時期である。世界中の中央銀行はバランスシートを膨張させてきた。これから史上最大級のマネーの巻取りが始まる。どこかにほころびが出ないほうがおかしい。私たちアドバイザーも綻びとなるクレジット事象に敏感になる時期でもある。

とはいえこういった不安定な中でも好んで買われるモノがある。それが社債だ。

香港から世界の債券市場にアクセスできる

香港自体は債券市場として大きくはない。中国企業が次々と債券を発行しているとはいえ、アメリカやヨーロッパと比較しても香港で発行される債券ボリュームは微々たるものである。それでも香港が投資家を引きつけるのは香港”から”世界の債券市場にリーチ可能だからだ。機関投資家でも個人投資家でも、その気になればなんでも手に入ることが 魅力だろう。

すなわち香港”から”投資をすると必然的に世界に目を向けることになるので選択肢が多くなる。選択肢が多くなるということは、投資対象として選ばれるために必然的に利回りが高くなる。利回りが低ければ投資家に相手にされないからだ。

この選択肢が多い → 競争が起こり良い利回りが得やすいという好循環が日本国内にはない。

日本国内の債券市場はごくごく限られており、日本国債あるいは小口の社債などだ。大口の社債は一口1億円からが通常なのでなかなか個人投資家が分散されたポートフォリオを組める代物ではない。もちろん何十億も持っていれば分散されたポートフォリオが組めるが、数億円の資産を保有する富裕層にはハードルが高い。

小口で購入できる債券で比較的名前が知られているのは、クレディセゾン、ソニー、ソフトバンクくらいだろうか。しかし税引前表面利率はクレディセゾン(0.45%)、ソニー(1.41%、2023年償還)、ソフトバンク(2.03%)である。機関投資家向けですら利回りは似たようなもの。

そこで日本人富裕層は香港に来る。同じく富裕層の友人の紹介で、顧問税理士の紹介で、あるいは香港にIFAを探して。彼らはただ日本円の運用先が少ないからわざわざ香港に来ているわけではない。

日本円はとにかく甘やかされている

金融の世界では様々な指標で”もっとも安全”とされているのが米国債である。この米国債利回りも歴史的な低水準で推移している。しかし、日本に目を向けてみると、たとえばソフトバンクの5年物社債が米国債5年と比較して若干高い水準(2.03%)での売り出しだ。S&PでBB+という格付けは、倒産リスクの高いジャンク債に該当する。日本語に訳すとクズ債である。日本円で倒産確率の高いソフトバンク債を購入するのと米ドルで倒産確率の極めて低い米国債を購入するのとで利回りほとんど一緒というのはどういうわけか。

それは日本人の日本円信仰が大変に強く、日本円で投資をしたがるため需給関係がおかしくなっているからだ。日本では預貯金はもちろん定期預金にいれても雀の涙ほどの利息しかつかない。あるいは雀の涙ですらつかないゼロの場合がある。

そこに2.03%の社債がバーンとでればインパクトはある。発行主体は誰もが知るソフトバンク。倒産確率は低い(と日本人なら思う。外国ではそう評価はされていないが)。手が伸びないわけがない。日本企業は日本円で社債発行するだけで資金調達コストが抑えられる。高い利回りに飢えた日本人なら飛びつくと企業は知っているからだ。

そのような日本の中でなら「私はいい取引をした、得をした」と思うことだろう。リスクを抑えながらでも3-4%で運用することが世界標準であるのに対し、このようにして日本人は世界と差をつけられますます貧乏になっていく。世界のインフレ率はここ数年3%だから、利子のつかない預貯金においておくと世界と比べて毎年3%ずつ貧乏になる。

常々日本円は甘やかされていると思うのが、日本人の日本円信仰があまりにも強いために日本円は信用危機となりにくく、海外の勢いからの抵抗力を保っていられるということだ。ギリシャのように自国民の信任ない通貨はたちまち暴落し国の無為無策を白日の下にさらすがそれだけに治療の施しようがある。日本にはそれがない。

そういった日本円の「甘えた感じ」に嫌気して富裕層の日本円は外に出るのである。

次に具体的な債券銘柄を見てみよう。ここに挙げたものは弊社の推奨リストではないことを最初に断っておく。

SOFTBK 6.875% Perpetual Corp (USD)

一口USD200,000
表面利回り6.875%
 償還期限なし(永久債)

そう、同じソフトバンクである。白戸家のCMで有名な、あのソフトバンク。先ほど日本円で2.03%と同じ発行体である。

創業者の孫正義が凄まじい勢いで投資をしており、外国での資金調達も活発化してきた。今回は永久債(発行体であるソフトバンクが償還しますと言い出すまで続く)であることもあり表面利回りは年6.875%となっている。ソフトバンクが償還まで倒産しなければ投資家には投資額に対して毎年6.875%の利回りがつくこととなる。

ちなみに債券市場というものの債券には取引市場はない。償還前に売却することもできる。途中で売却する場合、その時点での価格になる。たとえばUSD200,000分購入しても途中で売却する場合はUSD200,000で売却できるとは限らない。USD190,000かもしれないしUSD210,000かもしれない。途中で売却することは買った時点での購入価額を上回るとは限らない。ちなみに償還時は発行価額で買い戻してくれることが通常だ。

ビジネスで成功した富裕層は孫正義を応援する傾向がある。孫正義のように、莫大な借金を背負ってもニコニコして「必ずうまくいく」というあの勢いのあるプレゼンテーションには商売人として素直に尊敬する。応援したいという気持ちと、とったリスクに見合うリターンを取りたいという気持ちがこの債券投資に向かわせるのだろう。

HSBC 6.375% Perpetual Corp (USD)

一口USD200,000
表面利回り6.375%
 償還期限なし(永久債)

HSBC銀行といえば、泣く子も黙るグローバルバンクである。香港の資産運用のきっかけとして、HSBCの口座開設から始める方も多い。かつてHSBC行員から聞いた話だが、日本居住の日本人だけで7万口座があるという。この話を聞いたのは2014年ごろだから、今はもっと増えているかもしれない。

そのHSBCが社債を発行している。HSBCは格付けA(シングルA)。滅多なことでは倒産しない。となれば6.375%の利回りはオイシすぎるとも考えられる。が、この債券はCoCo債という特殊な債券である

CoCo債はContingent Convertibles Bond(株式転換条件つき社債)の略で、ココ債という可愛らしい名称とは裏腹にその中身はわりと複雑だ。からくりはこうだ。

金融危機の経験から、銀行はより多くの資本を積み増して「倒産しにくい」ような規制が2010年から始まった。それをバーゼル3という。なぜバーゼル3というかというと、主要国の金融監督当局で構成するバーゼル銀行監督委員会が決めた3つ目の枠組みだからだ。銀行に資本がなくなると信用不安が起こる。そしてそれはグローバルに一瞬で連鎖するため、銀行の健全性をより高く保っておこうという国際的な取り組みである。

銀行は融資先債権など様々な資産を保有するが、その資産は必ずしも一様に安全ではない。米国債のような極めて安全なものから、倒産目前の会社に対する債権まである。それらをリスクレベルに応じて区分する。区分に満たなければ、資本不足ということになるのでリスク資産を多く抱えていると新株発行するなり社債を発行するなりして資本を積み増さねばならない。

それをルールにしたのがバーゼル3ということになる。

現在、主要銀行はこのバーゼル3に沿って資本を積み増している。このプロセスが2019年ごろには終了するという。CoCo債は資本を積み増したい銀行が発行している。しかしこのCoCo債はバーゼル規制に沿わない状況になれば、株式に転換するという条項がついている。すなわち資本が毀損すれば、返済リスクのない株式となる、という条項だ。

通常、金融機関の資本力が衰えているときは株式も同じく低調である。実際に、CoCo債を発行したドイツ銀行は資本力不足があらわになってCoCo債価格は大幅に下落した(この後、新株発行で資本力増強を果たし結局CoCo債は株式転換されていない。”ドイツ銀行危機”でググれば当時のニュースが拾える)。ちなみに香港の金融局は香港内の銀行に対しバーゼル3よりも厳しい基準を設けようとしている。この点からも香港の銀行が好まれているのかもしれない。

CoCo債はこのような特殊な条件が付帯している債券なので、HSBCといえども株式転換への条件などを理解して購入する必要がある。購入の際にはIFAなどの販売事業者から詳しい説明を聞くことが必要だ。

ちなみに2019年ごろにグローバル主要金融機関の資本を増強が完了するとみられている。そういう意味でCoCo債は”今だけ”な旬な投資先ではある。

DALWAN 7.250% 29Jan2024 Corp (USD)

一口USD200,000
表面利回り7.250%
 償還期限2024年1月29日

中国最大の不動産コングロマリット、大連万達グループ発行の債券である。中国不動産といえばバブルだ崩壊だと日本ではひどい言われようだが現実はもう少し穏やかである。現実には中国不動産市場は崩壊はしていない。

さらにこの大連万達グループの創業者の王健林は習近平と仲が良いと言われている。10月18日に開幕する第19回党大会で習近平はさらに権力を集中させることが予想されており、必然的に大連万達グループのビジネスの障壁はより軽いものになろう。

それを見越しての、債券購入。

もっともリスクも当然ながら、ある。万達グループが積極的に行っている海外のM&Aが中国の外貨規制により鈍化するかもしれない。また多額の資本を投じているハリウッド映画ビジネスはこの先投資を回収できるかは未知数である。

以上3つの債券を紹介したが、債券はFX(外貨)のようにいつでも買える / 売れるとは限らない。潤沢な流動性がないということは債券投資のデメリットの一つでもある。

どこでお気に入りの債券を見つけ、買うのか

オンライン

これらの情報はいつでも誰でもインターネット上で拾える無料の情報だ。あやしげな「あなただけに届けるとっておきの情報」ではない。ただ情報は英語で消化しなければいけないためそこがネックとなる。また債券は当然証券口座を通じて購入・保有しなければならないためオンラインは参考情報を得るためにある。たとえば以下のようなウェブサイトを利用する。

C Bonds

Bond Supermart

証券会社 / プライベートバンク

香港の銀行も取り扱える現物債券はあるが、限られたものでしかない。HSBCでも購入できるものは合計で70本にも満たず、また格付けの高いものばかりを提供しているため先述したようなものは購入できない。債券投資に強みのある証券会社、あるいはプライベートバンクを頼ることになる。プライベートバンクでも必ず目当ての現物債券が購入できるわけではなく、そのプライベートバンクのリスクポリシーに沿っている必要がある。たとえば

ただ、クライアントのリスクレベルに応じて担当者が債券を探してくれるため、楽ちんではある。債券投資のリスクについても一から説明をしてくれることだろう。

IFA経由

私がこの記事を書くに至ったのは高い利回り(しかし世界標準ではふつうの利回り)に飢えた日本人の投資家が弊社を利用しているからで、しかも私がこの業界で働き始めた11年前と比較して投資家の意識レベルは格段に上がっていると伝えたかったからだ。投資家は積極的に探し、必要なリスクテイクをして利回りを取っていく。

手前味噌にはなるが、プライベートバンクや証券会社と比較して担当者(アドバイザー)の異動もほとんどなく安心して運用ができる。いきなり人が変わって最初から信頼関係を築く必要はない。仮に担当者が嫌いなのであれば、口座を維持しながら担当者を変更すればいい。もし購入を考えている方がいれば是非弊社AMGにもご相談いただきたい。

おすすめの債券について知りたい方 → お問い合わせ

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