このコロナ禍で株価が上昇した理由

周囲の景気実感と株価の乖離。なぜ実体経済がこれほどまでに悪いのに株価だけ上昇するのか、その理由を考える。

株価がコロナで沈んだのは半年前の3月。S&P500はコロナ前からたった6週間で35%下落した。それから半年経過して、株価はコロナ以前の水準にほぼ戻った。直近では、テクノロジー企業を中心に大幅にNASDAQは下落したがその調整局面もまた落ち着きつつある。

株価は景気の先行指標というけれど、あまりにも景気が悪く株価と実体経済に乖離がありすぎるのではないか。現実を見渡してみると会社は資金繰りに奔走し、地元のレストランは潰れ、人々は仕事を失っている。こんなカタストロフな状況なのに株価が平然とした顔をして上昇した理由は何なのか、あるいは今後の株価がどうなるのかをおさらいしてみる。

株価が上がった4つの要因

株価は思惑で上がったり下がったりする。株価がもし企業が保有している正味資産を正確に反映するなら、株価は今の水準の10分の1以下になってしまうが投資家の「この企業は将来も利益を生み出し続けるだろう」という思惑で、あるいは「中央銀行が量的緩和をするから株式のようなリスク資産は高くなるだろう」という思惑で、株価は高くなっていく。

この思惑を理解しておかないと、投資家は混乱する。私どもアドバイザーにも「なぜ私の回りで悲惨な経済状況が伝えられているのに株価だけ上昇するのか。なんだか気持ち悪い。」という声は届くが、この投資家たちの思惑を理解していないことに起因するのではないか。

では、改めて今回のコロナ相場がすっかり元通りになってしまった要因を4つ挙げてみたい。

1. 米連銀と議会が迅速に動いた

今回のコロナ禍とリーマン・ショックと大きく違うのは、問題の原因が巨大金融機関ではなくウイルスという目に見えない人類共通の敵であるということだ。金融機関で働く人のボーナスだけでも平均年収の何十倍にもなり、CEOは天文学的数字の報酬を手にしていたこともあり、これらの金融機関を救済するために税金を拠出するのは納得感がうすい。だから、救済に時間がかかった。株価が大幅に下落するなかで強欲な巨大金融機関を血税をつかって救済することの葛藤があったのだ。リーマン・ブラザーズをめぐる救済・破たんの攻防は映画になっていたりと、今みても手に汗握る展開だ。

しかし今回は悪者はいない。コロナのせいで旅行、飲食業界が窮地に陥ったが旅行業界、飲食業界が暴利を貪ったせいでコロナが発生したわけではもちろんないわけだから、そこで働く人たちやコロナで困った人たちに血税を使う、救済の手を差し伸べるのには何の違和感もない。

議会は即座に1.5億人に給付金を与えることを決定し、また50兆ドルにもおよぶ中小企業向けの救済的なローンを矢継早に発表した。3月、フィラデルフィア連銀のPatrick Harker総裁も「素早く、アグレッシブに動くことが重要」と言っているが、事実そのとおりに連銀も議会も素早くアグレッシブに動いた。前回のリーマン・ショック危機から連銀も議会も学んだというわけだ。

そして歴史は「連銀の政策には逆らうな」と投資家に教えてくれている。連銀が緩和的な政策を発表すれば、それは即「リスク資産買い」ということになる。連銀の政策が迅速になされたこともあって株価が戻りやすい素地ができていた。そこに投資家が群がった。

2. 回復への期待

V。L。K。これが何を意味するか分かるだろうか。これらは回復の道筋をあらわすアルファベットだ。V型はいったん落ち込むが素早く回復。L型は落ち込んだまましばらく戻らない。ではK型は? K型はリモートワーク関連などコロナ特需で儲かるところは儲かるが、旅行や飲食など厳しいところは厳しく、二極化が進むといった考え方だ。

現実がどの型なのかを見極めるのにはもう少し時間が必要になるが、現実的にはアメリカでは8月に工業生産活動が急上昇していることもあり今後劇的に悪くなることは考えにくい。すなわち事実としてはKであることには違いないが、絶望的なLではなくゆるやかなVを期待している状況だといえよう。

GDPは通年で今年記録的な落ち込みを見せるだろうが、来年また記録的な上昇を記録すると予想されている。記録的な落ち込みをした後は上昇をするしかないわけなので、投資家にとっては買いやすい市場となったわけである。

3. テック巨人たちの躍進

「新しい生活様式」ではテクノロジーは欠かせない。

今年に入ってからアップルの株価は57%も上昇し、株価指数の一つであるラッセル2000の小型株銘柄すべて足し合わせた時価総額、あるいはイギリスの株価指数FTSE100銘柄をすべて集めた時価総額に一社で匹敵するサイズとなった。S&P500で時価総額の高いものを上から並べると

  1. アップル
  2. アマゾン
  3. マイクロソフト
  4. アルファベット(Google)
  5. フェイスブック

となっている。これらの5銘柄だけでS&P500の23%の時価総額を占めており、これは過去30年間でもっとも高い占有率となっている。またアップルだけでアメリカの株式市場全体の上昇の半分を占めたという。また象徴的な出来事としてエクソン・モービルがダウ指数から外された。かつてはエネルギー業界が指数のなかで大きな役割を担ったが、現在では指数のなかでの時価総額はわずか3%程度にしかすぎない。

S&Pなど有名な指数には、世界最強といわれる会社ばかりがセレクトされている。これら世界最強企業がすべての企業を代表しているわけではない。もし非上場の会社など世界中に存在するすべての企業をインデックスにしたなら現在の3分の1くらいにはなるのではないか。

テック業界の巨人たちに引っ張られて株価が上昇した事実があるので、現実と株価との乖離がこういったところに現れるのだろう。

4. 個人投資家の大量参入

リサーチ会社のBloomberg Intelligenceによると2010年には市場のプレイヤーの10%だった個人投資家が、現在では20%となっている。様々なネット系証券会社の台頭、そしてロビンフッドなどの取引アプリのおかげで個人投資家が株式市場に参入するのに、かつてないほどハードルが下がっている。

米国の異常な株高を支える投資アプリ「ロビンフッド」の危険なカラクリ

個人投資家はフェイスブックのグループなんかで取引アイデアを交換して積極的に取引をする。またインスタグラムにも個人投資家のための「インフルエンサー」がおり、インフルエンサーの投資アイデアに何千・何万のフォロワーがついていくことになる。取引量の少ない銘柄であれば一気に上昇することになり、このギャンブル性がリモートワークで暇を持て余した個人投資家の信条をガッチリつかんでいるのだろう。

また現物株式では飽き足らない個人投資家はよりリスクの高いオプション市場にも参入しており、電気自動車メーカーのテスラのコールオプションなんかは凄まじいボリュームで増えている。オプション価格は現物株式の価格に影響を及ぼすので、テスラの株価はとんでもない騰落を続けている。

個人投資家は恐れを知らないギャンブラー。ソシエテ・ジェネラルのリサーチによると個人投資家は「過去三ヶ月にもっとも上昇したもの」を選好するという。この「上昇したいものを買いたい」というメンタリティは個人投資家が成熟した投資家になるために最初に乗り越えるべきハードル。上昇したものはもはや上昇の余地がない場合もあるわけだから、過去3ヶ月上昇したものがこれからも上昇する保障はない。

しかし個人投資家はグラフの見てくれだけで判断してしまう。買いが買いを呼ぶことになり、結果的に上昇するのだが、熱狂が途絶えた瞬間に下駄を履いていたぶんまで下落してしまう。テスラはたかだか1ヶ月の間に高値から35%も下落してまたリバウンドしているが、こういった個人投資家の思惑が交錯しているのだろう。

株価は今後どうなる?

コロナが収まったとしても、連銀は失業率がかつての低水準に戻るまでは緩和的な措置をとると明言している。しかも緩和的な政策の途中でインフレ率が跳ね上がったとしてもただちに引き締めには入らないとしている。いわゆるインフレのオーバーシュート、行き過ぎを許容するというさらに緩和的で大胆な政策となっている。

コロナの前よりも緩和的な措置をとっているのだから、経済活動がコロナ前の水準に戻ると株価はより高くなると考えるのが合理的だろう。今年は大統領選挙があるが、仮にバイデンが勝ったとしても緩和的な措置は継続される。

ゴールドマン・サックスは年度末の株価水準を現在の水準から6%程度高く予想しているが、これがおそらくコンセンサスだろう。

ただ、個人投資家の参入がさらに株価のボラティリティを高めていることには違いがない。今後も株価が急落することもあり得ることを踏まえつつ、長期投資を実践する必要があるだろう。

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