2018年、いよいよ市場は終わりの始まりに突入か
2017年で金融市場が荒れたこの1週間。私たちAMGはどうみるか。低すぎたボラティリティを振り返り、リーマンショックから早10年であることを想う。
今週5日と8日に大きく下げた金融市場。株式市場だけでなく債券市場も同じく下げた。平常時には株式市場が下げられば債券市場が上がり、その逆も然りとなるが上げ下げの相関性はこの数日一気に高まった。この現象は時折ある。直近で株式市場と債券市場の相関が高まったのは2013年末、2016年末だ。相関が高いとは、上がるときも下がるときも一緒の方向、ということだ。
今回も、下げ幅も大きかったが株式と債券。この2つの資産の動きの相関が高まる現象に私たちが注目してしまうのは、日本のバブル崩壊、そしてアメリカのリーマン・ショック時に見られたからだ。世界がまるでひとつの市場のようにつながってしまって、リスクオンするときもリスクオフするときもほとんど同時に起こるのがこの10年の金融市場の特徴となっている。
今市場で何が起こっているのかを、AMG日本チームの意見として簡単に解説したい。ただ、金融市場が下がる原因は一様ではなく様々な原因が有機的に絡み合っている。Aという事象がBという事象を引き起こし、更にAを引き起こすといったようにどれが原因でどれが結果なのかが分からないことはよくある。それに金融市場は感情の生き物だ。欲につられて買い、恐怖に駆られて売る。そういった人の感情がどう動くのかは予測できないのと同じように、目先の金融市場を予測するのは難しいということは先にお断りしておく。
そもそも低すぎたボラティリティ
S&P500を原資産とし、今後S&P500がどのような動きをするのかがボラティリティ指数(VIX)である。ボラティリティ指数は投資家が予想するS&P500、すなわちアメリカ株式市場の先行きを示しているといってよい。このVIXが過去最低にレベルで低かったことは何度も取り上げた。また単に低いだけではなく長期に渡って低かった。金融市場は疑心暗鬼な生き物だから、低水準が続くと「こんな低水準がずっと続くはずはない」と思い始めるものだ。こういうときは金融資産を売る材料を探している状態といえる。何か売らなきゃいけない材料があればすぐ売ってやろうと身構えている状態だ。しかも米国株式は絶好調、株価収益率で過去最高となっている。売って利益確定する誘因はある。
リーマン・ショックから10年
しかもリーマン・ショックからもうすぐ10年である。市場参加者は「2月4日までの平穏が永久に続く」などとは思っていない。もし投資家が不安を感じることがあったら、一目散に逃げ出そうと考えている。このように逃げ足が早いマネーが売り時を虎視眈々と狙っていたのが2月4日までのマーケットだった。
原因なんてあってないようなもの
とはいえ、ボラティリティが低かったから金融市場が疑心暗鬼状態となり、売りが売りを呼ぶ展開になったというのはいささか早計だ。そもそもボラティリティが低かったのは経済指標が良かったからだ。経済が堅調なときに市場が落ち着いているのはいわば当たり前のことであり、以上に低いボラティリティはむしろ経済の底堅さを裏付けることにしかならない。またここまでのドラマチックな暴落は経済指標からは説明できない。
ロボ売り? ボラティリティファンド?
2月5日の市場が閉じる瞬間に売りが集中したという事実からみて、かつてのポートフォリオ・インシュランスのように現物と先物を組み合わせたロボット売りが何らか閾値を超えたせいで売りが売りを呼ぶようになったという説明、また低いVIXがしばらく続くと読んだ投資筋が低ボラティリティにレバレッジをかけていたとする説明などがある。おそらくどれも正しいが、アメリカの株式市場の一大プレイヤーとなっているETFから凄まじい金額が流出していた。Bloomberg端末で確認すると、年初来の純流出額、流出から流入を引いたものは280億米ドルとなっていた。
ETFは機関投資家から個人投資家まで、様々なマネーを束ねている。機関投資家がETFからごっそり資金を抜いて、その後個人投資家があわてて資金を抜いたというのが今回の真相ではなかろうか。年金基金や大手ヘッジファンドなど、あまりにもぬるま湯な市場に警鐘を鳴らしていた投資家は多い。それら大きな年金基金やファンドが3,4つ同じ動きをすれば市場を動かすことはたやすい。そして市場のサイクルは最終局面に入っている。すなわち個人投資家が続々と参加している。個人投資家は揶揄をこめてDamn Money、アホ・マネーと言われている。なぜアホなのかというと、高いときに買い安くなったら売るからだ。(ちなみにDamn Moneyの反対はSmart Moneyだ。ヘッジファンドや大物投資家のことをいう)
利上げ観測強まったから?
ニュースで報道されていた今回の売りの一報が、アメリカの被雇用者の給与水準が上昇してきたことで連銀の利上げスピードが早まるのではないか、という懸念がリスクオフに向かわせたという書き方だった。確かに給与水準は上昇し、利上げ期待が高まっていることは事実だ。3月には1度利上げがされる見通しで、通年で3回利上げか4回利上げかということになっている。しかしこのニュースが売りを誘因したのかの因果関係は誰にも分からない。感情で市場が動くことを考えると、原因はあってないようなものである。
では、これからどうなるのだろう。いくつか質問を頂いたので、それに答えていきたい。
Q1. 今回の売りで連銀は利上げペースを遅くするか
おそらく答えはNo。なぜならそもそも高値圏にあった株式市場が落ち着いただけで、経済指標が悪いとか金融機関が倒産しそうだとか、そういった事象を併発していない。もっとも何らかのきっかけで売りがますます強まり、現在の水準から株価が30%下落するなど消費心理に大きくネガティブな影響を与える程度に市況が悪くなれば連銀の利上げペースは落ちるだろう。連銀は金融市場のことは気にしないわけにはいかないだろうが、投資家の顔色だけをうかがって基準金利を上げ下げしてるわけではない。あくまでインフレのコントロールと失業という2つをコントロールしているわけだから、完全雇用が達成されインフレも2%台がしばらく続いたことを考えると、金融市場の下落をみて利上げペースを遅くするということは考えられない。
それどころかインフレが強まれば利上げのペースを早くすることも考えられる。連銀に頼った投資戦略は通用しない。
Q2. 他にクレジットリスクはあるか
リーマン・ショック、と一口にいうものの本当のショックはリーマン・ブラザーズが破綻したことそれ自体ではなく、リーマン・ブラザーズが破綻し金融不安の連鎖が一気に広がったことだ。あれ以来バーゼル3という新しい枠組みのもと金融機関はかつてのようなシステミック・リスクを引き起こさないように資本の積み上げを要求された。その点で銀行経営はかなり健全な姿となった。なので銀行発のクレジットリスクは考えにくくなっている。
しかしリーマン・ショック以降凄まじいペースで債務を積み上げた主体が2つある。企業と中国だ。企業は自社株買いのために安い金利で資金を調達した。それが現在の株高の先鞭をつけた。そして企業ローンはかつてのMBS、サブプライムローンのようにパッケージ化されローンETFとなり個人投資家が買っている。ローンETFの残高は1560億米ドルとなっており、格付けの低いローンがデフォルトすると、かつてのように連鎖的な資産の減耗を招く。そして先進国企業が借りまくり、新興国でもそれに劣らず借りまくっている現在企業に蓄積されている債務が利上げによって急激に企業収益を蝕み、事業活動を一気に萎縮させる可能性はある。
またGDP比で250%と中国は持続不可能なレベルにまで債務が積み上がっている。とはいえ中国の場合は政策金利、為替と政策ツールがまだまだある状態だ。今回の下げ局面と直接関連づけるのは強引かもしれない。
Q3. これから更に下げるか
分からない。来週、来月でいうと更に下げる可能性はもちろんある。こういった大きな下げの直後は皆ナーバスになっているから、売りが売りを呼ぶかもしれない。しかし足元の経済は好調だ。短期的には金融市場の動向はアテにはならないが長期的には経済の先行指標としては頼れる。一時的に下げるかもしれないが、経済が好調である限り早い段階で底を打つことになる。
Q4. AMGのポートフォリオには大幅な変更はあるか
特に変更はしない。というのも、弊社AMGのポートフォリオは既にこういったリスクを織り込んでいるためやや保守的なスタイルとしており、売り耐性は既にある。