債券投資、最初の一歩 1/2

資産運用におけるポートフォリオを考えるには、避けては通れない債券投資。ポートフォリオに組み込むとしても、一体何をどこから考えればいいのか… という方のために。

資産運用を検討するなら、避けて通れない債券での運用。なんとなく難しいと思われているこの債券投資だが、株価が高止まっていることもあってか最近引き合いをよく頂く。

債券市場は株式市場と違って比較的穏やかなマーケットであるし、株式の配当と違って債券は毎年確実な利払いが約束される。また不動産と違って家賃の交渉の手間もないし空室率を心配する必要もない。

ただ債券投資については日本語での情報が少なく、あったとしても債券投資の魅力を伝えているとはいえない。お話を聞いていると情報がないなかで清水の舞台から飛び降りるような感じで債券投資を始めている方が少なからずいらしゃる。現物債券投資をしようとすると数千万円からの投資となるのにもかかわらず、だ。そこで、改めて基本を踏まえつつ債券投資が資産運用においてどんな役割を果たすのかを伝えていきたい。

この記事は弊社ですでに債券投資をゴリゴリやっているお客様ではなく債券投資を初めて検討する方に向けて書いている。債券投資はとにかく複雑なイメージがあるので用語の解説からやっていこうと思う。

債券投資にまつわる用語

まずこれらの言葉を覚えておけば債券投資のスタートラインには立てるだろう。

1. 発行体

債券を発行する主体。国や会社。アメリカでは州が独自に発行する地方債も存在する。債券投資の本質は「お金を貸すこと」にあるので債券投資家は債券を購入するという行為によって発行体にお金を貸すことになる。

2. 格付け

お金を貸して100%戻ってくる確証があればいいが、そうではない。リターンにはリスクはつきもの。iPhoneを作っているアップルのようにうなるほどお金のある会社(発行体)が発行する債券なら貸したお金は返ってくることには確証は持ちやすく安心して購入できるが、今にも倒産しそうな第三国の会社に貸して100%戻ってくるとは限らない。

また上場企業であれば財務情報を公開しているので、投資のプロでなくても調べることはできるがすべての発行体が上場企業であるとも限らず、また欲しい情報が揃っているとも限らないため債券投資家が投資の判断しやすいよう、スタンダード・アンド・プアーズやムーディーズといった格付け会社が債券ごとにAとかBとか格付けをする。同じ発行体が発行する債券でも、債券固有のリスクが違えば格付けも異なる。

信用格付け – Wikipedia

時折、格付けの付されていない債券を見かけることがあるがこれは「全く信用できない」という状態ではなく単にコストの問題から格付けしていないだけの債券である可能性が高い。発行体は投資家に買ってもらいやすいよう格付け会社におカネを払って格付けしてもらうので、そのコストをかけなくても投資家に買ってもらえると判断した場合はあえて格付けなしで市場に出す。また、発行体によっては格付会社の格付けに納得できない場合が続いたりして格付けをあえてしない場合もある。

3. 債券価格

発行体が新規に発行する新発債券を買う方法もあるが、債券投資でメインとなるのは流通市場における債券取引だ。債券市場とはいっても、株式市場のようにオークション方式で取引されるような公開市場は債券市場には存在しない。この「この価格で買ってくれる人・売ってくれる人いませんか?」と呼びかけて、その呼びかけに答えてくれる人がいたら取引が成立する。いわゆる相対取引というやり方で債券投資はスタートする。このように債券価格も株式と同じで需要と供給のバランスによって上がったり下がったりするのだ。

Bloombergなどネットなんかでは債券価格を表示されているが、これはあくまで参考価格にしか過ぎない。市況により表示されている価格よりも安い価格で債券を購入できることもあれば、高い価格を提示しても誰もその債券を譲ってくれないこともある。たとえば参考価格では

Ask: 103
Bid: 102

と表示されたりする。Askは「103で買いたいのですがどなたかその債券を持っている人、売ってくれますか」という意味で、Bidは「自分が持っているこの債券を102で売りたいのですが買ってくれる人いますか」という意味だ。これから債券を買うという方はAskを見る。

表示されているのはあくまで参考価格で、101でAskした場合もその値段で売却することを納得する人が呼応すれば交渉成立。流通量の少ない債券だとこのAsk/Bidの差(スプレッド)が広がりがちになるし、またネットで表示されているような価格よりも低い価格からAskしても取引が成立したりする。逆に人気の高い債券だとネットの参考価格以上の価格を提示しても取引が成立しないこともある。

債券価格は債券投資の初心者が初めにつまづく点だ。中には「ネットではAsk 103と書いてあるのに、103で買い注文を出しても取引が成立しないではないか!」と怒り出す方もいる。この価格はあくまで参考。実際には取引の相手方が承知しない限りは取引は成立しないことを知っておく必要がある。逆にいうと、ここに債券への投資妙味があるとも言える。

4. 満期

債券は会社または国に対する貸付だが、この貸付には満期があるものと、満期のないものの2種類が存在する。満期のあるものは、「2025年6月1日」のように期限が債券名に含まれており、満期を迎えるとその債券の元本が戻ってくる。満期のないものは永久債あるいはパーペチュアルと呼ばれ文字通り満期が設定されていない。しかし永久に償還されないわけではなく債券の発行体である国や会社が償還する、と決めた場合に償還される特約がついていることが多い。

満期が短いほど「先が見えている」状態なので債券価格は安定し、満期が長いほどその逆となる。

5. クーポン

発行体は利払いがある。毎年5%のクーポンを発行する債券であれば、債券投資家に毎年5%の利払いを続けなければならない。クーポンの語源はフランス語で「切ったもの」という意味だそうだが、債券はまさに会社の資産をもぎって債券投資家に渡すイメージだ。債券投資家はリスクと引き換えに発行体からのクーポンの支払いを要求する。

6. イールド

クーポンは固定されているが、債券価格は上下する。3年前に発行された債券の発行体であるA社の業績が良ければ、投資家も「これからもクーポンの支払い能力は十分にあるだろう」と考えるので債券価格は高くなりがちだ。たとえば1年前は

Ask 99
Bid 98

だったものが今では

Ask 110
Bid 109

みたいな状態になることもよくある。もしこの債券投資家が110で買ったとし、5年間5%のクーポンを受け取り、満期において元本である100を受け取ったとしても実質利回りは5%*5年の25%ではなく、そこから購入価格110と償還元本100の差である10を差し引いた上で実質的な利回りを計算しなければならない。

この実質利回りのことをイールドと呼ぶ。イールドもクーポンと同じくパーセント(%)で表示される。いくらクーポンが高くても、購入価格も同じく高ければ投実質利回りは下がる。債券に投資するのであれば、あくまでイールドを見ながら投資先を検討する必要がある。投資家がもっとも関心を寄せなければいけないのはこのイールドだ。不動産に例えるとクーポンが表面利回りでイールドは実質利回りとなる。

7. 特約

株式のように定型化されていないのが債券だ。債券には「特約」がついているからだ。たとえば発行体が償還時期を自由に決めることができたり、場合によっては保有債券が発行体の一存で株式に転換されたりする(ヨーロッパの金融機関にみられるような、ココ債)。もちろんこれは債券投資家にとっては不利なことなので、それを穴埋めするためにクーポンを多めに出したりして投資家にとってそれでも魅力的なものになるよう調整が行われる。

特約とクーポンはトレードオフの関係にある。すなわち投資家にとって不利な特約がつけばつくほど、クーポンは高くならざるを得ない。

この特約は債券によって個別に違うのでそのリスクを評価するのには骨が折れる作業だ。債券価格やイールドは数字で簡単に判断できるが、特約は時には数百ページにおよぶ目論見書を読み込まなければいけないこともあるからだ。IFAの仕事もこの特約の文脈を金融市場の背景とともに読み解くことにある。

発行体・格付け・債券価格・満期・クーポン・イールド・特約。債券投資を始めるにあたっては、まずはこの7つを用語覚えておけばいいだろう。

次の記事では

  • 具体的な銘柄の読み方
  • 考えておくべきリスク
  • どういう投資家が買っているのか
  • 債券はコロナショックにはどう反応したか

をお話したい。


余談: なぜ債券投資が流行らないのか

正直に告白すると、IFAにとっては債券投資は数ある金融商品の中でもダントツに儲からない。株式投資のように取引が頻繁に発生するわけではないから販売手数料は限られているし、生命保険のように定型化されているものではないから取引のたびに債券固有のリスクを調べるという学習コストが発生する。

また債券は香港の金融庁に認可されたものとそうでないものとがある。認可されているものは実に少なく、ほとんどの債券は認可されていない。認可されていない債券を販売する際には香港の金融庁が定めた厳格な適合性原則に沿った勧誘だったのかどうかのコンプライアンス・リスクを伴う。

十分な訓練を積んだIFAでも、その報酬の低さとコンプライアンスの問題から債券販売を毛嫌いしているのは確かだ。債券投資が流行らず、どちらかというと玄人向けだと思われているのも、案外こういったIFA都合の事情が原因だと思われる。

またこんなことを言うとボスに怒られるが、250人前後いる弊社AMGの全アドバイザーの中でも債券投資を適切に紹介できるのはおそらく30%にも満たないだろう… せめて日本デスクは「儲けはともかく、投資家の資産運用をサポートする」というIFAとしての矜持を示していきたい。

QRコード https://amgwealth-jp.com/?p=4220

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