債券市場概観 – 2019年4月

先月の債券市場をざっくり概観。MMTはトンデモ論か新パラダイムか。

日本は今日でゴールデンウィーク最後ですね。皆様いかがお過ごしでしょうか。新天皇の即位式を実況中継で見たかったのですがゴールデンウィーク中にクライアントがお越しになることも多く、気付いたら元号が変わっておりました… 香港および中国には皇室も元号はありません。知人の香港人と「日本は30年ぶりに元号が変わったんだよ! 200年ぶりに上皇が誕生したんだよ!」と興奮気味に話しても「へぇ~ 日本人にとってそれがどれくらお嬉しいのかよく分かんないけど嬉しい行事ならパーティ増えてお酒がいっぱい飲めてヒャッハーできるのは羨ましいね」と斜め上からの返事がありました。元号変わっただけでパーティするほど日本人はパリピじゃないんだよね… っていうか嬉しいのはパーティじゃなくて…

それとは対象的に香港では4月28日に13万人が参加するデモが行われました。「香港で捕まえたら、中国に移送できる」という法律が制定されようとしているからです。香港はすでに中国政権下ですから香港で誰を捕まえるかは中国の自由にできます。一応表向きは香港法に従うとしていますが2015年に香港のフォーシーズンズホテルから突如として姿を消した肖建華(Xiao Jianhua)の例や同じく2015年に中国国内で拘束され8ヶ月後に開放された銅鑼湾の本屋の林榮基(Lam Wing-kee)のことを考えると、とてもじゃないけどこの法律の存在に恐怖する市民は多かろうと想像できます。

先月の債券市場

さて、「当分の間利上げはしません」と米銀議長が宣言してから債券市場は3月にピークをつけ、一進一退を繰り返しながらやや下降気味の展開となりました。米中の経済は鈍化、かといって米中以外に景気を引っ張ることのできる日欧経済はそれ以上に鈍化してきており、見通しは2017-18のようにピッカピカではありません。それどころか、ここにきてますます見通しが悪くなっています。失業率は過去最低を更新しつつも、トランプ減税の息切れや低いインフレで景気の山は東毛を越えようとしています。

特に特にヨーロッパはいわば経済成長の臨界点、これ以上おカネを借りても金利以上のリターンを期待できない水準に近づきつつあることを示しているように思われます。ここ最近「世界は日本の失われたン十年のような低成長時代に突入する」という論調がここかしこで見られます。借金をすることによって極限まで需要を先食いした結果、平坦な成長しか望めないだろうという論調です。

欧州はどの程度日本化(Japanifiation)したか?−NRI

これは債券投資家だけでなく、株式投資家にもネガティブなニュースです。日本の株式市場はご覧のとおりで、いまだ30年前のピークを超えられていませんし債券市場では年利0.05%の個人向け国債や年利0.5%の社債が飛ぶように売れるわけですね。

欧州がこれに追いついてくるということは、遅かれ早かれアメリカもそうなるということです。すべてのモノ、カネが網の目のようにつながりあったグローバル経済では一経済圏だけが突出して成長し続けることはできないからです。

もう利下げ!?

そしてそのアメリカまでも。
つい半年前まで「2019年の利上げは何回するか」と占っておりました。2回、3回、4回。それぞれに説得力があるように見えました。しかし2019年度中の利上げはゼロ回であることが濃厚となり、ここにきてさらに利下げの議論が起こっています。

アメリカのインフレ率は低く、利下げによってインフレを起こして購買意欲を刺激するという試みが失敗しつつあります。失業率は低くとも賃金は上がっていません。インフレを起こす最初のきっかけである実質賃金の上昇が起こってないわけです。給料が上がらなければ物欲も拡大しない。当たり前のことですね。

過去数十年のサイクルを見ると、リーマンショック前のサイクルでは政策金利5.75%と高かった。

 


source: tradingeconomics.com

 

金利を下げる局面というのは、景気を刺激しなければいけない局面すなわちほっとけば景気後退入りしてしまうかもしれない局面ということになりますね。

MTT。トンデモ論か新パライダムか

日本が先駆けてゼロ金利、量的緩和と大盤振る舞いしたにもかかわらず景気が停滞している状態となり欧州がそれに続き、もしかしたら米国もそうなっちゃうかもしれないという状態なわけでした。日本は悪い意味で最前線を走っており、国債の発行も中央銀行である日銀の株式投資もやりたい放題となっています。

ゼロ金利継続と量的緩和でインフレを起こす! と息巻いておりました日銀も、結局インフレは起きず、かといってハイパーインフレのような悪性インフレも起きず、何も変わっていない状態です。ある人はデフレマインドの脱却が達成されていない以上日銀は能無しだといい、ある人は黒田総裁のリーダーシップがなければ日本はもっとひどいことになっていたと褒め称えております。

ここで、「自国通貨を発行している国は無限に財政赤字をしてもよい」という理論(Modern Monetary Theory)が注目されています。日本はご存知のとおり円という自国通貨を発行しておりますゆえこの理論に従いますと無限に財政赤字を拡大しても良いということになります。

しかし、中央銀行が国債を購入して国家財政をファイナンスするということはこれまでの常識に従えばインフレを引き起こし、そのインフレのコントロールができずに破滅的な最後を迎えるということでした。MMTはこれに反論します。日本を見てみろ、マイナス金利や国債購入してるがインフレは起きてないじゃないか。それどころか目標の2%にすら達しない。この状態でハイパーインフレを心配する必要はない… と。

私たちの頭の中には「財政規律」というコンセプトが叩き込まれています。税収入と税支出はバランスしなければならない、新規発行の国債をゼロにする必要がある、国家が規律なく借金を増やすことができるなら、軍票を発行して経済を混乱させたことを忘れたのか… などなど。

MMTはこれらすべてに対する反論はすでに用意されているのでしょう。税の上げ下げはインフレの調整に用いられ、富の再分配という機能を無視するという点も主流派からはずいぶん遠いロジックです。MMTのロジックの斬新さより、そもそもこういう議論が出てきたこと自体が世界経済の暗い影を象徴しているといっていいでしょう。もはや借金漬けの経済は不変のものであると開き直り、理解の枠組みを捉え直すという風潮そのものが何だか暗い未来を暗示してる気がしてなりません。

ボーイングの新発債

さて個別の債券ですが、個人的に少し気になっていたのが旅客機メーカーのボーイングの新発債です。例の737MX墜落の件で何件か引き合いはあったものの、債券価格は底堅く結局新発の15年債もクーポン3.627%で落ち着いたようです。
結局、警報が鳴るのはオプション装備をつけて購入した顧客(旅行会社)だけであってオプション装備なしで購入した顧客の737MAXでは警報が鳴らない設定だったと明らかになっています。この一事をもってボーイングが100%悪いとは言い切ることができず、また手抜き工事のレオパレスと違って安全基準を定める国の航空局も認めていることから株式の売りは一服した感はあります。

ボーイングの債券についても同様です。巨額の賠償金やリコールが発生するならともかく、そういった事情もなさそうなのですっかり債券市場の森の中に消えて目立たない存在となってしまいました。

それと同時に私の興味も、すっかりボーイングからは無くなってしまっています…

関連ブログはこちら。

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