債券市場概観 – 2019年7月

先月の債券市場をざっくり概観。各国中央銀行の緩和競争の開始、為替介入の可能性について考える。

アドバイザーの宮脇です。私が香港に移住して1ヶ月が経過しました。デモはまだ継続中ではありますが、暮らしの方には大分慣れてきました。今回は定例の債券市場概観をお届けします。

再び、緩和競争が始まった?!

「為替はターゲットではない」はいつしか各国中央銀行の口癖となりました。むしろ、読者の皆様の中にも「え?違うの?」と思う人すらいるのではないでしょうか。金融政策決定会合の後の記者会見でも当たり前のようにその質問をする記者が多いですが、少なくとも”建前上は”「インフレ2%を目指す」のが先進国(日・米・欧)の中央銀行ということになっています。そこは先週記事を書いた、香港の通貨制度とは大きく異なるところです。

しかしながら、「分かったよ、建前でいいから」ということで、ではいつから中央銀行は為替相場の主導権を握るようになったのでしょうか。中央銀行は発券銀行ですから、自国通貨の価値を守ることも意識します。だから多くの国は、為替介入できる手段を用意していますが、それは実弾であって、使用されることは多くありません。また、G20財務相・中央銀行総裁会議の2019年6月声明においても、2018年3月声明における為替相場のコミットメントを再確認しました。

我々はまた、為替レートの過度な変動や無秩序な動きが、経済及び金融の安定に対して悪影響を与え得ることを認識する。我々は、通貨の競争的切下げを回避し、競争力のために為替レートを目標としない。

G20財務相・中央銀行総裁会議 2018年3月声明より引用)

日本の場合は対ドルがメインであって、日本が最後に為替介入を実施したのは2011年11月です。2011年3月の東日本大震災の直後にも、投機的な市場の抑制のため、円売りドル買い介入をしたのは印象的でしたね。

水準感による為替介入の警戒感が出てくるのは、円安ドル買い介入であれば1ドル=90円台あたりでしょうか。少なくとも円の史上最高値である1ドル=75.32円(2011年10月31日)は意識せざるを得ません。もし今の段階で為替介入をするとすれば、「市場が荒れたから」を理由にする可能性が高いです。財務省は為替介入の実績として外国為替平衡操作の実施状況を毎月公表していますから、一般の方でもご覧になれます。ちなみに、為替介入の決定権限は、麻生太郎財務相にあります。ただ、直近の米国は「介入は適切な事前協議に基づく例外的状況」に限るべきだと牽制をしていますので、日本政府としても可能な限り介入は避けたいだろうと思います。一方のトランプ大統領はG20声明に関わらず、介入するときは容赦なくしそうですが。

さて、今日の主流は何といっても”口先介入”ですよね。「ちょっとうちの国の通貨高くない?」って言うものです。ここ数年の各国中銀は、誰が最初に金融政策正常化(緩和解除)を行うか、そして(心の中では)緩和レースを早く抜けて通貨が強くなるのは避けたいと思う部分はあったでしょう。後出しジャンケン的な要素があるなかで、市場が先走ってトレンドを作らないようにという願いから、口先介入は常套手段になりました。そのうち、「100社中95社のAIは○○総裁の発言は口先介入だと判定!」なんて記事が出る日には意味がなくなるかもしれませんし、そうでなくてもオオカミ少年のようなものになれば、市場の反応は鈍くなってきます。実弾乱射の通貨戦争になる可能性はそう高くないとは思っています。

それでもアメリカはいち抜けた、はずだった。

「金融引き締め」というと聞こえが悪いので、「金融政策正常化」なんて言い方がいつの間にか定着しましたが、アメリカは量的緩和の縮小と利上げを緩やかに行ってきました。ただ、まさに先週、2019年7月31日に、アメリカは「予防的利下げ」を経験してしまいました。10年半ぶりの利下げになります。実際の利下げ幅は0.25%となり、一部市場参加者が見込んだ0.50%よりも小幅だったため、”市場をがっかりさせる結果”となりました。量的緩和縮小の停止を2ヶ月早めたにも関わらずです。米中貿易戦争の再開とともに、10年物米国債利回りは再び1%台へ突入し、下限を試そうとしています。

実は長らく、世界中の市場参加者は中央銀行による「フォワードガイダンス」なるものに慣れきってしまいました。

フォワードガイダンスとは、中央銀行が将来の金融政策の方針を前もって表明すること。伝統的な金融政策のである政策金利のコントロールに加え、声明等を通じて、政策金利の据え置き期間や政策変更の条件などを明言することで市場参加者の期待に働きかける、非伝統的な金融政策の一つ。

未来の見えない金融市場において、中央銀行が道を照らしてくれる、そんな気さえし始めていたのです。実際、アメリカでは金利を上げていく過程において、過度な不安を煽ることは良くありませんでしたから、イエレンFRB前議長時代から、できるだけ緩やかに、そして規則的に利上げを行ってきました。こうした「市場との対話」こそが金融政策における柱になっていったのです。

でも忘れてはいけないのは、金融政策とは本来、そういうものではない、ということです。中央銀行は独自に景気分析を行い、独自の見通しのもと、金利を上げ下げします。実際、パウエルFRB議長は「フォワードガイダンスは不明瞭な世界に戻りつつある」と指摘していますし、7月末の利下げ決定直後にも「サイクル中盤での政策調整であり、長期的な緩和局面の始まりではない」と発言しましたが、そういう意味のメッセージを送ったのではないかと思います。

言葉尻だけ捉えるなら、「米国の金融政策は今まさに正常化しており、市場の期待に答えることが目的ではない。」という意味だと個人的には捉えました。ただ、金融緩和の残り香は存在していて、以下の数字が示すとおり、中銀のバランスシートはまだ十分大きいですから、パウエル議長の舵取りが重要な局面に差し掛かっています。米中貿易戦争の影響にしても、今後の経済指標データに現れてくるはずなので、それを見てFRBは次の行動を決めていくことになりそうです。トランプ大統領はこれでは満足しないかもしれませんし、次なる火種により、緩和競争に突入することも否定はできません。市場の”おねだり”相場はまだしばらく続きそうです。ただ、市場の見方はさておき、米国はまだ見ぬリセッションを見据えてひた走っているわけではない、それは頭の片隅に置いておいて良い気がします。

日銀のリアクションは

世界経済の減速はもちろん日本にとっても逆風でしたが、次の緩和策として打つ砲弾を用意していない日銀にとって、金利低下は不幸中の幸いでした。ただ、円高は避けたい、が日銀の本音でしょう。

為替相場は「相対的なもの」なので、日銀が動かずとも米国が利下げをした以上、金利差縮小により、円高方向の圧力がかかりやすくなったのは事実です。実際、沈黙のドル円が動き始めたように見えます。8月5日には、一時1ドル=105円台まで円が急騰したため、財務省と日銀、金融庁による3者会合が開かれました。水準感だけ見れば介入を検討するようなものではありません。ただ、急激すぎる円高には対処、もとい口先介入をする可能性がありますので注意が必要です。

10年物国債利回りは7月中は低水準のまま推移しましたが、8月5日にはさらに低下してマイナス0.20%へ達しました。これは日銀が定めるイールドカーブコントロールのレンジの下限になります。イールドカーブコントロールの目的は、(通常は長い年限ほど金利が高くなる)イールドカーブのフラット化ですから、レンジの下限はフロアには恐らくならないですが、レンジを定めてしまっている以上、過度な金利低下について何らか説明を要求されることにはなるでしょう。

その他の市場でも随分動きが見られたので、色々と状況整理をしてポートフォリオのメンテナンスを考えるタイミングですね。今回はこの辺で止めますが、他に気になるところはまたアップデートしたいと思います。

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