債券市場概観 – 2019年6月
先月の債券市場をざっくり概観。香港のデモと、米国債利回りの低下、金価格の上昇に注目。
今月から所属することになりました、宮脇健(みやわきたける)です。白井に代わり、しばらく本コーナーを担当することとなりました。よろしくお願いします。
香港返還と今回のデモ
7月1日、イギリスから中国へ香港が返還されてからちょうど22年が経ちました。この日はデモが行われることが通例となっています。今年は特に、いわゆる「逃亡犯条例」改正に反対する200万人超え(主催者発表)のデモが行われた直後だったということもあり、注目されていた方も多いのではないでしょうか。同法案は「事実上の廃案」と報道されていながらも、香港政府からは明確に「廃案」が示されていないことから市民の間でも不安が拭えない部分があるようです。
もちろん香港に住む私たちとしては動向を注視していますが、仕事をする上、日常生活を送る上で大きな支障が発生しているわけではないことはこの場を借りてお伝えします。
ところで、香港島の中心部にある湾仔(ワンチャイ)には、香港返還の際、中国政府より送られた黄金のバウヒニアがあるのはご存知でしょうか。バウヒニアという花に馴染みがある人は少ないと思いますが、この花は俗に「香港蘭」と呼ばれ、1965年に香港の市花に公式に選ばれ、現在の香港の区旗に描かれています。中国語では「紫荊」、そのためこの場所は「金紫荊廣場(Golden Bauhinia Square)」と呼ばれています。ヴィクトリアハーバーで行われる光のナイトショーであるシンフォニー・オブ・ライツの鑑賞にも適した場所なので、香港にお越しの際は行ってみてもいいかもしれません。
「香港かシンガポールか」という問い
今回の一連のデモを受けて、香港からシンガポールへ資金移動を検討する動きがあるとの記事をいくつか目にしたので共有します。(以下は当社と無関係の外部リンク)
1 REUTERS「香港の富裕実業家が海外に資産逃避、逃亡犯条例を懸念」
2 EPOCH TIMES「条例改正案で揺れる香港情勢、富豪らが資産を海外移転」
投資においても潜在リスクを洗い出すことはとても重要ですので、お客様自身の立場から、改めてメリット・デメリットを整理すること、そして取り得る選択肢を増やしておくことはとてもよいことです。
一点補足するとすれば、先月の投稿でも触れていますが、あくまで当社は銀行ではなくIFAという立場ですので、資金の預け先は当社ではなく、お客様のご資金はオフショア地域(マン島やバミューダなど)で管理されます。香港はサービス提供拠点でしかなくしたがってこの話は少なくとも当社にはあまり関係がありません。
さて、アジアの国際金融センターとして、香港とシンガポールを比較される方も多いかと存じます。シンガポールは建国の父リー・クアンユーにより大きな発展を遂げ、50年で随分と落ち着いた国に見られるようになりました。初代首相のリーダーシップが果たしたものは本当に偉大だと言っていいのではないでしょうか。
一方、香港は高層ビルと山が隣り合っていて、何とも不思議な光景です。中国系の人が多いこともあってか、賑やかな印象を持ちます。本当に金融街なのかと思うときもありますが、資産運用会社や会計事務所等の人材の厚みはあります。また、中国本国との関係は、いわゆる「大湾区構想」を進める上で非常に大きなものであり、今後の香港の発展のための重要なファクターであることは言うまでもありません。香港は経済面でもまだまだ伸びていく余地がある都市だと思いますので、香港政府にもリーダーシップを期待します。
資産運用面からみますと、両地どちらも一大金融センターではありますが資産の保全管理はオフショアであり、香港外シンガポール外がほとんどです。富裕層の資産運用にとってはシンガポール vs 香港というより、どの会社の誰をプライベートバンカーあるいはIFAなどのウェルスマネージャとするかのほうが圧倒的に大切です。
先月の債券市場
タイトルから離れた話が続いてしまいましたが、先月の債券市場の振り返りです。
6月末のG20、米中首脳会談の結果に市場の注目が集まる中、米10年国債利回りは2%を切る水準まで低下しました。リセッションのシグナルとも言われる、長短金利差もマイナスのままです。ただし、債券市場は先行きの不透明感に対する投資家のリスク回避姿勢だけでなく、金利観も含んでいるため、純粋にリスク回避姿勢が後退したかどうかだけをチェックするのであれば、金市場も合わせて見るのが良いでしょう。
以下は今年に入ってからの米10年国債利回りと金相場の推移です。
会談では通商協議再開で両国が合意、トランプ米大統領は当面の関税引き上げ見送りを表明しました。これにより、債券市場に対する金利低下圧力は減少したと言えます。また、6月25日のパウエル米FRB議長発言では7月利下げは確定的ではないという牽制もありました。ただし、6月24日には米がイランに対する追加政策を発表し、両国関係緊迫が続いていること、市場における利下げの織り込みは継続していることから、金相場は再び上昇しています。
市場が先行する動きとなっていますが、長期的に見るのであれば、これまでの米中貿易戦争を受け、弱めの経済指標が出てくることも想定されるため、今後発表されるデータを踏まえた、各国中央銀行の景気認識に注目が集まりやすい展開となりそうです。
これまでは月1回程度のブログ更新でしたが、今月からは少し頻度を増やしていければと思っています。お楽しみに!
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