債券市場概観 – 2019年11月

先月の債券市場の話題と動きを振り返り。ウィーワークショックをどう見るか、米中貿易戦争の風向きがどう変わったのか。相場が動きやすい年末に備えておく

今回は定例の債券市場概観をお届けしたいと思います。

ホットな話題としては①ウィーワークショックをどう見るか、②米中貿易戦争の風向きが変わったのかどうかといったところです。早速見ていきましょう。

ウィーカンパニーの社債価格は急落、デフォルトを囁く声も

一番盛り上がったときから多少時間が経っていますが、お客様からの質問も多かったですし、情報も出揃ったところで整理してみます。

何かとソフトバンクグループが取り上げられやすい状態が続いていますが、始めに誤解を生じないように念押ししておくと、シェアオフィス「ウィーワーク」を運営するウィーカンパニーの話題と、ソフトバンクグループ(SBG)の話題は多くの場合、切り離して考えるのが重要です。その上で、SBGとその傘下のソフトバンク・ビジョン・ファンド(SBF)が色々投資をする中で、一部出資を行ったウィー社が経営の曲がり角に来ているということを織り込む必要があります。話題の絶えない孫正義社長ゆえ、色んなインプリケーションを含んでいるのは事実ですが、一つ一つのストーリーは本来シンプルなものです。

ウィー社は予定していたIPO(新規株式公開)を今年9月に撤回し、ニューマンCEOは辞任、それに加えてSBG本体からの経営支援を受け入れました。10月には全従業員のおよそ3割となる4,000人規模のリストラを実施し、この半年はウィー社にとって大きな逆風が続きました。そんな中、ウィー社が発行している社債は今、価格が急落しています。

WeWorkの社債急落、ソフトバンクG支援による債務増大を警戒 – Bloomberg

銘柄:WEWORK 7.875% 05/01/2025

発行額:USD 702,000,000.00

格付:B (S&P), CCC (Fitch)

そもそもベンチャーの段階にある同社では、経営が”悪化”というよりはそもそも資金繰りが非常に難しいです。一連の騒動を経て、事業の見通しと企業評価が見直されたということに付きます。結果として、お金を貸しても返ってこないリスク=デフォルトリスクが高まり、社債の価格急落に繋がっています。

ここから得られる情報としては、もし仮に今ウィーワークが債券を発行して資金を調達しようと思ったらそれだけの高い金利を支払わなければならないだろうということです。実際、利回り15%超となる(投機的格付の)ジャンク債の発行がJPモルガン・チェースに打診されているようです。既に借りているお金については金利が高くなるわけではないので、今いまは借入があるからといって直接経営の悪化には繋がりません。ただし、少なくともこの債券が満期を迎える2025年までには同社は投資家から調達してきて、既存の債券保有者に対して償還のための資金を用意しなければならないことになります。合わせて、攻めの経営をしていくためにもさらなる資金調達は必須と言える状況です。

米中貿易戦争の風向きは変わったのか

答えとしては「風向き変わっていないが、風が凪いだことを機に市場は楽観視はしている」のような気がします。実際、米株式市場は再び上昇基調となっています。

確かに、米中の第一段階での通商合意がなされるのではという観測があり、また双方が言葉の応酬をかけていた一時期に比べれば、態度が和らいだ風に見ることはできます。ただ、実態としてはそれほど変わっていないし、そして米中双方のトップも急いで何かを決めることは望んでいないような気がします。そんな中、香港は見事に渦中にあるわけでありますが、米中貿易戦争という大局観に対しての影響はニュースで報道されるほどは大きくはないと考えます。

米中の「第1段階」通商合意、来年にずれ込む可能性 – ロイター

金融市場を見る上で、一つの大きな変化だったのは、パウエルFRB議長の発言のトーンです。

夏場は利下げをトランプ大統領から急かされていたわけですが、今はそのプレッシャーが随分と和らいだのでしょう。かねてから主張してきた米景気の底堅さの部分をのびのびと話しているような気がします。先に話した米中貿易戦争に対する市場の楽観的な見方とも相まって米長期金利はやや上昇しました。また、短期金利が引き下がったことにもよりますが、逆イールド状態が解消され、リセッションの兆しを主張する人はトーンダウンする流れになっています。

パウエルFRB議長、米経済は「グラス半分が優に満たされた」状態 – Bloomberg 

かたや中国の経済状態は悪化したのか

米中貿易戦争の前であっても、中国の景気は減速傾向にあるとされていました。”減速”であってゼロ成長でも、まして景気後退でもないというのがまたポイントではありますが。

米中貿易戦争の影響で中国景気が悪化したかどうかというのは専門家でも意見の分かれるところかと思います。もちろん特定のセクターは大きく影響を受けたことは事実でしょうけれど。中国の景気動向に関連して、最近あった良いニュースと悪いニュースを見てみましょう。

良い話はアリババの香港上場

香港がデモやら区議会選挙やらでお騒がせしているなか、一時は上場延期をしたアリババがしれっと11月に香港上場を成功させたのは印象的な出来事でした。一つには実体経済はともかくとして、香港の金融ハブとしての機能は損なわれていないこと、そして依然中国企業が資金調達する場として香港は有用であることが確認できたように思います。米国での中国企業の動き方が難しくなっていくなか、ある意味、”自国内”で海外の投資家にアクセスできる香港ではこの手の需要を取り込んでいく可能性が大いにあります。中国本土の市場開放もこれからも続いていくでしょうが、一朝一夕に叶うものではありません。中国本土のいくつかの都市の金融市場(もとい株式市場)が目立ってきたのは、他ならぬ自国の成長に支えられていることの表れでもありますから。

荒れる香港に活気与える「アリババ上場」、1兆2000億円調達 – フォーブス

悪い話は中国地方銀行の取り付け騒ぎ

中国の不良債権問題といえば、ずっと話がされているので忘れがちですが、今年に入って取り付け騒ぎがあった地方銀行がいくつか出てきているようです。これもまた中国という巨大な国の成長の影に埋もれる話なのか、あるいは景気後退のシグナルなのか、個人的には少し注目をしたいところです。

中国で金融巡り警戒サイン相次ぐ−取り付け騒ぎや公有企業の債務再編 – Bloomberg

もう一つ、似たような話で、来年に影響してきそうなのは中国企業のドル建て債の話です。中国企業の債券デフォルトが足元増加傾向にあり、また財務的ストレス状態=無理をしてお金を借りている状態の企業が発行するドル建て債券の40%が2020年に満期を迎えることが指摘されています。先ほどのウィーワークの例では、安く借りていたものが高く借りなければならなくなる話でしたが、こちらはもともと高く借りていたものをさらに高く借りなければならなくなる可能性の話です。

2019年は中国と香港の関係において鬼門の年となりましたが、2008年のリーマンショックからちょうど一回りする来年は中国本土にとってさらに大きな鬼門の年になるかもしれません。中国関連の情報は(誤っているという意味でなく!)言語的な点もあり手に入りづらい印象があるので、個人的には香港という地でリサーチができるのは良いことだと思っています。

中国企業のデフォルト、景気減速で2020年も増加 – ムーディーズ

もうすぐ年の瀬、年末は相場が動きやすい?!

日本人にとってはお正月が休みというイメージが強いですが、金融マーケットの多くを占める欧米の人たちにとっては11月末のブラックフライデーが過ぎればクリスマス休暇の時期に入ります。24時間体制で交代で張り付いているトレーダーすら遠慮なく1ヶ月とかのお休みをとるのが普通なので、金融市場は自然と参加者が少なくなります。取引の流動性が落ちると相場は動きやすくなるので、年末までに何か投資をと思っていた人は早めの方がよいかと思います。

少なくとも12月に顕在化する可能性は低いかと思っていますが、最も厳しいシナリオは主要国の政権の崩落でしょうか。トランプ弾劾、ウイグル問題、桜を見る会、イギリス総選挙、どれを取っても政治的にクリティカルな要素を含んでいる印象です。とはいえ政治評論家のようなことばかり言っていても仕方ないので、少しマーケットの話をたくさん発信していければと思っています。お楽しみに!

関連ブログ:投資の意思決定は自分でするのか、アドバイザーに任せるのか

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