債券市場概観 – 2020年4月
先月の債券市場をざっくり振り返り。3月に比べると日常を取り戻しつつある市場。先行きは未だ不透明なまま
アドバイザーの宮脇です。今回は、恒例の債券市場概観をお届けしたいと思います。3月に比べて随分落ち着いた金融市場となりましたが、改めてポイントがどこであったか、ご確認いただけたら幸いです。
米長期金利は低位推移
米連邦準備銀行(FRB)がゼロ金利政策へと移行したことで、米国債市場は非常に穏やかな推移となりました。引き続き、米長期金利(10年)は1.0%を下回っています。原油価格が一時マイナスになるなど聞かれましたが、特にリスクオン、リスクオフといった目立ったイベントには繋がらなかったかと思います。直近は景気刺激策などのため米財務省が債券を発行して巨額の調達の行う予定であり、国債の需給関係が緩むことが想定されますが、FRB政策により金利の急上昇には繋がらないとは考えられています。
米社債市場はやや分断された感あり
安全資産である米国債に比べ、社債市場は警戒感が維持された印象です。一方で、FRBにより社債及び社債ETFの買い入れが行われるとのアナウンスがあり、投げ売りのような事態には陥ることないまま、格付け会社による個別社債の格付けレビューが終わるのを待っているような状況です。投資適格級と非投資適格級の間でもやや分断された印象を受けます。以下は米国の投資適格級社債に対するクレジットスプレッドの平均値で、デフォルト確率が高いほど、スプレッドが拡大する、というものです。
イタリアの国債利回り推移
新型コロナウィルスの感染爆発が起こったイタリアですが、公的債務の増大を受けてフィッチによる国債の格下げが行われましたが、いまのところジャンク級になることは免れています。利回り追求の動きから、日本の機関投資家も投資を行なっており、いわゆる欧州”周辺国”国債に対する懸念が一時広がりましたが、ECBによる買い入れ増大を受けて危機的状況は免れましたが、依然として警戒が緩まらない水準です。
気になるニュースは、ECBによる従来の量的緩和に対して、財政ファイナンスにあたるのではということでドイツの憲法裁判所が一部違憲判決を出しているというものです。新しく導入された新型コロナウィルス対策案は(新しいがゆえに)判決の対象ではありませんが、欧州域内で上手く足並みを揃えなければならないという欧州連合(EU)条約自体が様々な形で実務的な限界に差し掛かっていると言え、英国のBrexit後のあり方を含め、全体的に課題提起がなされる可能性はありそうです。
日銀は国債購入限度額を撤廃
各国が緊急会合にて追加緩和をしたのに対して印象的だったのは、日銀の定例会合における国債購入限度額撤廃でした。ニュースでは「追加緩和」という報道のされ方をしましたが、識者の見方は冷ややかでした。もともとイールドカーブコントロール策を維持するためには無制限の買い入れを含んでいましたし、逆に制限なく購入できるほど国債の発行がなく、実際の国債購入額は年80兆円ペースを大幅に下回っていたからです。名目的な購入上限を撤廃するのに都合の良いタイミングであった、と言われています。
市場の緊張はかなり和らぐも、平時とは行かず
先月もお届けした米コマーシャルペーパー(企業の短期借入金利)とVIX(ボラティリティ指数)の状況ですが、それぞれかなり改善が見られており、これまでのところ金融市場全体への危機の波及には繋がっていません。実体経済同様、徐々に平時に戻りつつあることが確認できますが、予断を許さない状況ではあると思います。
ベアマーケットはどこへ行った?
先月はブルマーケットからベアマーケットへの転換の可能性について触れましたが、蓋を開けてみると4月は歴史的な株価上昇の月となりました。ポイントとしては、金利は低いまま、金も高いまま、というところですね。決して市場全般が楽観的になるようなリスクオン展開が株高をもたらしたわけではないと言えるかとは思います。5月は改めて2番底を警戒しながらのひと月となることも予想されます。
最後に
香港は少しずつ日常へ戻っていく兆しがありますが、依然として衛生面へのケアは欠かせません。在宅時間が長くなる場合は気づいたらストレスが溜まっているということもありますので、心身ともに意識的なリフレッシュを欠かさず、引き続き健康にお過ごしください。もし質問等ございましたら、お問い合わせフォームより相談いただければ対応させていただきます。