債券市場概観 – 2020年6月
先月の債券市場をざっくり振り返り。株式市場と実体経済の乖離は指摘され続けたものの、金融市場全般、結局大きな動意とはならず。注目のブラジルやボーイングについても触れてみる
アドバイザーの宮脇です。今回は恒例の債券市場概観をお届けします。
米10年国債利回りはほぼ横ばい
かつて日銀がイールド・カーブ・コントロール(YCC)を導入したとき、日本の国債利回りに対する注目が薄れましたが、同じことが米国の国債利回りに対して起こりそうな気配があります。FRB高官の示す、先々の政策金利見通しである、“ドット・チャート”は2022年までゼロ金利の継続を予定しています。
2020年6月の米10年国債利回りは一時0.9%程度まで上昇しましたが、その後は0.7%程度へと再び低下し、概ね横ばい推移しました。一時的な上昇の背景にはリスクオン相場があり、株価をはじめとして買われ過ぎ=過熱感が指摘された後、調整が実際に起こりました。
ブラジルの状況は?
先進国はネタがあまりなかったので、今回は気分を変えて、ブラジルの状況について考察してみます。
ブラジル中銀は2020年6月には政策金利を0.75%下げ、2.25%という過去最低水準に引き下げました。それもあってか、ブラジルの10年国債利回りは2020年3月に急上昇した後は一旦落ち着いてああまり変わらない水準で推移しています。
資源価格の下落と新型コロナウィルスの流行を受けて、経済への打撃は大きく、ブラジルレアルは対ドルで2020年5月に最安値を更新しました。ブラジルは米国に次ぎ、世界第2位の感染者数です。
とはいえ、ボルソナロ大統領は経済再開へ重点を置くという意味でトランプ米大統領に近いスタンスです。もちろん、経済的打撃を踏まえて総合的に判断されるべきものですが、パンデミックへの対処として果たして適切であったか、答えはまだ分かりません。
注目のボーイングの社債は?
米航空機大手のボーイング社は新型コロナウィルスの影響で経営環境が急速に悪化し、同社の資金繰りが課題となっていましたが、2020年4月30日に総額250億米ドル(約2.6兆円)の社債を発行し、政府出資による支援を回避しました。
これにより当面の資金繰りの問題は解決しましたが、肝心の航空機業界の状況は決して芳しくありません。同社の株価もしばらくは不安定な状況が続くでしょう。
ボーイング社が新規発行した社債の状況を見てみましょう。2020年5月の発行時点でのプライシングにより、10年物の社債の表面金利(クーポン)は5.15%に設定され、パー(額面100)での売り出しとなりました。その後、米社債市場全般が落ち着きを見せているなかで、同社の環境も改善し、2020年6月末時点では同銘柄の価格は112円と値上がりし、満期保有利回りは3.72%へと低下しています。
市場の注目は感染の第2波でよいのか
もちろん、経済に与える影響の大きさを見る上で新型コロナウィルス感染の第2波があるかどうか、という点は重要であるのですが、それだけを考えていると投資活動はできません。
なぜなら、感染の第2波がいつ来るのか、そしてどのくらいの規模なのかは誰にも分からないからです。新型コロナウィルス以外にもパンデミックが流行する可能性がゼロというわけでもありませんし。
一つだけ言えることは、「分からないことに対する警戒感」が市場に存在すること自体は悪い方向には作用しないだろうということかもしれません。
過去数年、市場のトピックとしてよく挙げられていた地政学リスクもこの部類です。リスクがないと認識して行動している人に火の粉が降りかかればパニックになりますが、リスクがあると思って慎重に動いている人に降りかかる火の粉は冷静に対処すればよいだけですね。
したたかな投資家であるためにはその先を見る
今回のコロナショックにおいて、①即座に動いた人と、②少し出遅れた感じを醸し出してしまった人、あるいは③動かないと決めていた人、様々だったと思います。
①の方は恐らく心の準備とアクションプランができていたのでしょう。②の方は今から焦って何かを決断しないことをお勧めするとともに、「チャンスをただ待つのではなく、準備をすることの大切さ」を収穫物としていただきたいと思います。③の方は世の中の動きに左右されずできる投資を心がけると良いかもしれません。いずれにしても投資は近視眼的になるときは概ね成功を収めません。
相場が動いていれば様々なことを考えるのが人間ですが、一度相場が落ち着いてしまうと不思議と考えるのをやめてしまいます。荒波に飛び込むのをアドバイザーとしてお勧めはできませんが、静けさを取り戻したときに振り返ることはとても良いと思います。相場の変動のことをよく知った上で行う投資はきっと実があるのではないかと考えます。