中国、税制改正で香港の格差是正を目指す

中国に反発する香港人だが、もし中国が香港の格差問題を積極的に解決するとすれば彼らはどう考えるのだろう。

「私、貧乏だったから22歳になるまで映画館に行けなかったのよ」という同僚の香港人女性の言葉を聞いて衝撃を受けたことがある。

世界には、映画館がそもそも近隣にないところに住んでいる人たちは大勢いて、また近隣に映画館があったとしても映画館に行けないくらいの生活水準で暮らさねばならない人が世界中には大勢いることは知識としては理解している。

しかし世界の金融センターの香港の、これまた近代的なビルの最上階のオフィスでガラス越しにビクトリア湾を見下ろしながら、しかもその女性はパンツスーツをパリッと着こなす人。弊社の300人いる営業のなかでは上位10%にははいる。当時、すなわち同僚が幼いころの映画チケットは日本円で400円くらい。「貧乏で映画館に行けなかった」という言葉はあまりに現実離れしていた。

彼女は香港の中でも貧しい漁村の生まれで、小学校にあがるまでは船の上で寝泊まりをしていた。勉強ができたので、香港の有名国立大学に入って学位をとり、そこから人生が好転していったというのだ。絵に書いたようなサクセスストーリーで、その成り上がり人生自体が香港を象徴しているなぁと思った。そこら中にチャンスがあってカオスだが、努力すれば報われる社会。至るところに「私の出世物語」があるのが香港だ。

しかしそれも、香港が「東洋の真珠」と言われていたころの1970-80年ごろの話。

現在では格差が固定化し、貧乏人は一生貧乏なままで金持ちはますます金持ちになっている。香港のジニ係数は上昇し、1996年の5.18から2018年の5.39まで上昇、過去最悪を記録している。上昇幅だけみるとわずかな上昇かもしれないが、そもそもジニ係数は0.4を超えると争乱が多発するといわれている。香港はそもそも、年がら年中デモがあってもおかしくない格差状態なのだ。

一連のデモの背景には格差問題

香港で2019年から起こったデモはこういった格差の問題を避けては通れない。外国から香港のデモをみてると、単に民主化運動しか見えてこないがデモ参加者全員が純然たる表現の自由を求めているわけではない。民主化はあくまで声なき者の声を反映させる手段であって、利益を最大化させようとする巨大財閥企業と、それと癒着する香港政府に反旗を翻すための手段であった。

ではなぜ表立って財閥企業や香港政府を批判しないか。これはあくまで僕個人的な分析ではあるが、香港人の愛国心は日本人のそれとはまったく違うし、中国人の「かつて列強にいじめられてきた」ゆえの愛国心ともちょっと違う。香港人は香港を世界でもっとも進んだ国だと心の底から思っている。政治汚職は少ないし金融は発達したクリーンな街。外国人にとっては自由で開かれた街。世界から憧れられる街。格差の問題は大事だけれど、香港が発展する上では避けて通れない犠牲であった… うっすらそんな思いがあるからこそ、表立って政府や財閥を批判するのは自己撞着と感じられるのではないか。

理想のために闘った、といえば聞こえはいいしもちろんそういう側面は大いにあったろう。しかし実態としてはこれだけ開いてしまった格差が今後もずっと固定されるのではないかという不安感のワラに、逃亡犯条例や教科書問題で着火したという構造ではなかろうか。

中国が、税法を改正して格差を是正しようとしている

もし格差問題がデモの通奏低音としてあるなら、中国が税法を改正して格差を是正するというこの発表についてデモをおこなっていた人はどう思うのだろう。格差を是正してくれるなら、中国でもなんでもいいと思うのか。それでも香港政府の自治の原則を貫き通し、格差是正は内発的に行うべきと考えるのか。

香港の格差問題は、住宅問題が大きい。政府は土地を売却して税収を確保しているが、高い税収を支えるために土地をオークション制とし、不動産デベロッパーたちにビッドさせてあまりに安いビッドばかりだと売却自体をとりやめて高い価格を維持している。

そして不動産デベロッパーも土地取得から開発までを遅らせたり、また完成したマンションの販売を遅らせたりとあの手この手で高価格を維持しようとしている。香港の格差問題は住宅問題なのだ。仮に賃金が安くとも、政府が公共住宅を潤沢に提供してくれさえすれば生きていけるし、尊厳の問題とはならない。失業率はコロナで上昇したが、ワクチンが広まるにつれまた落ち着くだろう。尊厳の問題となるのは、仕事がないか、家がないかのどちらかだ。

そういった尊厳の問題に直面した人たちが一連のデモでもっとも暴れた人たちだ。なので政府はデモ後急いで土地を供給したりと格差問題の解消に走った。しかし土地があってもデベロッパーが建築をしなければ意味がなく、人手不足を理由にデベロッパーが購入した土地が何年もほったらかしになっていたりする。

記事によると中国はこれら不動産の問題が社会不安の元、デモの元であるとして土地の潤沢な供給や税制の改正で政府収入を増やして格差の問題を解決しようとしている。

ちなみに冒頭の女性に格差問題のことを聞いてみたら、「私は厳しい環境を這い上がってきたので、格差問題が解消されるべきだとは思わない」とこれまた香港人のビジネス強者らしい意見であった…

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