いま1億円投資するなら?

Bloombergの連載で「いま1億円投資するなら?」という企画。各回答者の好みがはっきりしていて面白く、ツッコまずにはいられない。

Bloombergの連載で「いま1億円投資するなら?」という企画がある。3ヶ月に1度更新され、大手証券会社はもちろん、プライベートバンクやIFA、ベンチャーキャピタルのCEOや投資責任者(チーフ・インベストメント・オフィサー)、アナリストら6人が一度に回答してくれる。1人の回答1つ読むのに1分もかからないから、この6人からタダで1分ずつアドバイスを聞かせてもらっているようなものだ。

アドバイザーにとってはクライアントとお話するときの小ネタとして使える。また放っておくと歪みがちな市場観を矯正してくれる。

回答がポジショントークでないのがいい。いや実際にはポジショントーク色がゼロではないのだが「この株式を、この債券を買え」と営業色がたっぷり出ているのとは違う。「いま1億円投資するなら?」という、いわばどのようにでも答えられる質問であるだけに、結局1億円を何に投資をしていいのか不明なことも多い。が、それも一つの味。トークからポジションを間引く必要がないため、よりその人が個人的に考えていることが表に出てしまう。

また四半期ごとに経年で記事を残してくれているため当時を振り返って答え合わせしやすい。2019年第1四半期では新興国投資の祖と言われるMark Mobiusが「ロシアが買いだ」と明確に書いている。当時、利上げによって新興市場への投資熱が冷めかかっていたのにも関わらず安易に米株とか言ってないところはさすがブレないなぁと感心してしまう。そして実際にロシア株はコロナ後も絶好調である。

日本語の記事ではあまりこういう記事を見ないので、かいつまんで紹介したいと思う。「いま1億円投資するなら?」の回答の抄訳と僕のツッコミを入れておく。

一人目 – ピーター・フィッツジェラルド(アビバ・インベスターズ・サービス、チーフ・インベストメント・オフィサー)

ゴールド、しかし…

ゴールドは現在のように中央銀行がマネー・パンプを続けている限り上昇する余地はある。しかしどうやってそれを評価するのか。キャッシュフローもないので分析しようがない。ゴールドは投資家のディズニーランド。「(リターンを)エンジョイできる」と信頼しなければいけない、魔法の国。ETFなどでゴールドを買いやすくなっているので、安心を買うならゴールド。

小椋のツッコミ

前提として、この「いま1億円投資するなら?」に対する回答は100億円ある方にとっての1億円ではなく金融資産1億円の方のための1億円。具体的な割合、たとえば株式にン%みたいな書き方をしているものもあるが大体において「どの金融資産をオーバーウェイト(買い増し)するべきか」ということであり、1億円全額をそこに突っ込めと言っているわけではない。

一人目のピーターさんはゴールド推し。とはいえ自信がないのかどっちつかずな書き方をしている。高値にあることに警戒があるのか。ゴールドは買いなのか売りなのかはっきりしてくれ。ゴールドについての意見は僕のそれとは違うようだが、やはりゴールド人気は根強いものがあるのだろう。

二人目 – ニルソン・テイクセイラ(マルコ・キャピタル、チーフ・インベストメント・オフィサー)

ブラジル・メキシコを除く新興諸国

ドル安傾向が続くなかで、新興諸国はだいたいにおいて良いパフォーマンスをあげる。個人的には出身国であるブラジルと、アジア新興国に重きを置いている。なので先進国中央銀行が利上げをするまでは新興国には良い風がふくのではないか。とはいえメキシコとブラジルについてはアジアよりも悲観的な見方。政治的・教育・統治機構での問題が多すぎるからだ。

小椋のツッコミ

二人目ニルソンさん。あなたみたいな多額のポートフォリオを管理している投資責任者でも個人の投資となるとポートフォリオは偏っちゃうのですね。しかし出身国をオーバーウェイトしてしまうのは仕方がない。日本人投資家が日本株ばかり持っているのは、やはり同じ言語だと情報が入りやすいからだ。ポートフォリオは偏りがちになるが、安心感には代えられない。ふつうの投資家が「私のポートフォリオ偏ってますかね?」というのは馬鹿げている。思い入れがある資産に偏るのはむしろ正しく資産運用している証拠。

三人目 – シャーリー・クリスタル(ゴールデン・イクエイター、創業者兼CEO)

ESG、テクノロジー(SNS, ライブストリーミング)

ほとんどの資産価格が下がるなかでESG投資(Environmental, Social and Governance、環境・社会・企業統治に配慮している企業を選別して投資をする。企業が社会的責任を果たしているかどうかの尺度での投資)だけは他の資産クラスよりも良好な成績であった。また国単位でみてもサステナビリティ重視型企業の多いデンマークの株式市場は他国と比べて大きくアウトパフォームしている。なので今後もESG関連銘柄、- 株式でも債券でも – は継続していくだろう。

またテクノロジーに対しても注視している。リモートワーク関連はもちろんのこと、人々の行動パターンがよりデジタルに置き換わることで動画配信やソーシャルネットワークのあり方が根本的に変化している。これは先進国・新興国両方に見られる現象だ。

小椋のツッコミ

クライアントから1億円をお預かりするとして、アドバイザーとして「ESG投資します!」とそのクライアントに向かって言ったらたぶんすぐにアドバイザーを解雇される。ESG投資は長年に渡ってインデックスには勝ててはいない。その時代がいつか来るかもしれないが、社会的に素晴らしい企業の株価が同じく素晴らしいわけではないのだ。

インデックスに毎年1-2%ビハインドすることを「社会的により良いことをするためのコスト」だと割り切れる投資家は多くはない。ESG投資をするくらいならふつうのインデックス投資をして、その収益を募金なりするほうが投資家の納得感は高いのだろう。

四人目 – ハンズ・オルセン(フィデューシャリー・トラスト、チーフ・インベストメント・オフィサー)

郊外の不動産

連銀が利上げするのは当然先なので、株式・債券で分散されていれば十分。それら分散されたポートフォリオを持った上でなおエクストラの資産を購入するとすれば、郊外の不動産。ボストンやNYから車で1.5-2時間くらいの。リモートワークで都会に居続ける意味が薄れたし、郊外なら自然の豊かさも味わえる。これまでのような一極集中がなくなって郊外不動産には注目が集まっていることもあって投資と実益とを兼ねる。個人的には米メイン州の海のそばがいいな。株や債券と違って、郊外不動産は「楽しめる」資産クラスだぜ!

小椋のツッコミ

「楽しめる」というハンズさんの属人的な視点が入っており、もはやアドバイスになってはいないがご愛嬌。たしかにアメリカの郊外の不動産は上昇している。今から乗っかっても遅くはないのかもしれない。ただ1億円投資するなら、という企画なのに自己居住の住宅は入れてもいいのか。

一方で「すでに分散されたポートフォリオを持っているとすれば」という部分は大事かも。ビジネスは一点集中が基本、資産運用は分散が基本。

五人目 – スタン・ヤング(ロックフェラー・キャピタル・マネジメント、MD兼上級クライアントアドバイザー)

ジャンク債、流動性の低いABS

忘れがちなのは、金融緩和が大規模に行われたからといってすべての債券価格が上昇しているわけではないということだ。なぜなら連銀がすべての債券を買い上げることができないからだ。したがって価格が上昇した債券もあればそうでない債券もあってモザイク状になっているというのが実情だ。そこを細かく見ていかねばならない。たとえばABS(資産の裏付けがある証券)でも買い叩けるものは多くある。私たちは流動性の低いものについても相対で取引できる立場にあるので、個々の証券ごとに投資判断をすることになる。

小椋のツッコミ

スタンさん… あなたは質問の主旨を理解していない。1億円ホルダーにとっての1億円をどうするか、という質問だ。資産ン兆円の大財閥ロックフェラー・ファミリーに仕えるファミリーオフィスの話を聞いても一般の投資家には参考にならない。が、とんでもないお金持ちには様々な投資機会があることだけはよく分かった。

六人目 – マイク・ノボグラッツ(ギャラクシー・インベストメント・パートナーズ、CEO)

ゲーム・エンターテイメント

今後5年でバーチャル・リアリティが普通になる。5Gで通信速度がとんでもなく早くなるし、クラウドの計算能力はますます上がる。すでに私はこういった企業に投資をしているし、もし1億円投資ができるならゲーム業界一択で投資をする。ただゲーム業界も新陳代謝が早いので特定のゲーム会社にだけ投資をするのではなく幅広く網をかけて置かなければならない。10年後には良いリターンが期待できるだろう。

小椋のツッコミ

香港に住んでいる人間が「ギャラクシー」と聞けば、マカオのカジノが真っ先印思い浮かぶ。このギャラクシー・インベストメント・パートナーズはネットで検索したところベンチャーキャピタルのようだが、マカオのカジノと関係があるかどうかまでは分からなかった。

とはいえゲーム業界一択、とは。ただ、マイクさんはポジショントーク入っていると感じるのかな? ベンチャーキャピタルでゲーム事業を出資先のメインとするなら、Bloombergという巨大メディアを使って投資家の関心を引くことを考えるからだ。ゲーム業界はたしかに変貌していくだろうが、5Gやクラウドはゲーム業界に限ったことではなくあらゆる業界でデジタルフォーメーションを加速させるからだ。

素晴らしいポートフォリオは必ずしも万人にとって素晴らしくない

「いま1億円投資するなら?」シリーズを読んでいて毎回思うのが、コメントする方の趣味嗜好がポートフォリオに大きく反映されるため万人ウケするものではない、ということだ。僕なら一人目のピーターさんのようにゴールドをオーバーウェイトしないし、四人目のハンズさんのように郊外不動産なんて手間の掛かりそうなものには投資はしたくはない。

また経年でみると1年前は郊外不動産やらゲームやらは出てこず、わりとマトモな、たとえばエネルギーとかテクノロジー一般が有望投資先となっていた。逆にいうと伝統的な資産が出てこないというのは最高級の頭脳をもってしても投資先に苦慮している証拠なのかもしれない。

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