女性は偏ったアドバイスを受けやすい?
ファイナンシャル・アドバイスの質に男女差はあるか。調査によると女性クライアントのほうが男性クライアントより偏ったアドバイスを受けるという。
アメリカにおおいては30%の家計が投資にまつわる意思決定をするときにファイナンシャル・アドバイザーを利用するといっている。79%の個人投資家が過去に何らかのファイナンシャル・プロフェッショナル(ファイナンシャルプランナーやファイナンシャル・アドバイザーを利用したことがある、と答えている。
しかしクライアントが受けるアドバイスには性差があるようだ。
女性は(男性に比べて)悪いファイナンシャル・アドバイスを受けるか?
Do Women Receive Worse Financial Advice?
という論文が先月発表されていて、興味深く読んだ。結論から先にいうと女性は対金融プロフェッショナルに対して、男性よりも不利な立場にいる。
香港大学が実施したフィールドワークのレポートで、65の証券会社やIFAに対して見込み客を装い覆面調査を行った。訪問した証券会社、IFAの名前は列挙されていなかったので弊社に覆面調査員が訪れたかどうかは分からないが、アドバイザー数で業界2位の弊社がこの65のうちの一つに入っていたとしてもおかしくはない。
覆面調査員はそれぞれ男性調査員・女性調査員が年収400-700万円くらいのサラリーマン世帯を想定し、以下の3つの要素についてファイナンシャル・アドバイスを求める際に変化させ、どんなアドバイスが出てくるのかを測定したものだ。その3つの要素とは、
リスク性向
取りうるリスクが高いかどうか。高い場合、「市況が悪いときにはお金がなくなっても構わないが、市況がよいときには稼ぎたい」と答える。低い場合、「安全なものを買いたい。自分が考える安全なものかどうかが心配」と答える。
投資判断にまつわる自信
自分の投資判断の自信度合いについて。自信がある場合、「投資判断は自分で下せるので通常アドバイスは要らないが、友人が是非あなたに会ったほうがいいというので今ここにいるだけだ」と答える。低い場合は「今まで自分で投資判断をしたことがない。これまではパートナー(夫・妻)や家族が行ってきた」と答える。
ローカル傾向
将来、香港(ローカル)で退職するのか香港以外で退職する可能性があるか。香港で退職する場合「香港で生まれ育ってきたから、これからも香港に住み続け、香港で退職を迎える」と答える。香港以外で退職する可能性がある場合「将来はカナダに引っ越そうと思っているが、カナダでリタイアするかどうかは分からない。香港に戻る可能性もある」と答える。
偏ったアドバイスとは
ローカル・バイアス
覆面調査官に香港(ローカル)株式しか勧めない。香港株式が世界中で今後最高のパフォーマンスをあげるとアドバイザーが信じているなら別だが、そうではなくて単に香港株になじみがあるから勧める、というだけなのだ。
非分散
金融商品には分散されたインデックス・ファンドやETFなど分散されたものがたくさんあるなかで「個別株式」という非分散の極致なものを調査官にお勧めする。
逆に偏っていないアドバイスとは、ローカル株式だけでなく他の金融市場の商品もオススメしながら、インデックス・ファンドやETFで分散するというポートフォリオとなる。
論文の結論
この客のフリをした覆面調査員による聞き取りで、以下のような傾向が明らかになった。
- 女性投資家は男性投資家に比べて偏ったアドバイスを受けやすい
- リスク性向が高いほど偏ったアドバイスを受けやすい
- 投資判断について自信があるほど偏ったアドバイスを受けやすい
- ローカル傾向が高いほど偏ったアドバイスを受けやすい
香港は金融の街とはいっても、香港人全員に金融知識があるわけではない。金融に関する教育はやや他の先進国よりは進んでいると感じるものの、個人の資産運用においてはファイナンシャル・アドバイザーを利用するのがふつうだ。
香港の人口750万人のうち2.5万人(およそ3%)が、これら個人投資家に仕えるプロフェッショナルであると言われており、私たちIFAもこのなかに含まれる。
そして香港の株式市場の参加者の46%は女性であること、香港の労働人口の54%は女性であること(香港では男性の働き手が少ない)を考えると香港で資産運用に関するアドバイスを求める投資家のうち2人に1人は女性であるとも推測できる。マーケットの半分を占めるのに、アドバイスに偏向があり、女性クライアントに不利な扱いをするのは業界の損失だろう。
社会的な平等が確立されている香港ですら性差に基づく偏向アドバイスが存在しているわけだから、日本や韓国などジェンダーギャップが大きい国は推して知るべしだろう。
別の調査
ドイツの銀行で27,000人を対象に行なった調査によると、ファイナンシャル・リテラシーが低いクライアントほどより高いフィーを支払い、銀行員から引き出せるリベートや手数料割引きを受ける比率が少ないことが分かっている。日本だけでなくドイツでも「家計における資産運用の判断は男性が行うもの」という習慣があり、より多くの投資情報に接している男性のほうが、金融機関に対してより強気でいられ、その結果より良いディールを引き出せることになる。
その結果、「資産運用の判断は男性がするものだ」という考えがますます補強されることになる。
アドバイスにジェンダーギャップが生じる理由
論文ではアドバイスにジェンダーギャップがある理由についてまでは踏み込まれてないが、個人的には以下のような原因があるのではないかと推察する。
男性アドバイザーの、女性クライアントへの偏見
男性アドバイザーは数字や統計という金融の基本的部分について「女性は数字が苦手」というジェンダーバイアスがあるように思う。しかし実感から言っても数学の素養に男女差がないばかりか女性のほうが数字に強いと思う場面もある。なんらかの刷り込みによって「女性は数学が苦手」みたいな意識が男性アドバイザーにあるのだろう。では女性アドバイザーなら女性クライアントにジェンダーバイアスのかかっていないアドバイスが出来るかというと、この論文では女性アドバイザーでも女性クライアントに対しては男性アドバイザーのように振る舞う(=偏りのないアドバイスができない)という残念な結果となっている。
相談にきている女性が最終決定者ではないのではないか、という疑念
前述のとおり、家計における資産運用は男性がする場合が多い。なのでアドバイザーの前に女性が相談に来ていたとしても「最終的に旦那さんに相談するなら、なぜ今しっかりと時間をかけて目の前の女性に説明をする必要があるのだ」とアドバイザーが考えてしまうのかもしれない。
投資金が少ない(だろう)ことに起因するコスパ問題
アドバイザーは資産運用アドバイスを売っているが、投資金が1億円でも1,000万円でも同じように時間をかける。しかしアドバイザーの収入は10倍違ってくるので、必然的にコスパを意識するようになる。女性は投資に対しては慎重=投資金も少なくなりがち、といった思い込みがあるように思う。
これらの理由が重なって、もっとも説明が手軽な香港市場株式を一択(分散しない)という雑なアドバイスをしてしまうと考えられる。
AMGのアドバイザーに性差に基づく偏向アドバイスはあるか
これについて前述の論文のような正確な統計を取ったわけではないが、弊社日本デスクの顧客の男女比はおよそ5:1であった。ただクライアントの90%近くが一任勘定で、性差が捨象された状態で管理されるためアドバイスに性差が出てはいない。しかし金融商品のアドバイスについては自覚できるほどには偏向がある。男性クライアントにはリスクの高いものを、女性クライアントにはリスクの低いものをオススメしている印象がある。実際にはリスクをより低くしたい男性、リスクをより高くしたい女性がもちろん存在しているのだが、その部分をきちんとヒアリングできているかはチーム内でも反省が必要だろう。
またアドバイザーによって女性クライアント比が異なっている。小椋のクライアントでは女性の割合は10人に1人くらいだが、他のアドバイザーでは10人に3人となるアドバイザーもいる。女性のクライアントが多い理由は、アドバイザー本人のアドバイス傾向がアグレッシブなものなのかコンサバティブなのかによるものが多い。統計的には、やはり男性はリスクテイクしがちで、女性はコンサバティブな場合が多いからだ。リスクテイクを許容するようなアドバイス・ポリシーのある小椋は必然的に男性クライアントが集まり、そうでないアドバイス・ポリシーのあるアドバイザーは女性クライアントが集まりやすい傾向にある。
女性投資家が偏向アドバイザー、偏向アドバイスから自衛するためには
アドバイスの質について、ジェンダーギャップがあると分かった以上、女性投資家にはなんとしてもこの壁を突破していただきたい。たとえば、
- 金融商品を一通り知り、比較し知識を深めておく。金融商品が一種類でない以上、どのような商品にどのような特性があるのかを知りアドバイザーの雑なアドバイスを鵜呑みにしない知識を身に付ける。またアドバイザー自体も複数会い、検討する。
- 可能ならパートナーとアドバイスを受ける。これはよく言われていることだが男性だけ、あるいは女性だけでアドバイスを受けるより男女一緒にアドバイスを受けたほうがより良いファイナンシャル・プランが描ける。男性の積極的な部分を女性がブレーキをかけてリスクを取りすぎないようにするのはもちろん、二人でアドバイスを聞くことでお互いに気付いていないポイントを指摘し整理することができる。
- アドバイザーの報酬体系を知る(その商品をオススメするインセンティブを知る)。その金融商品をオススメする理由が、アドバイザー個人の経済的な理由なのか、そうでないのかを知ることができる。たとえば手数料の分厚いヘッジファンドではアドバイザーへのバックマージンも大きいので、アドバイザーは金融知識の乏しいクライアントにそういう商品を勧めてくるかもしれない。「この商品はどの程度リスクが分散されていますか?」と聞くのも良いかもしれない。
知って学んで、良い資産運用ライフを♪