株価、為替ともに大暴落した韓国マーケットをどう見るか
にわかに注目を浴びる韓国市場。株価、為替ともに下落した韓国マーケットに投資の機会はやってきたのか。
今回は、日本からも地理的に近く、観光・文化面でも交流の多い韓国の市場ニュースについて触れてみたいと思います。私の所属するファームには韓国チームもあるので気にしているアドバイザーも少なくありません。
足元韓国市場が急速に注目を浴びている背景
政治の話になると長くなってしまうので、シンプルにまとめてみると、
① 8月2日、日本側が、安全保障上の輸出管理におけるホワイト国(優遇対象国)から韓国を除外する政令改正を閣議決定
② 8月22日、韓国側が、日韓軍事情報包括保護規定(GSOMIA)を延長せず、破棄の意思を通達
が大きなイベントだったと言えるでしょう。
しかし、要約すれば、「安全保障上=軍事上」の話だった気がするのに、なぜそれが経済の話につながってくるのか、という気もしますよね。
それは、輸出主導型という韓国固有の産業構造に由来しています。
日韓の関係悪化の話以前に、そもそも米中貿易戦争等を背景とした世界経済の減速懸念というのがありましたよね。実は、韓国のこの産業構造はすなわち外需依存度の高さを意味していますから、もともとこの世界経済の減速の影響を受けやすい状況でした。実際、終わる気配のない米中貿易戦争に対し、韓国経済が落ち込むことは不可避だったと言えます。
一方、なぜ日韓の関係悪化が経済に悪影響なのか、という点はもう少し詳しく見る必要があります。
韓国といえば、LG電子やサムスン電子は日本人にも名の知れた大企業でしょうか。韓国は特に半導体メーカーが世界の半導体メモリで約70%のシェアを占めるとされています。ではその部品はどこからくるかというと、それが日本だったわけです。日本企業は高純度フッ化水素、レジスト(感光材)、フッ化ポリイミド等の半導体材料で世界の70%以上のシェアを占めるとされています。これら3品目については①の前段で、7月1日に経済産業省が「大韓民国向け輸出管理の運用の見直しについて」という発表がありましたが、その際にJETROが対日依存度の数字についてまとめてくれています。
こうした輸出管理の見直しは何も”禁輸措置”という訳ではないのですが、韓国経済への影響は甚大だと受け止められています。確かに日韓関係の悪化もそれなりには寄与したとは思いますが、どちらかといえばそれは一要因であって、前述の世界経済の減速であったり、あるいは韓国文在寅政権そのもののの政策基調であったり、朝鮮半島情勢の不透明感だったりといった複合的要因が重しになっていると考えるのが自然かと思います。
次にマーケットに与えたインパクトを振り返ってみましょう。
韓国ウォンが再び急落している
世界的なリスク回避のムードの中で、いわゆる新興国通貨に分類される韓国ウォンは以下のチャートが示すとおり、急速に下落しています(チャート上は上に行くほど韓国ウォン安)。ウォン相場は実はよく、アジア通貨の「炭鉱のカナリヤ」として、アジア経済へ警鐘を鳴らすと言われていますが、それは先に触れた韓国の産業構造に由来しています。したがって、ウォン相場の動向を見ることは日本や中国の株式市場、あるいはアジアの新興国市場の今後を占う上で非常に重要になってきます。
韓国ウォンは過去に世界通貨基金(IMF)に救われたことがある
多くの人の記憶の中で、金融危機=リーマンショックではないでしょうか。しかし、実際にはそれ以外にも金融危機はありました。1997年のアジア通貨危機です。このとき、経済破綻をした韓国は、その通貨である韓国ウォンはIMFの管理下に置き、IMFからの融資を受けました。当時は格付け機関ムーディーズによって国家信用格付けが投資非適格であるBa1(ダブルB)まで短期間に下げられましたが、その後、2001年にはIMF支援体制から脱却を果たしています。
また、2008年の世界同時不況のときにも、韓国ウォンは大幅な下落を経験しています。当時もドルウォンが1,200ウォンを上抜けしたときに、危機感が高まり、外貨準備が急速に底をつきました。当時は米国や日本から通貨スワップによりドルを借りてしのいだ歴史があります。
このように国際社会のバックストップもそれなりには働くとは思いますが、金融ショックともなれば、韓国はアジアでも有数の金融市場ですから、諸外国への影響は免れ得ません。
韓国株式市場の暴落が止まらない
韓国の取引所はKRXと呼ばれ、時価総額ベースの市場規模でいうと、東京、上海、香港、インドに次ぐ規模になります(野村資本市場研究所調べ)。
代表銘柄である、韓国総合株式指数(KOSPI)、新興企業向けコスダック(KOSDAQ)は共に大幅に下落しています。
2020年予算案と赤字国債の大量発行
韓国政府は8月29日の国務会議において、2020年予算案を確定しました。韓国は来年に総選挙を控えていますが、文在寅政権における3年目となる予算は合計513兆5,000億ウォン(約45兆円)の超大型予算となります。今年も9%超の予算増ではありましたが、それには半導体産業の好況などが背景にありました。しかし、来年の税収は落ち込む見通しとなっており、その中で再度9%超の予算拡大なので、過去最大となる60兆2,000億ウォン(約5兆円)の赤字国債が発行される見通しとなります。今年の赤字国債発行額は33兆8,000億ウォンでしたから、およそ2倍に拡大する計算です。
韓国の国債格付けについては、格付け機関のムーディーズは7月8日に、「Aa2」に、フィッチは8月9日に「AA-」に維持したばかりです。格付けで見れば日本よりも高く評価されていることにはなりますが、韓国の今後の財政的なファンダメンタルズの評価は注目になるかもしれません。
まとめ
株価の調整は待っていた人も多いでしょうし、韓国企業は優良先も多いので、買い場と捉らえる人もいるでしょうが、韓国経済及び世界経済のいずれも先行きの不透明感漂うなか、短期間での株価のリバウンドは見込みづらいかもしれません。投資家心理が改善するには、まだまだ時間がかかりそうです。普段忙しくてマーケットの動きを追いきれない人は、是非ご相談ください。