香港の通貨管理制度はどうなるのか

香港で流通する通貨は香港ドル。マカオのパタカと合わせて両替に悩む人は多い。民間銀行が発行し、米ドルペッグの管理制度はいつまで続くか。

香港で流通している通貨は「香港ドル」

香港は狭い地域ではありますが、中国本国の「人民元」とは別に独自の通貨があります。また、香港経由でマカオに入る人も多いと思いますが、マカオも独自の通貨「パタカ」があるので、両替をどうしようかと迷われた人も多いかと思います。

もちろんその地域の通貨を使用することがベースにはなってくるのですが、香港では人民元が使えるケース(何なら人民元で値段を書いているケース)もありますし、マカオで香港ドルを使うことも概ねできます。

香港ドルは基本的に民間銀行が発行

香港の場合、発券銀行は、香港渣打銀行(スタンダードチャータード銀行)、中国銀行香港分行(中国銀行)、香港上海匯豊銀行(HSBC)の民間3行で、20、50、100、500、1000ドル札を発行しています。図面はそれぞれ違いますが、全く同じように使えます。唯一、10ドル札だけは、香港金融管理局(HKMA)が発行しています。(ちなみに10ドル硬貨も流通していますので受け取ってもびっくりしないでくださいね。)

日本も新紙幣のデザインを発表したばかりですが、香港も2018〜2020年にかけて順次新デザインの紙幣が流通する計画となっていて、1000ドル札は2018年12月12日から、500ドル札は2019年1月23日から発行開始しました。旧紙幣が使えなくなる訳ではないですが、記念で持っておきたいという場合以外は、一度香港に来て交換しておくのがよいかと思います。

私はこれまで世界40カ国以上を旅しましたので、色んな国の通貨を見て、ほぼ通貨マニアと化してますが、民間の銀行が紙幣を発行しているのはかなり珍しいです。どの国も一般には政府紙幣ですから。政府が銀行に対して発券業務の許可を出しているにしても、これだと銀行は勝手に紙幣が印刷できたりしないの?という疑問に答えるのが次に紹介するカレンシーボード制です。

香港ドルは変動相場制ではない

一般には、為替は変動相場制か固定相場制です。日本はかつて固定相場制でしたが、1973年のオイルショックを機に変動相場制に変更しています。

現在、香港ドルはカレンシーボードという制度下に置かれており、いわゆるドルペッグ制です。為替レートは1US$ = 7.8HK$です。一見固定相場制に見えますが、香港ドルの場合は正確には、linked exchange rate systemいわば「連動相場制」という言い方をします。また、厳密な意味では香港には中央銀行はありません。その代わりHKMAが管理を行なうことになっています。ただ、時代とともにHKMAは流動性供給等の機能を備えたので、HKMA自身が市場で果たす機能は中央銀行に限りなく近いものになっているのも事実です。

カレンシーボード制とは、発行する香港ドルに対応する量の米ドルをHKMAに預ける、というものです。したがって、HKMAがいかなるときも、1US$ = 7.8HK$で香港ドルを米ドルと交換できますよ、という事実をもって、香港ドルの価値の保証をしているわけです。

米ドルの”量”が重要なので、香港ドルと米ドルの金利については必ずしも同じである必要はないのですが、制度設計上、連動させるために、結果として金利は追随する傾向があります。ただし、昨今金融政策正常化に向かった米ドルに対し、HKMAは政策金利を上昇させましたが、実は民間銀行レベルでの香港ドル金利はさほど上昇をしていません。これには潤沢な流動性が銀行側にあり、住宅ローン等で貸し出そうという意欲が強いことが背景にあると言われています。

現在、米国は経済地域としては中国と香港を全く別のものとみなしていますから、米国は香港にとって重要な貿易のパートナーであり、かつ米国経済の影響をもろに受ける存在であることを意味しています。日本であれば、景気が悪くなったので、通貨をたくさん発行して景気刺激をしよう、といったことが可能ですが、残念ながら現在の香港の制度ではそれが叶いません。つまり、米国の景気がいいにも関わらず、香港の景気が悪いといった状態になることが香港にとって一番苦しいことを意味します。

よくあるドルペッグ制とは異なる?

香港ドルのドルペッグ制は、カレンシーボードを採用しているという点で、他国で見られるドルペッグ制度と(マニアックなレベルですが)少しだけ異なっています。通貨価値の保証の仕方が、かつての「金本位制」に近く、なんの裏付けもなくペッグさせているわけではないのが特徴です。例えば、サウジアラビアのドルペッグ制は1US$ = 3.65リヤルの固定相場ですが、この維持には外貨準備を使っています。産油国の場合、外貨準備は原油の輸出により増加するため、原油価格が下落すると、外貨準備が減少し、「固定相場の維持に必要なドルは足りてますか?」と市場から問いかけられることになります。

為替管理制度は永遠ではない

日本が為替管理制度を過去に変えたことがあるように、香港ドルのドルペッグ制が崩壊するのではという観測は近年も何度かメディアでも話題になりました。例えばこれ。その背景はやはり、香港経済の中国依存度の高さにあります。先に触れたとおり、金融政策は米国に追随することが余儀なくされるにも関わらず、実際の景気は中国に左右されますから、米国と中国の景気が逆方向を向くような局面では、香港ドルのドルペッグ制にとっては逆風となります。

ブレインストーミングとして人民元ペッグ制はどうなのか

よく話に出されるのは人民元とのペッグ制です。その国にとって依存度の高い経済に寄る通貨という形をとるのがシンプルだからです。ただ、人民元の国際化という流れは続いているものの、残念ながら人民元そのものが変動相場制をとっておらず、現在は通貨バスケット制です。ちなみに人民元が通貨バスケット制になったのは2005年の話でそれまでは固定相場制でしたので、”実質的に”香港ドルと人民元は固定化されていた時期もありました。香港ドルは人民元と米ドルの狭間にあって、今が一番難しい時期ですね。

今は香港は「高度な自治」が認められていますが、香港が特別行政区でなくなるときがくるとすれば、そもそも人民元を流通させてしまうということが現実味を帯びるかもしれません。為替相場の形というのは永遠ではないのですが、香港ドルの未来はどうかという点に関して見通しを立てるには時期尚早であることは言うまでもありません。

先週、2019年7月25日にHKMAの長官交代(Norman Chan Tak-lam → Eddie Yue Wai-man)の正式アナウンスがありましたが、次の方がどうHKMAを運営していくかも注目です。

結局、香港ドルってどうなの?

色々話しましたが、自由な金融政策が取れるからといって、お金を刷ってもなかなかインフレにならない上、変動相場制なのに、円が安いといってアメリカに言われる日本に比べれば、香港ドルが、基軸通貨である米ドルを裏付けに流通していること自体は、さほど悪くはないように私は思います。

通貨もまた一つの価値をもった「モノ」ですから、価値が変動するということは忘れてはいけません。特に外貨建ての投資をなさる場合は、より高い利回りが得られる可能性があること以上に、為替の変動の影響がプラスにしてもマイナスにしても大きいことは理解しておく必要がございます。

ただ、弊社が香港にあるからといって香港ドル建てでお預かりする必要は全くはないですし、また香港ドル建てで保険商品や投資を検討される方もそもそも多くはないので、こと香港ドルに関していえば、実は杞憂といえば杞憂ですかね。

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