ビジネス直結! AMGはどう見てる? 2019年にかけての経済/金融の諸問題

2019年を迎えるにあたって経済/金融の諸問題についていくつか深掘りしていきたい。具体的にどのようなアクションをすればいいのか。

10月から始まった金融市場の動揺以来、弊社AMGには今後の金融市場の先行きを不安に思う声が多く寄せられた。弊社には様々なクライアントがいるが、その中でも特に際立っていたのがご事業をされている社長からの問い合わせで、最終的に2つの疑問に行き着くことがわかった。

  1. 日本円、米ドル金利はどうなるのか
  2. 不動産などの実物資産の価格はどうなるのか

1つ目の金利動向についての質問は、たとえばこれから事業の拡大をするために新規の融資を検討していたり、融資のロールオーバーが満期に迫っていたりする場合に問題になる。

2つ目の実物資産についての質問は、弊社で保有する金融資産のポジションの含めたすべてのポートフォリオのリバランスを考えなければいけない局面に差し掛かっているのではないか、という疑問だ。

社長のCFOとして

社長はご自身の事業については専門家だが、よりマクロな視点で金融経済を見ているヒマはない。同時にわたしたちが日頃考えているような、いわば経済金融の総論的な部分がご自身の事業について大きなインパクトを持つことを知っている。総論が各論、ご自身の事業に影響を与えるから、お問い合わせ頂いた方の中にはリーマンショック直前に商圏拡大を目指し大きく設備投資をしてその後の数年間は塗炭の苦しみを味わった方もいる。景気が不安定な中で、アクセルの踏み方を間違えてしまうと致命傷になることもあり、私どものようなアドバイザーの考えが求められる。

本稿では一般的な経済情勢に対する質問からさらに一歩踏み込んで、質問を頂いた社長の会社のCFO(財務担当執行者)となったつもりで回答したい。

Q. 2019年、世界経済は景気後退に陥るか

A. 景気後退とまではならないがわずかに減速

10月から始まった世界同時株安は2008年のリーマンショック前後の株安を思い起こさせる。株式はもちろん社債も売られた。上昇したのは米国債とメタルくらいだろう。リーマンショック後の2009年世界経済の成長率は前年比で-1.7%落ち込んだ。ちなみに今年は3.7%程度で終えそうで、ここ10年でもっとも良い状態だ。失業率も最低水準、企業収益は好調、高かった原油価格もあれよあれよというまに高値から40%下落。原油価格の下落は即消費につながるから、2019年中に減退局面に入る可能性は低いだろう。

ただし、アメリカの巨額減税効果の減衰、米中貿易戦争の実体経済への影響、ECBの秋以降の利上げ期待などで投資家心理は冷え込む可能性が大きい。米国債の3年/5年のイールドスプレッドも逆転し、投資家は短期的には悲観している。これが2年/10年のイールドスプレッドが逆転すると、6-18ヶ月後の景気後退入りはほぼ確実となることが過去のデータより明らかになっている。2年/10年は今のところほとんど近接しており、不気味な状況ではある。

しばらく緩和的な政策に慣らされていたわたしたち投資家は、連銀の利上げに一喜一憂することなく覚めた目線でファンダメンタルズを見ていかなければいけなくなる。

Q. 連銀の利上げは止まるか

A. 止まらない。なので米ドル建てローンは前倒しして借りる

トランプ大統領の挑発で、パウエル連銀議長がクビになるかもしれないと噂され、ムニューシン財務長官が火消しにまわった。トランプは不動産出身だから金利は低いほうが当然ビジネスをやりやすくなる。

連銀の利上げは「失業率の低下」と「物価の安定」という2つの政策目標に対して行われる。逆にいうと、それ以外の目標に対しては行われない。「株価の安定」は連銀のスコープ外である。パウエル議長がクビになりそうにないということ、失業率が低く物価も安定していることから連銀は次の不景気に備えて手綱を握っておきたいはずだ。もし2019年度以降の利上げをゼロとすると、先の不景気のときのように一気に金利を下げて不安を解消することができなくなる。経済が好調な今のうちに金利を上げれるだけ上げたいと思うだろう。

米連銀が政策金利を上昇させると市中金利も上昇する。もし米ドル建てのローンを組む予定がある、あるいはロールオーバーが直近であるなら可能な限り前倒ししておくと借り入れコストが安く済む。
肝心の利上げ回数だが、各投資銀行は2回3回4回とバラバラである。どちらにしろ利上げはされるし、利上げが止まることはない。したがってそれを見越した株式買いなどは避けるべきだろう。

ちなみに、直近12月19日のFEDドットプロットでは来年は3%前後になることが示唆される。

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Q. ECBは政策金利を上げるのか

A. 少なくも2019年夏までは上げない

2019年の夏までは政策金利を上げない、といったのはドラギECB総裁本人である。すでに資産購入による量的緩和を終了するとの意向を示唆しており、夏のイタリア・ショックやフランスの暴動は一時的なものであり、ECBの量的緩和停止と利上げについて影響を与えるものではないとしている。

Q. 米中貿易戦争は今後どうなるのか

A. 五里霧中だが、米中覇権争いはこれだけで終わらない

習近平はもともと対米強硬派を擁してトップに上り詰めた経緯があるので、ここで弱腰を見せると政権内での立場を危うくしてしまう可能性がある。トランプも本人が貿易赤字解消のための関税は公約であったので容易には取り下げない。どちらが次の覇権を握るのか、という大きなテーマがある。この決着には3つのシナリオが考えられる。可能性が大きいと思われる順にあげていく。

  1. 中国が妥協する。かつての日本のように、いったんは恭順の姿勢。日本は農産物や自動車の関税で報復には出なかったが、それでアメ車が日本車を駆逐したか? カリフォルニア米が日本米を駆逐したか? サンキストオレンジが温州みかんを駆逐したか? 関税を取り払い市場を開放したところで売れないものは売れない。メンツは立たないが実利を取るなら中国は市場をある程度開放するだろう。もし中国から輸入するすべての産品に25%の関税がかかるとすると、中国のGDPは1%以上下落する試算もある。これは不景気感が目に見えるレベルだ。
  2. 90日の停戦がさらに延期される。国民の関心が他に移ったところで、玉虫色の解決。どちらのメンツも立つ。
  3. アメリカが妥協する。関税障壁は諸刃の刃である。中国のダメージばかり言われるが、関税のせいでアメリカの物価が上昇しトランプ大統領を支える低所得層の財布を直撃することになると、政権へのダメージとなる。大統領再戦を狙うトランプにとってはこれは避けたいところ。

米中貿易戦争がきっかけで全世界の景気が冷え込むにはまだ時間がかかりそうだ。

Q. 中国経済は破綻するのか

A. 破綻をどう定義するのかによる

安っぽいナショナリズムの匂いがする中国破綻論が幅を利かせている。破綻というとアルゼンチンやジンバブエのように国がデフォルトを起こしハイパーインフレとなり経済が大混乱に陥る、というのが一般的な経済破綻だろうが、中国がそうなる確率はほぼゼロだ。

しかし、リーマン・ショック後にGDP成長率は6-7%であるにもかかわらず債務は年間20%ペースで増えている。これらの巨額の債務を引きずり続けることで経済が鈍化し政情不安になることは考えられる。中国国内のデフォルトは飛躍的に増えているので、経済運営の正念場であることにはかわりはない。

また中国は人治主義の国なので、もし中国から撤退するかどうかを悩んでいるなら即撤退することをおすすめする。地方政府の税収が下がっているから、どんな難癖をつけられてカネを巻き上げられるかわからない。中国の景気が良かったころは、それでも旨味があったが。

Q. 消費税増税の影響は

A. 2020年からデフレに逆戻りするのではないか

消費税率が変更された1989年、1997年、2014年ともに導入から物価が下がる。大体その下げ幅は1-2年で3%。消費税が導入されてから一貫して民間が企業努力により消費税分の消費を補っているかたちとなる。給料が上がらないのもそういった努力の結果だといえよう。来秋に増税を断行するのであれば、増税前の駆け込み需要を使い果たした後は寒い現実が待っている。

「オリンピックまでは景気は大丈夫」という誰が一体どういう目的で流しているのか分からない言説があるが、2008年の北京オリンピックのリーマン・ショック、2012年ロンドン・オリンピック前の欧州債務危機、2016年リオ・オリンピック前のドル高による南米債務危機と、オリンピックとその国の景気は全く関係がない。次の東京オリンピックもそうだが、資産価格は世界経済に影響される。新興国がインフラを含めて大規模にやるオリンピックならともかく、次の東京オリンピックのようなケチケチ・オリンピックで経済効果を期待するほうが間違っている。

消費税増税で日本が景気後退入りする局面は十分にあるだろう。日本の物価上昇率は0.7%前後だから、ここから3%落ちるとすると一気に財布の紐が固くなり、デフレマインドが戻ってくるだろう。すなわちリスク資産を売り、現金志向が高まることになる。ちなみに日銀の政策委のタカ派/ハト派 – リフレ志向/安定チャートは次のようになっているらしい。黒田総裁はもっリフレ志向なのかと思っていたが。

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まとめ

米ドル、ユーロの金利は上がりやすい。すなわち円が売られ円安となるキャリートレードが成立しやすい。米ドル、ユーロでの融資は早めに借りておく。不動産など現物資産は可能であればキャッシュ化しておく。

それでは皆様、よいお年を。

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