香港でIFAになるには
香港でIFAになりたい人向けの記事。業界のカルチャーやAUMがない人向けにどうやってIFAファームに入り込むかについて。
前回、IFAがどういった職能をもっているのかについて説明をした。今回は前回に引き続き、一体どのようなキャリアパスを通って香港IFAのウェルス・マネージャーになるかについて書いていきたい。IFAは「上品な野武士集団」であるとのイメージを僕は持っている。このIFAになってやろうという人はどんな人物で、どんなキャリア・パスが待っているのか。今回はクライアント視点ではなく、これからIFAとして一旗あげてやろうとIFAを目指す方の目線で書いている。
「IFA」とはアドバイザー個人を指し、「IFAファーム」とはIFAを束ねる会社のことを指す。
弊社AMGには登録数ベースで250人ほどのIFAが在籍している。そして僕自身は在籍12年になり、AMGに入社した2007年当初15人ほどIFAが在籍していた小さなファームだったのが、リーマン・ショック後の積極的な買収攻勢で規模が大きくなり、今ではIFA登録者数でいうと業界1位のコンボイに次いで二番目の大きさとなった。
どのIFAでも目指すのはただ一つ。預かり資産残高の極大化だ。
KPIはAUMのみ
IFA業界のKPI(Key Performance Indicator、重要業績評価指標)はシンプルだ。預かり資産(AUM, Asset Under Management、えーゆーえむと読む)の残高が今現在どれだけあるか、そして今年それをどれだけ増やしたか、だけである。
AUMを極大化することがIFA個人としての成功であり、IFAファームはその一点のみに関心がある。AUMがすべてであるので、職位も関係ない。一応マネージャークラスやバイス・プレジデント、マネージング・ディレクターと一応は分かれてはいるものの、そもそも上下関係がほとんど存在しない世界なので肩書きに意味はない。上下関係がほとんど存在しないので、出世競争や社内政治とは無縁である。逆にいうと、AUMがなければいくら上司へのごますりが上手でも生き残れない厳しい世界でもある。
たとえば大富豪の子息がIFA業界に入って1年目からとんでもない報酬を手にするのはこういうカラクリがある。そもそもIFAはAUMで評価される世界なので、在籍10年目のAUM100億円の人間が在籍1年目でAUM200億円となった人間より評価が低いというのは何の違和感もなく受け入れられる。ブルネイの王様が親戚、とまではいかないが香港の富豪3家族だけを相手にして莫大なAUMを維持しているアドバイザーがAMGにはいたりする。
そこにアドバイザーとしての技量や知識、アドバイス全般の品質は当然求められるのだがAUMと独立して単体で評価されることはない。親が大富豪だったから持ってこれたAUMも、アドバイス品質が高かったから持ってこれたAUMも同じ評価だ。縁も運も知識も技量もいっしょくたになってAUMとして数字という結果になるわけなのだから、途中の経緯は問われない。
こういった「AUMがすべて」という身も蓋もないカルチャーがIFA業界には根付いている。もっともこれはIFA業界だけではなくプライベートバンク業界など他のウェルス・マネジメント業界にも言えることだが。
歩合制 or 給与制
次に、IFAの報酬形態について。
もともとIFA業界は伝統的にフルコミッション制(歩合)であったため、今でもフルコミッションで働いているアドバイザーは多い。というより、フルコミッションで働けるからこそこの業界を選んでいる人間が多いのだ。なので所属しているIFAファームがフルコミッション制から年俸制にすると彼らはフルコミッションで働ける他のIFAを探して転職してしまうだろう。もしフルコミッションではなくサラリーとなると、会社との上下関係ができてしまう。これではサラリーマンと変わらないことになってしまう。
IFAを目指す人間は「何をするにも自分の裁量、自分の責任、誰の指図も受けない」という環境を好む。IFAファームはそんな一匹狼の集合体であり、力のある狼ほど(すなわちより多くのAUMを持っているIFAほど)サラリーで報酬を受け取ることを嫌がることをファームは知っている。このため今後もIFAファームがサラリー制に移行することはないと思われる。
歩合制なのでIFAが大きなプレッシャーをかけられることはない。売らなければ自分の報酬がなくなるだけであり、自分が行動しないリスクは会社でなく自分が抱えているからだ。数字が落ち込んでいるIFAには会社からフォローはされるが、叱責されることはまずない。
ただ、IFA業界もレギュレーションが年々厳しくなってきておりIFAになるための参入障壁が年々上がっている。昔は「腕試しにちょっと冒険してみるか」という感覚でIFA業界に飛び込めたが、今では入念な準備をしていないとIFA業界で生き残ることはできない。このためIFAの高齢化も進んでおり、下に述べるように若手IFAには固定給を出すところもちょこちょこ出てきてはいる。
IFAの成功モデル
IFAの成功モデルは昔から変わっていない。生命保険など大きなコミッションが発生する金融商品販売で日銭を稼ぎ、信用を得てからは運用性のあるものでAUMを蓄積し、最終的に資産運用から生じるアドバイザリー・フィーで食っていくというものだ。ずっと生命保険ばかり売っていると目先のキャッシュは貯まるがAUMが蓄積しないためずっと営業活動を続けていかねばならない。逆にAUMが蓄積するものばかり売っていても最初はAUMが少ないため生活を支えるほどのアドバイザリー・フィーは取れない。
新人IFAにはこのバランスが難しい。IFA業界をよく知るクライアントが新人IFAを好まないのは、単に知識や経験が不足しているのもあるが、新人IFAはバカの一つ覚えのように生命保険の提案しか持ってこないから話が続かないのだ。
アガリはUSD100m
AUMがどれくらいに達すれば「アガリ」となるのかはIFA人それぞれだが、今までAMGでアガっていったIFAをみるとUSD100mが最低ラインとなろう。アドバイザリー・フィーはIFAファームと折半するので、クライアントに1%チャージするとして仮にIFAの手取りをそのうち0.5%とする。USD500,000くらいがIFAの収入となり、営業経費を差し引いたとしてもUSD400,000くらいがIFAの純収入となる。ここからさらに税金が引かれたとしても、日本円にして年間3,000 – 4,000万円くらいの収入は確保できる。いくら物価の高い香港だとしてもまぁまぁ高い水準の生活ができることにはなる。
もちろん、クライアントが運用を継続してくれるとは限らず口座を閉じることもある。いくらアガったとはいえまったく業界から足を洗うわけにはいかない。ただクライアント数が多くなればなるほど紹介が発生することもあり、新人のようにむしゃらに営業しなくとも口コミがAUMを支えてくれることになる。
IFAファーム選び
私たちIFAはどうやってIFAファームを選んでいるのか。これは「メリット比較」と「引き抜き」があるだろう。
ほとんどのIFAファームは前述したとおり、フルコミッション制である。仮にある金融商品を販売したとして投資額の5%の手数料が販売側に支払われるとしよう。IFAファームとしての手取りは5%で、個々のファームがその裁量においてIFA個人に3%支払うのか4%支払うのかを事前に取り決めておく。もちろん、IFA個人としてはこの手取りは多いほうがいいに決まっているのだが、物事には常にトレードオフ関係がある。
IFAの手取りが高いファームは事務サポートやITサポートが薄く、またオフィスの立地も悪いことがおおい。IFAの手取りが少ないファームはこれと逆となる。サポートが手厚くオフィスも駅チカで豪華だったりする。
このように、比較可能な要因でIFAファームを選択することはあるものの、一方で「引き抜き」も多い。引き抜きはファームAにいるIFAがファームBにいるデキるIFAを個人的にリクルートするようなイメージだ。AMGではどちらかというとこの引き抜きが多い。しかも一人ひとりのIFAではなくチームごと引き抜いてくる場合もある。AMGでのIFA登録人数が一気に増えたのもチームごと他IFAから引き抜いてきたのも要因だ。引き抜きというとなにか後ろめたいことのようにも思えるが、業界的にはご法度ではなくむしろ日常的に行われている。香港人の愛社精神はヘリウムより軽いので、ファームを次々と変える「ファーム・ホッピング」も常にある。
クライアントが自分と合うIFAファームを数社まわるようにIFA自身も転職活動のときは数社回ることとなる。ちなみに僕は4ファーム回ってAMGに決定した。僕は前IFAファームから引き抜かれるほど優秀ではなかったので自分で面接に申し込んだ。
AMGに入社するIFAたちの前職
ちなみに、弊社にはどういったタイプの人間が転職してくるのか。これも正確な統計があるわけではないのだが、弊社の人事部に聞いてざっくり教えてもらった。
- 40% – 他IFAから転職
- 20% – 保険営業
- 10% – 富裕層向け商品のセールス(ゴルフ会員権、美術品、高級車ディーラーなど)
- 10% – 証券、銀行(プライベートバンカーを除く)
- 10% – プライベートバンカー
- 10% – その他
やはり多いのが他のIFAからAMGに転職してくるグループだ。チーム単位での引き抜きがあるため、いきおい頭数は多くなってくる。
また保険営業、たとえばマニュライフやプルデンシャルからの転職組も多い。AMGでもマニュライフやプルデンシャルの保険を取り扱うことはできるが、なぜか専属エージェント(たとえばマニュライフに所属しマニュライフの商品しか販売できない販売員)よりもAMGでIFAとしてマニュライフを販売したほうがコミッションが高かったりすることがある。
そして富裕層向け商品のセールス。かつて数年間にわたりぶっちぎりで営業成績トップだった女性IFAは前職の香港のゴルフクラブ会員権の販売でもトップだったそうな。ちなみに同時期に彼女とトップを争っていたもうひとりの女性は元プライベートバンカーだった。IFAとして成功しているのは女性が多い。女性はコミュニケーションが上手だしコツコツ努力できるからかもしれない(ステレオタイプではあるけれど)。
香港のIFA業界で働くためには
ざっくりIFAの人となりをつかんでいただいたところで、ようやく本稿の本題である。そもそもの前提として、香港のIFA業界で働くには香港で就労ビザを取得しかつ証券3科目(Paper 1, 7, 8)、保険3科目(Paper 1, 3, 5)と必要試験に合格していることが前提となる。その上で、キャリアは2つに分かれる。
転職前にAUMがあるか、ないかだ。
AUMがある場合
転職前にAUMがあるIFAのキャリア・パスは単線的だ。1年目から前の会社のクライアントにAMGで口座を開いてもらうよう説得し、AUMを積み上げていく。ざっくり初年度はUSD5mくらいあれば他の金融商品とあわせて販売することで生き延びられるだろう。次年度以降はアガリとなるUSD100mに向かってひたすら積み上げていくのみ。
AUMがない場合
AUMがない場合でもIFAで働くことはできる。
よくある無謀なパターンとしてはAUMがないにもかかわらず己の能力を信じてフルコミッションで働き、契約がとれずにボロボロになって1年もたたずにやめていくケース。
仕事のできるサラリーマンが「自分にもなんとかなるだろう」と思い込み、フルコミッションの厳しさを知ってやめていくケース。どんな成績でも一定のサラリーが確保されるのとはちがって、歩合制では数字がなければ収入はゼロで、その上営業経費がかかりゼロがマイナスとなる。このプレッシャーはキツイ。AUMがないのに業界にフルコミッションで飛び込むという無謀はオススメしない。
しかしAUMがなくともサラリーをもらいながらIFAファームにもぐりこむ方法はいくつかある。代表的なものを2つあげる。
特別なスキルを活かして、ファームあるいはチームに雇ってもらう
たとえば香港デスク(香港人クライアントを対象とするチーム)であれば、かならずといっていいほどクライアントから海外移住や海外留学の相談、また海外に別荘を買う相談などが持ちかけられる。資産運用以外の相談にすべて「知りません」と答えていたらクライアントは離れていくので、ファーム単位あるいはチーム単位で資産運用以外のニーズに答えるコンシェルジュ的な部署がある。そのコンシェルジュ的な立場でまず働き、コネクションを作りながらIFAとしての素養を身に着けていく。他のIFAからこぼれ落ちたクライアントを拾いながら、AUMが拡大を目指す。
バディ、アシスタント
IFA業界も分業体制が進んでおり、かつては一人で営業から事務まですべて行っていたものが営業をIFAで行ったり事務作業だけをやるIFAが誕生した。10年前は「客を取られてしまっては元も子もない」とクライアントの連絡先はひた隠しにしていた。
しかし最近ではチーム内でわりとオープンにクライアントの情報を交換するようになってきた。制度としてはクライアントとIFAは一対一だが業界が深化するなかで新しい付加価値をつけていかないと生き残れなくなっているからであり、IFA一人がクライアントに与えられる付加価値なんてたかがしれているためクライアント一人に対して二人(バディ制)で営業にいったり、事務処理だけをアシスタントに任せたりするようになった。弊社の日本デスク内でも僕が違う日本人IFAのクライアントに会いに行ったり、その逆もある。
IFAファームの求人募集をみていると、ジュニア・アドバイザーみたいな肩書で固定給が支払われるアドバイザー職の応募が時々ある。こういう求人は十中八九複数のIFAを束ねたチームのアシスタントとしてのポジションとなる。
AUMがない場合は、こういったところから入って新規クライアントとのコネクションを作り、やがてAUM100mを目指すこととなる。
上品な野武士集団
仕える上司を持たず、腕一本でのし上がっていくさまはスーツを着た野武士集団である。弊社AMGでもフルコミッションのIFA職は年中募集しているようなので、すでにAUMがある方はぜひIFA職にチャレンジしていただきたい。AUMがない方の募集もたまに行っているので、こまめにチェックしていただきたい。