アドバイザーと投資家とのすれ違い – その原因と対策

なぜこうもすれ違ってしまうのか。その原因と対策

金融市場が大きく動いている。

二番底を今か今かと待ち構えている方、ドル転(円を米ドルに両替すること)のタイミングを見計らってる方など日々の金融市場の動きを注視されている方も多いだろう。

弊社にもそれにまつわる質問が多い。資産運用に興味のある方は弊社のようなファイナンシャル・アドバイザー、資産運用事業者と接する機会が多くなっているのではないか。

「貯蓄から投資へ」「老後資金2,000万円問題」など資産運用に関するバズ・ワードが飛び交っている。不安な心理から資産運用アドバイスを求める投資家と、新規契約を取りたいアドバイザー。両者の思惑はすれ違ってはいないか。これが単なるすれ違いだけであれば、アドバイザーと投資家の歩み寄りやコミュニケーションの蓄積によって解消できる場合もあるだろう。しかしこの最初のすれ違いが投資家にとって不幸の始まりになる場合も多々ある。

このようなすれ違いがなぜ発生しているのか、どうやってすれ違いを未然に防ぐか。結局は

投資家自身が行動し学習するしかない

と考えるに至った。「資産運用はアドバイザーに任せておけば安心」はアドバイザーの売り口上であり投資家の怠慢である。投資家がしっかりと自立し、アドバイザーとの間に程よい緊張感を維持し、アドバイザーから最良のものを引き出すにはどうすればいいか。

事例をあげながら、その原因と対策を考えてみた。投資家をディスるつもりはないのだが、「投資家からフィーをもらっておいて投資家にもすれ違いの責任があるなんて、どういう了見だ」と思われたらごめんなさい。

すれ違い事例

まず、よくあるすれ違いの事例を投資家目線でいくつかあげてみよう。

「今、資産運用を始めるタイミングでしょうか? 」と聞いたのに、はっきりした物言いをしない。こちらはフィーを払ってるのだし、それを商売にしてるならバシッと「始めるべきです」とか「今がチャンス」とか言って欲しい。

  • 投資家 : アドバイザーは未来を見通せる
  • アドバイザー : 未来を見通せるワケない

1. アドバイザーは未来を見通せない

リスクを取るならリターンを欲する。当然だ。問題は、そのリターンを得られる確率、蓋然性がどこまでいっても100%にはならないことだ。もし「確実に儲かる投資(英語でSure bet)」があるとすれば、その情報は瞬時にプライスに織り込まれて「ちょっとは儲かるかもしれない投資」「全く儲からない投資」「損する投資」のどれかになる。

投資家はアドバイザーのことを占い師かなにかのように考え、水晶玉で未来を占ってほしいと考える。「その水晶玉に見える未来」を教えてくれ、と。

しかしアドバイザーは占い師ではない。将来のマーケットがどうなるかは見通せない。アドバイザーの仕事は現在のリスクを管理することだ。そしてその現在リスクは過去の統計から判断したものだ。「一般的には」とか「傾向として」とか「過去の統計によると」とか、投資家からすれば奥歯にモノが挟まったような言い方しかできないのは、アドバイザーが正直であることの証拠でもあり、逃げの一手を打っているわけではない。

とはいえ投資家心理は不安なもの。みんなSure betに投資をしたい。でもそんなものは存在しない。1秒先ですら不確実なブラックボックスなのだ。ただ「歴史は繰り返さないが、韻を踏む(マーク・トゥエイン)」ので、私たちアドバイザーがかつて金融市場で起こったことを人より少し多くに知っているのでブラックボックスの中の道先案内はできるのだが。

投資経験がないと最初に伝えたのに、いきなりリスクの高そうなものを勧められた… 自分は金融のことなど知らないのに、一体どういうつもりだ。

  • 投資家: ハイリスク投資といえば株とFX。ローリスク投資といえば定期預金
  • アドバイザー: 投資経験がなくともその人にふさわしい資産運用を提案したい

2. アドバイザーはあなたのことを知らないし、あなたも金融商品のことを知らない

アドバイザーの頭の中には大きな天びんがある。一方には投資家の年齢や性別、投資経験や仕事のキャリアなど定量・定性的な情報と現在の市況をのせる。もう一方には自分の知っている金融商品をのせる。そして天びんが釣り合うかどうかを頭の中でシュミレーションする。

アドバイザーは投資家に投資経験がないことその一点だけを取り上げて「では米国債でも買っておきましょう」なんて言ったりはしない。年齢が若ければ、投資経験がなくとも株式インデックスをオススメするかもしれないし、仕事で頻繁にキャリアが変わっているとなると手元現金をより分厚く維持するために期の短い債券をオススメするかもしれない。

アドバイザーには何百というクライアントの資産運用パターンがストックされていて「こういう方にはこういう運用がいいのではないか」という勘を持っている。その勘を最大限に引き出すために、アドバイザーは投資家にいろいろと質問をぶつけるのだ。

また投資家側でリスクが高い、と判断したものは実は資産運用の世界ではリスクが低いものなのかもしれない。

金融商品のリスクというのは絶対的客観的に存在しているものではなく投資家がそれにどれくらい運用時間をかけられるのかで相対的に決まるものなのだ。個人投資家はその時間軸をたいてい考慮しない。なので「株式はリスクが高くて債券はリスクが低い」みたいな大雑把な捉え方をしてしまう。債券にもリスクが高いものはあるし、株式にもリスクが低いものもあるのに。

金融商品に関する知識がないのであれば、脊髄反射でリスクが高いか低いかを判断せずまずはせっせと知識入れをしていく姿勢が必要かもしれない。

「無料相談」と書いていたのに、メール5往復くらいした後に返信がぱったりなくなってしまった。最初は質問にも丁寧に答えてくれて、いい人だと思っていたんだけど…

  • 投資家: 相談無料って書いてあるから、ずっと無料
  • アドバイザー: ずっと無料ではない

3. アドバイザーは、おカネのために働いている

もちろん、すべてのアドバイザーがカネの亡者だと言いたいわけではない。職業倫理がきっちりしているアドバイザーもたくさんいるし、おカネ以外のところで人のために動く人情派のアドバイザーも意外と多い。私たちも常にそうありたいと思っている。

しかしアドバイスを生活の糧にしている以上、おカネを稼がなければならない。

アドバイザーがクライアントの相談に無料で乗るのは、これからフィーが発生する見込みがあるからかであって、そのアドバイザーが「無料で働いてくれるいい人」だから、ではない。無料相談、というのは相談する人に「いつでも何度でも無料で相談できます」と言っているのではないのだ。

もちろん投資家心理として「アドバイザー選びに失敗したくないから、得られる情報はすべて得ておき、一片の疑問もなくなるまで質問を続けたい」という気持ちは分からなくはない。しかしアドバイザーは有限の時間をおカネに変えていかねばならないので、無限にも思える会話にお付き合いすることはできないのだ。

アドバイザーでなくても、働く人の働く動機はおカネであることがほとんどだろう。中にはおカネはさておき楽しくて仕事しているという幸運な方がいるだろうが、一般的には生活のために働いているのだ。

この当たり前の事実を知ると、アドバイザーが強欲なのかそうでないのかを判断する目も育ってくる。アドバイザーは何らかの方法で投資家から手数料を頂くわけだから、盲目的に「いい人そうだから信じる」的なこともなくなってくるわけだ。

僕の経験ではあるが…

過去にメールのラリーを54往復続けた相談者の方がいた。僕は途中で意地になって「ラリーにかけた埋没費用を回収するためになんとか客にしてやろう!」と意気込んでいたが根負けした。最後に私から「弊社のサービスは十分説明させていただきました。その上で口座開設のご関心がないのであれば今後はこのメールアドレスには返信いたしません」と書いたらその方はなんと、違うメールアドレスから送信してまた会話の続きを始めたのである… いやポイントはそこじゃなく… 結局、その方は弊社のクライアントにはならなかった(涙)。

4. 社長・社員の関係でアドバイザーを管理する

浮いてるカネがあるからアドバイザーに資産運用を任せたんだけど、イマイチ結果が伴ってない気がする

  • 投資家: うまい具合に運用しろ
  • アドバイザー: 加減が分かりません

これまでのすれ違いが実際に資産運用を開始する前のすれ違いだったのに対して、これは開始後のすれ違いであるためより深刻であるともいえる。

「浮いてるカネがあるから運用を…」

余剰資金がないと資産運用は始められない。日々のやりくりにも困るような方は弊社に相談してはこない。浮いてるカネがあることは資産運用を始めるにあたって強い誘引となっているのは間違いない。一方、アドバイザーにとってはこの言葉は恐ろしい響きをもつ。一見アドバイザーに大きな裁量を与えているようだが、実は違うからだ。

銀行金利よりもちょっとトクすればいいのか?
レバレッジをかけてイチかバチかの投資をしたいのか?
一万円札を窓からバラまくお手伝いをすればいいのか?

すなわち、そのおカネをどう育ててどういう満足に帰着させたいのかという投資家の考えが見えないのだ。こういう場合、私たちアドバイザーがすることはたいてい「リスクの低いもの(したがってリターンも低いもの)に投資をする」である。元本を毀損する可能性が低ければ、説明責任を問われる可能性も同じく低いからだ。大きすぎる裁量を与えるのは、裁量を与えていないのに等しい。

しかし、投資家は不満である。「せっかくアドバイザーにおカネを預けているのに、なんだか増えないな…」と。

これは、アドバイザーが投資家の考えをきちんと聞いていないこと、また投資家がアドバイザーにきちんと指示を与えていないことに起因する。もともと浮いたカネなので指示もへったくれもない、いい感じに運用してよ、じゃダメなのだ。その資産運用における時間軸を決め、目標を設定し、毅然として生活資金・事業資金とは別にし、どういったリスクなら許容するという意思を持たねばならない。

目標の定まらないおカネはいきあたりばったりに放浪し、自分のところに戻ってくるころにはすっかり痩せ細っている。大切なおカネに旅させるのであれば、しっかりとその旅路をバックアップしていかねばならないが、もしアドバイザーにバックアップをお願いするのであれば、どういうバックアップが必要なのかを共有しておく必要がある。

これは社長と従業員の関係に似ている。もちろん投資家が社長で、アドバイザーは従業員だ。

「会社に貢献してもしなくてもいいよ」と言いながら社員に給料を支払う社長はいない。会社をこうしたい、これくらい業績をあげたいなど会社にとっての目標を社員と共有しながら会社を成長させていくのが通常だ。社員を採用するときは「コストをかけてでもその社員がいることで会社に利益をもたらせるかかどうか」が判断基準だろう。社長たる投資家がどういう結果を望むのか。それには何を妥協しなければいけないのか。そういったことをアドバイザーと話し合う必要がある。

アドバイザーの生活費は投資家のポケットから出ていることを忘れてはならない。そのコストに見合う働きをアドバイザー期待するなら、おカネにどういう働き方を求めるのかをきちんとアドバイザーに伝える必要がある。

原因

こういったすれ違いが起こる原因は以下の3つに集約されるのではないか。

  • 基礎的な金融知識の欠如
  • コスト意識の欠如
  • 丸投げ

対策

すなわち基礎的な金融知識を身に着け、コスト意識を持ち、アドバイザーに丸投げしなければ、こういったすれ違いはかなり減らせるのではないか。たとえば…

  • 証券口座(ネット証券)で金融資産の取引を始める(金額は問わない)
  • 口座やファンドの手数料などを自分で調べることができる。また同じタイプの金融商品の手数料を比較することができる
  • 資産クラス、金融商品の特性をおおまかには知っている
  • 経済ニュースを読んで、記事の主旨はつかめる

ネット証券がいいのは、営業マンがいないから。対面営業だとやはり百戦錬磨の営業マンの言いなりになってしまうことが多いからだ。ご自身で少額でもいいので、資産運用をしてみるとファイナンシャル・アドバイザーの仕事が透けて見えてくる。たとえば有名な経済評論家の意見を読んで銘柄を買ってもそれが当たらないのであれば、「将来を見通せる人なんていない」という当たり前の事実に腹落ちすることだろう。

また大切な資金をリスクにさらす、ということが一体どの程度のメンタル負荷を生むのかも分かる。1円でも下がるとビクビクするのか、半値になっても全然余裕なのか。家計資産のうちもっと運用に回してもいいと思ったか、あるいは逆か。

株式の動きと債券の動きは、どちらが自分にはフィットしたか。それはなぜか。同じような投資信託がいくつもあるのはなぜか。各種手数料が運用成果にどう影響を及ぼすか。日々の経済ニュースはどんな内容で、それが金融市場にどのような影響を及ぼしているか。

こういった資産運用まわりの雑多なことを知識として得ながら、生の体験をしておく。そうすれば、アドバイザーとのすれ違いも確実に少なくなる。不安な投資家心理につけこむアドバイザーや証券営業とも適切な距離がおける。アドバイザーを選ぶ基準も自分のなかにしっかりと育つ。

資産運用は面倒なもの。知識を入れるのも経験するのもそれなりに骨が折れるけれど、何の前提知識がなくアドバイザーとお話するよりは格段に資産運用の成果が上がるだろう。

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