弊社なら10億円をどう運用するか – ケース1 – リタイア後に事業を複数営むMさん(63才)

リーマンショック後にリタイアし、趣味と実益を兼ねて複数の事業を経営するMさん(63才)のケース。

家族構成(運用開始時)

Mさん(63) – 本業はリタイア、趣味で事業を複数
奥様(61)
お子様たち3人はすでに成人

個人資産(運用前)

預金 27億円
不動産 1.7億(居住目的保有)
有価証券 12億円

ストーリー

以下クライアントへのインタビューをもとに、アドバイザーが作成。


祖父が始めた家業の三代目をしています。先々代の祖父はプラスチック工場からスタートしまして、ずっと先代までプラスチック工場一本でやってきたのですがそのプラスチック工場は事業譲渡しまして不動産(デベロッパー業)と飲食店、そしてメガネ屋を経営しております。私の父にあたる先代が30年前に若くして他界しまして、自分にお鉢が回ってきたというわけです。その前はCD制作のサウンドミキサーやってましたから、お門違いもいいところですが。苦労してプラスチック工場を創業した祖父には申し訳なく思っていますが、譲渡の判断に後悔はありません。

私が働き盛りのときに家業を継げたのが良かったのか、はたまた事業環境が良かったのか、私の代で事業規模は100倍にはしました。パソコンやプリンターで使うプラスチック専門の工場を、国内メーカーの中国進出より少し先んじて中国に建てたのが当たりましてね。。守秘義務があるので名前は明かせないですが、日本の大手との契約はほとんどウチが取ってましたよ。香港経由の、いわゆる来料加工という仕組みをうまく使っていました。しかし2000年代に入ってから人民元の上昇、工賃の上昇、材料費の高騰と続いていたので中国でビジネスを始めた当初のような利ざやは稼げなくなってリーマンショック前に事業を中国国営企業に売却しました。

国営企業への売却ですから事業譲渡ですが気持ち的にはネガティブな撤退です。リーマン・ショック前でバブっていたこともあっていい金額で売れたので「機を見るに敏」と人によく言われますが、違うんですよ。製造業は地元中国のお役所とのお付き合いを密にしなければなりません。通関、関税に始まり労働者の管理や土地の利用方法、産業廃棄物の始末など役所と付き合う場面が多いんです。

そして彼ら役人はいろんな場面で賄賂を要求してくるわけです。儲かってるならなおさら、多めの賄賂を要求してくるんですね。高官への賄賂用のアウディとかベンツなんて何台買ったかわかりませんよ。若いころはまだ事業意欲もあったし何より儲かっていたので良かったのですが、年齢を重ねるにつれて、また事業が薄利になってくるにつれてそういったやり取りにほとほと疲れたんです。で、売却を決意しました。

それから1年くらい何も仕事せず海外のいろんな場所を旅行しました。バリ島の民族音楽、ガムランにハマってしまってバリ島に2ヶ月間滞在しましたし、アルゼンチンでは1ヶ月ほど滞在してタンゴを習ったり。イギリスのダラムに立ち寄ったとき、昔ながらの建物がすごく大事に使われていることに衝撃を受けまして。

日本に戻って、長く価値の残るマンションに住んでもらおうとマンションを数棟建てました。今風にいうとデザイナーズマンションってやつですね。引き戸の方向ひとつで住み心地が変わりますので、マンションの思想設計から自分もデザインにこだわり、住みやすさも同時に追求しています。住宅系の専門誌ってやたらと紙質がよく、かつ分厚いので場所を取るのですが、部屋にあふれかえっておりまして妻に文句を言われてます。また旅を続けるなかで、イタリアの尖ったデザインのメガネ職人ともつながって彼ら手作りのメガネを表参道で販売したりしています。一人の職人が加工から仕上げまで一人でやるので、いわば一点物。デザインも日本人がマネできないようなものを少量販売しています。

中国でやっていたプラスチックの加工はよく言えばものづくりなのですが、市場の変化に応じてどれだけ速くどれだけ安く作ることができるかの商売ですから匠の技とは程遠いところにあります。その点、マンションやメガネは作り手の想いをのせやすい。また日本人はそういったメーカー側の遊び心を面白がる余裕がまだあります。

そして肉が好きなので、都内に高級ステーキ店を3店舗経営してます。和牛のようなサシの多い肉ではありません。イタリアのフィレンツェで食べたビステッカ(ステーキ)が忘れられなくて、赤身の多い大ぶりな牛肉をドライエイジングさせて提供しています。外資系企業が多く集まる都内の地域に出店しているので、外国人のお客様が半分くらいを占めるようになりました。

マンション、ステーキ、そしてメガネとどれもオペレーションは人に任せて自分は緊急の要件があるときにだけ顔を出すようにしています。正直どれもあまり儲かってないですが好きなものに囲まれながら正直な商売が出来ているので気分はいいです。

資産運用ニーズ

資産運用は昔からネット証券などではやっておりました。株式投資好きなんですよ。ビジネスに直結しますしね。今は本業はリタイアして時間もあるので会社四季報もマメにチェックしています。それと平行してここ10年くらいはプライベートバンクや御社のようなIFAを使うようになりました。IFAは銀行や証券会社の人たちと違って転勤がなくずっとお付き合いしてくれますし、何より海外のIFAは持っている情報量が違うので重宝しています。今お付き合いのあるプライベートバンクの担当も気に入っていますが、分散という観点からAMGさんとも付き合ってみようかな、と思っています。最初は2億円くらいからスタートし、もし納得できるサービスが受けられるなら徐々に増やしていきたいと想います。

資産運用の目的は特にありませんが、余剰資金の効率的運用と世界経済を近くに感じるためです。妻と海外旅行もしょっちゅう行っておりますし、この生活リズムを壊したくないので、報告は時々で大丈夫です。逆に、時々の報告でいいようなポートフォリオを組んでください。

事業承継、相続準備ニーズ

3人の子どもたちは成人して思い思いのことをしてますし、私の事業にも関心がありませんから継がせる予定はありません。家業としては私の代で終わらせ看板を下ろすつもりです。今ある細かな事業はそれぞれ叩き上げが育ってきてるので、もし事業譲渡するとすればその叩き上げたちか、あるいはもう少し事業規模が大きくなっていればM&Aします。

また香港に住んでたときに付き合いのあったプライベートバンクが信託を組んでくれたおかげですでに私の資産の所有権は法律上は信託のもので、相続や事業承継にまつわる心配はありません。ですので生命保険には関心がありませんから提案はいりません。


AMGからの提案

このクライアントに私が初めてお会いしたのは今から10年前。僕がまだアドバイザーになって2-3年、そしてAMGがまだ小さいIFAファームだったころ、「小椋さんのブログが面白かったから」という理由でお問い合わせを頂いた。

今も昔もクライアントに初めて接するときに私のチームで大事にしているのが「クライアントの本当の動機を知る」ということだ。表向き、クライアントは資産運用の提案を欲しているわけだが、資産運用それ自体は本当の動機にはなりえない。将来の不安を和らげたいとか、家族に豊かな生活をさせてやりたい、などの動機がいくつか重なり合った結果「資産運用しよう」と思い立つ。これは運用額の多寡に関わらず変わらない。

そして私たちIFAとしての職能が活かされるのもまさにこの部分だ。クライアントは今までどんな人生を歩んできて、どういう基準でモノゴトを考えているのか、判断しているのか。その価値観をどれだけ資産運用に反映させられるのか。

よく「質問シート」を渡されて「あなたのリスク許容度はどれくらいですか」とか「運用経験はありますか」などの質問に回答していくと適正な資産運用の方法がわかります… みたいなのがある。しかし、あんな表面的な質問で出てきた答えに投資家が納得するわけがない。納得しなければ、その資産運用は始める前から失敗している。

Mさんの場合、ビジネス界に長く身を置かれて中国経済の勃興とともに成長してこられた。温和な性格の方なので、切った張ったでさぞかし苦労されたことと思う。引退したとはいえどまだまだ事業意欲があるように見受けられた。こういったお客様の場合、レバレッジの使い方が上手な上に手元に多額のキャッシュを置く傾向にある。実際、不動産デベロッパービジネスでも可能な限り銀行融資を受けているという。銀行は今は優良な借り手を血眼になって探してるが、Mさんの家業も脈々と受け継がれてきた信用があるのだろう。

Mさんが大事にしたいのは、

  • 精神的な余裕
  • 行きたいときにどこにでも旅行にいける
  • 趣味と仕事の境界線を曖昧にし、やりたいようにやる
  • 独り立ちした子どもたちを金銭的に甘やかさない

こんなところだろう。ただMさんの当時の相場観は上げ相場であった。すなわちリスクテイクをする方向だ。それもあって弊社に相談してきたので、退職しているからといってあまりに慎重なポートフォリオを組んでも意味がない。そこで、以下のようなポートフォリオとした。

資産運用のポートフォリオ

ETFと現物株式を組み合わせ、株式を多く含むポートフォリオでスタート。当初はこれに現物債券をいくつか入れたものを提示したが、保守的なアセットと見られてゴールドや新興国ETFに置き換えられた。

金融資産アセットクラス割合
外国株式個別銘柄7つ株式20%
国内株式個別銘柄5つ株式10%
債券ETF(グローバルハイイールド)債券10%
株式ETF(アメリカS&P)株式30%
株式ETF(中国を含む、東南アジア)株式20%
ゴールドETFコモディティ10%

クライアントの相場観と弊社の相場観をすり合わせていく作業が3ヶ月続き、5度の面談、60通以上のメールのやり取りをした末のポートフォリオである。フタを開けてしまえばどうってことないポートフォリオだが、これにはMさんの意思が乗っているという意味で良いポートフォリオだったと思う。実際にも相場の良い波に乗れたこともあって、2年後には追加投資5億円をお預かりし、運用益も含めて最終的には10億円を超えて伸びている。

10年のお付き合いを経てMさんからは弊社の相場観をある程度信頼していただくようになった。ちなみに現在、この割合についてはあまり変わらないものの現物債券が40%近くを占めるまでになっている。またプライベートバンクから現物株式を移管したので銘柄数は25ほどになっている。

生命保険

ドル建ての生命保険を使って事業承継や相続対策をするというのがテッパンの提案なのだが、ご子息に事業を継がせずしかも信託ですでに個人資産はラップしてあるのでMさんの仰るとおり生命保険の提案はしていない。

このように、最初の提案からポートフォリオは変化していく。それは弊社の相場観がそうさせることもあれば、クライアントの価値観の変化によることもある。大事なのは、クライアントが資産運用に対してどういった期待をしているかをモニターしそれをポートフォリオに反映させていくことだ。

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