香港の不動産投資信託(REIT)は投資に値するか
平均住宅価格が1億円を超える香港不動産市場はもう手の届かない領域に。それでも価格上昇の恩恵を受けたいなら不動産投資信託(REIT)が候補に挙がるが、先行きは不透明か。Vacancy Tax(空室税)や中国景気の復活がカギ。
「億ション」がデファクトスタンダードな香港
香港は世界一の住宅価格だと聞いたことがある人は多いでしょう。実際もし不動産に興味がある人でしたら、香港という土地を訪れ、不動産という観点から目に焼き付けておくことは決して悪くないと思います。2019年4月に、世界最大手の事業用不動産サービスを展開するCBREが発表したところによると、平均住宅価格は$1.235 million、つまり約1.3億円、また、平均月額賃料は$2,777、すなわち約30万円でした。
日本もまた不動産バブルか否かと言われてはじめて長いですが、日本の不動産なんて香港の人にとってはバーゲンセールくらいだと言っても過言ではありません。アドバイザーとして色々な香港人に会う中で、実際、日本の不動産を物色している、あるいはしたいと思っているという声はよく聞きます。
香港の場合、新規購入で住宅ローンを利用する場合、香港金融当局(HKMA)の定める融資比率に基づき、物件価格に対し最低40%は頭金、すなわち現金が必要になりますから、若者を中心に、持ち家は夢のまた夢の話なのです。香港の若者がナノフラットやシェアハウスに住む理由はここにあります。
少なくとも、こうした不動産の状況を眺めると、香港に住む人にとってもそうでない人にとっても、香港で現物不動産を持つことは容易ではない領域に既にきていると言えるでしょう。
香港の不動産価格はSARS(サーズ)によって一時下がったがその後は右肩上がりで上昇
香港で2003年に重症急性呼吸器症候群(新型肺炎SARS)が大流行したのを覚えている方もいらっしゃるでしょう。当時香港経済自体も落ち込みましたが、その後の回復はもの凄いスピードでした。
香港に住む人は「SARSのときに香港の不動産を買った人は今大成功だ」と口を揃えて言います。この右肩上がりのチャートで見てみると実際それが絶好の”買い場”であったことが分かるでしょう。その後香港の不動産価格はまさにウナギ登りでした。香港では著名な資産家である李嘉誠(Li Ka Shing)が、少し前ですが香港の有名なオフィスタワーを手放したことが話題になりましたが、その後も価格上昇を続けています。
香港の不動産を買うなら不動産投資信託(REIT)が次なる手段
それでも香港の不動産価格上昇を、居住用不動産としてではなく純然たる投資機会だと捉えるならばもう少し小口で購入できる不動産投資信託(REIT)を検討するのがいいかと思います。日本でもJ-REITという言葉がここ数年で浸透しましたが、香港にも実はREITがあります。
REIT(英: real estate investment trust、リート)または不動産投資信託は、公衆から調達した資金を不動産に投資する金融商品の一種。
Wikipediaより
香港のREITというと、Link REIT(リンク・リート)がほぼ一択になります。もちろんChampion REITなどもあるのですが、もともとREITに対する開発行為規制があったこともあり、今でもあまり多くはありません。価格推移でみると、それぞれ以下のような動きになっています。
ただ、どちらもショッピングモールなどの商業施設、いわゆる”Commercial Property”が中心である点に注意が必要です。一般にREITが保有対象とする不動産の代表例は以下の4つです。
1 Residential(住宅)
2 Commercial(商業施設、ショッピングモール)
3 Office(オフィス)
4 Industrial(産業施設、物流施設)
1〜4のうち、数字が大きいほど、景気変動の影響を受けやすいとされています。企業業績が悪くなれば、工場を閉鎖し(4の減少)、さらに人員削減をし(3の減少)、そして人々が消費をしなくなり(2の減少)、と繋がっていきます。住む場所を出ていく(1の減少)のは最後の手段ですから、体感としても分かりやすいのではないでしょうか。
Link REITの保有物件を見てみる
ここで香港を代表する上場REITである、Link REITが保有する物件を見てみましょう。公式サイトの情報から引用しています。REITを購入する場合は、これらの物件を細かく分散して保有しているのと同じことになります。
1 香港 Lok Fu Place
キャップレート(収益利回り) 3.92%、IRR(内部収益率) 8.88%
九竜半島の中心部Lok Fu(楽福)の駅近くにある巨大なショッピングモール。周辺に住む人も非常に多く、週末には特にたくさんの人で賑わっています。
(物件リンク)https://www.linkhk.com/en/shopCentre/7
2 香港 Temple Mall
キャップレート(収益利回り) 3.88%、IRR (内部収益率)8.77%
こちらも同じく九竜半島の中心部にあるWong Tai Shin(黄大仙)の駅直結の巨大なショッピングモール。香港No.1のパワースポットである黄大仙には本格占いに行く人も多いので、このモールも非常に賑わっています。
(物件リンク)https://www.linkhk.com/en/shopCentre/164
3 上海 Link Square
キャップレート(収益利回り) 4.29%、IRR(内部収益率) 6.87%
上海のグレードAのオフィス2棟で構成されています。香港のREITだと言いましたが、実は中国本土の商業施設も保有しています。実際、足元のLink REITの戦略は香港の高い物件を売って、中国本土の物件に買い換えるというものです。
(物件リンク)https://www.linkreit.com/en/ourBusiness/sca12/?type=assetInvestment
REITは賃料収入でもっていますから、香港デモでテナントの収入が落ち込むことはREITの価値を低下させます。実際、先ほどのチャートを見ていただくと分かるように、2019年6月あたりからは下落の傾向が見え始めています。実際、香港の小売売上高、すなわち消費の落ち込みは顕著で、それがしばらくは如実に現れてくるものと思われます。ただし、テナントもすぐに出ていくとしても契約期間中は賃料を払わなければならなかったりするので、すぐさまREITのパフォーマンス悪化に繋がるわけではありません。次のテナントが入らず、空室状態が続くことが悪循環の始まりになるのです。
問題は再び香港の不動産価格が上昇するかどうか
足元の不動産市況があまり良くないのは理解していただけたかと思いますが、問題はまた良くなってくるのかということですよね。気にすべき要因は大きく2つかと思います。
1 Vacancy Tax(空室税)の導入
昨年のブログでもVacancy Taxが考案されたときのことを触れているので読んでみてください。1年以上が経過しましたが、この法案がいよいよこの秋、施行に向けて立法会にかけられます。
香港政府によると、ランタオ島東部の埋立等による住宅供給増も見込まれているものの、人口もまだ増加する見込みだそうですので、空室税そのものはブログでも触れているとおり、住宅市場に決定的な影響を与えることはなさそうです。ただし、香港デモの影響を受けて当初と多少異なった内容の法案になることがあるか、という点は注目してみてもいいかもしれません。
2 中国景気の減速
中国本土の富裕層の資金や本土のデベロッパーが香港の不動産価格を押し上げたと言われていますから、中国の経済成長が続くかどうかは大きな要因の一つです。9月に入って米中貿易摩擦は若干緩んだかに見えますが、まだ決定打には欠けています。やはり来年の米大統領選挙あたりまでは燻る可能性があります。
不動産REITを買うにしても、少し先行きが不透明な局面であることに変わりはありませんから、香港に住む身としては景況感を肌で感じられるようにしておきたいと思います。