大企業への投資リスク、ゼネラルエレクトリック(GE)は破滅への輪舞曲を奏でるのか

大企業への投資は株式にしても債券にしても比較的初心者向けで安全と言われますが、果たして本当か。アメリカの巨大コングロマリットであるゼネラルエレクトリック(GE)を例にその投資リスクについて考えてみる

大企業への投資リスクは小さい?!GEを題材に考えてみる

大企業への投資は株式にしても債券にしても比較的初心者向けで安全だと思われる傾向があります。確かにそういう面はあるのですが、安易に考えると投資のリスクを見逃しやすいです。実際どのような投資リスクがあるのかを考察してみましょう。

今回は、ゼネラルエレクトリック(GE)という会社を題材に考えてみます。聞いたこともないという人はこの機会に少しだけ調べてみることをオススメします。それくらい世界に名を轟かせた企業ですし、経営学の発展に大きく寄与した存在なのです。日本にはその製品があまり流通しなかったので親しみがある人は少ないかもしれませんが。

General Electricは、アメリカを拠点とする多国籍コングロマリットとして、非常に多岐にわたるビジネスをしてきたのですが、名前の示す通り、電気機器が主軸です。創業者は発明王トーマス・エジソンで、その歴史は100年以上続いています。「伝説の経営者」と言われたジャック・ウェルチやそれを引き継いだジェフリー・イメルトは歴代のCEOでも偉大な経営者として知られています。「シックス・シグマ」と言われる経営改善手法を発展させたことでも有名です。”エクセレントカンパニー”の上位にも名を連ね、優秀な人材を輩出する企業としても知られました。

そんなGEが数年前から非常に苦しい経営を強いられているという話です。

10月7日に従業員の年金凍結のニュースが出ていましたのでまずはその話からしてみます。GEは7日に発表した年金改革で、国内従業員約2万人を対象に、年金基金を2021年1月1日から凍結し、最大8,500億円の債務削減に取り組むこととしました。

ロイター通信:米GE、国内従業員2万人の年金凍結へ、債務削減で

1 企業年金は凍結され得るというインプリケーション

従業員の方々にとってはシャレにならないという点は先に断っておきつつ、

経営が悪かったので、年金が支払われなくなった

と聞くと一瞬納得してしまいそうではありますが、実はそんなに単純な話ではありません。なぜなら背景は、世の中全体の金利低下そのものにあるからです。

一般に、企業が負う年金の債務(つまり、従業員に支払わなければならない総額)というのはいくつかの仮定のもとに計算されており、従業員の平均勤務年数だったり、給与水準だったりします。一方で、多くの場合、「運用が上手く行く=想定通りの利回りが確保できる」という前提に立っているため、金利が下がって利回りが確保できなくなると赤字になるというカラクリです。日本の年金も基本的な原理は全く同じです。だから、金利低下が世の中的な現象である以上、GEに限らず、この話は世の中一般の企業が抱える問題でもあります。ただし、GEの場合、その赤字を埋められないくらい経営が悪いというのが目立ってしまっているだけなのです。以下のレポートも同じことを説明してくれていますので参考にしてみてください。

参考レポート:金利低下が退職給付債務に与える影響 − みずほ総合研究所

サラリーマンの方々は国民年金加入者よりも多くの年金をもらえると思っているかもしれませんが、ご自身の会社の年金制度がどのように運営されているかは今一度確かめて見ることをオススメします。GEの例を見れば、大企業に勤めれば年金は安泰だという状況は知らぬ間にどんどん変わってくるかもしれません。

世の中一般の企業の抱える問題と言ってしまいましたが、実はこれが当てはまるのは”確定給付年金”を採用している企業だけです。こうした負担の辛さを感じ取っていち早く確定給付年金から確定拠出年金へとしれっと移行したところもたくさんありますので、古い会社、大きな会社ほど制度が残っている可能性が高いです。

2 株式は安全?債券は安全?

少し脱線したので、大企業に投資するにあたって、GEの例からどんなインプリケーションをもらえばいいのかという話に戻したいと思います。

① GEの株式へ投資をしていたら

ここ数年のGEの株価推移は以下の通りです。2017年はジェフ・イメルトCEOの退任や、配当カットなども話題になりました。有名な投資家のウォーレン・バフェットも2017年夏までには全ての保有銘柄を売却したようです。

その後は下落の一途を辿っていますが、チャートを見て分かる通り、随分「安定的に下がっている」という印象を持ちます。たとえ大企業であっても株は株ですから、リスクが大きいということは忘れてはいけません。

② GEの債券へ投資をしていたら

満期の長さの違う債券の価格推移を比べてみましょう。

満期が3年後の債券の価格推移は以下です。多少動きの激しさはありますが、満期が近いので、およそ100円近辺で推移はしています。

満期が30年後の債券の価格推移は以下です。ここで顕著に映るのは2018年11月に向けての下落です。その後は緩やかに戻してきています。

このように見てみると、比較的安全と思われる社債であっても、短期間にこれだけの値動きをすることがあります。また年限によっても動きは異なることがわかります。債券価格は先々の金利感などでもちろん変動しますが、どちらのチャートでも見られる、2018年11月の下落は債券のデフォルト確率が高まったと投資家が感じたことによって起こった価格変動です。実際、特にこのときにはGEの信用力の低下を示す、クレジットデフォルトスワップ(CDS)も急激に上昇しており、このときの債券価格の下落と一致しています。何があったかというと着任後株価が低迷を続けたジョン・フラナリー氏に代わって、2018年10月にCEOにラリー・カルプ氏が着任し、経営再建に乗り出したものの、92%という大幅減配をしたことで、同社の経営見通しが大きく悪化したのです。

結果的にはどちらの債券も今のところデフォルトはしていないものの、価格変化を見ると安心はできないと思っていただけたなら幸いです。「これくらい値動きするなら債券も売買する価値あるな」と思ったあなたは立派な”投機家”です。あるいはもっとGEを調べに調べまくるなら”ディストレス投資家”に転身することも可能でしょう。

③ GEに投資をしていないという人でも要チェック

GEに興味を持ったこともないから関係ない、と思った人は要注意です。ご自身のポートフォリオを見渡して、S&P500に投資をしていませんか。なぜなら、S&P 500に投資をすることは、GEに投資をすることでもあるからです。GEはアメリカを代表する上場企業ですから、S&P500を構成する1銘柄に選ばれています。ただし、GEはダウ工業株30種平均(通称、ダウ平均銘柄)からは2018年6月26日に外されています。

ただ、もしこの記事を読んで、GEは投資対象として微妙だな、と思ったとしても現実問題としては、残念ながらGEだけを除いてS&P500に投資をすることはできません。また、GEの株価が下がったからS&P500が下がるか聞かれれば、「そうですね。ただしほとんど影響はありません。」とお答えすることにはなります。具体的にはGEは0.3%しか占めていないので、インデックスへの影響はその程度だということです。ふと思い返せば米国株式市場はここ数年は右肩上がりでしたから、インデックス投資というのはこうしたリスクの芽も飲み込んでくれているわけです。

一方で、インデックスだから良いと安心しきるのも難しいときもあります。例えば、構成比率が高い銘柄が下げた場合は当然インデックスも下がることになります。つまり、日経平均ならばそのうちの10%を占めるファーストリテイリング(=通称ファストリ、ユニクロの親会社、CEOは柳井正)の業績を見ておくというのは大事だということにはなります。また、新興国株式インデックスに投資をしたいという人の場合、中国は今雲行きが怪しいからといって投資対象から出来るだけ外すという対応は可能だったりします。

GEは破滅への輪舞曲を奏でるのか

冒頭に述べたように、GEはコングロマリットですから、基本的には合併と買収を繰り返してきた企業であり、業績の悪い部門はスピンオフしてしまえば良いという発想がありました。実際、企業の価値(バリュエーション)を計算する上でも、このような企業の場合、部門毎のバリュエーションを計算し、足し上げるという方法を取ります。企業によっては部門間のシナジーをプラスに見積もることもあります。

ただ、GEの足元の懸念は「粉飾決算、不正会計」だと言われています。8月15日にマルコポロス氏が発表したレポートが話題になりました。ただし、彼自身がヘッジファンドに投資をし、GEに空売りを仕掛けている可能性が高いので、真偽のほどはこれからです。ちなみに、彼がCNBCに出演したときの映像はこちらです。

もし本当だとすれば、こればっかりはトカゲのしっぽ切りをしても改善しない可能性が高いです。これだけ大きなGEが破綻すれば米国リセッションのトリガーを引くのではないかという人もいますが、実際大企業が倒産することは決してプラスには働きません。ただ、リーマンショックが大規模だったのは、世の中に血流たるお金を供給する金融セクターで経営破綻が起きたからであって、GEの場合はそうした影響は抑えられるのではないかと思います。また、上のチャートを見てもらっても分かるとおり、大局観としては市場はこのレポートをマイナスにもプラスにも大きくは評価していません。

とはいえ、経営学における雄が市場から退出する日が来てしまうのでしょうか。引き続き注目したいと思っています。

*本稿の記載内容は筆者個人の見解であり、AMGとして証券売買の推奨を行うものではありません。

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