ヘッジが効きづらい時代の運用戦略
株式の動きに対して別の動きをしてきた債券やコモデティ、最近では仮想通貨。しかし低金利下では同じような動きをしてポートフォリオの管理に別のアイデアが必要なのか。
先月9月のアセットクラスごとのパフォーマンス。
- 米株(S&P500) -3.8%
- 米株(Russel 3000) – 3.6%
- 米ハイイールド債 -1.2%
- グローバル株 -2.4%
- エマージング株(MSCI EM) -1.6%
- 外国ハイイールド債 -3.0%
- ゴールド -4.2%
とまぁ、軒並み下落した。下落すること自体はマーケットの自然な習性なので特に感慨はない。また、この下落が「終わりの始まり」だとも思えない。中央銀行は意地でもインフレに持っていきたいようなので、リスク資産にとっては好ましい環境が続くだろう。
ただ、リーマン・ショック後のゼロ金利政策を経て2015年の冬から数回の利上げが行われた後、コロナでまたゼロ金利政策に戻ったことで資産価格の変化にメリハリがなくなってきていることは事実だ。
この「メリハリがない」という現象は日本がバブル崩壊後の1990年後半から今に至るまで日本でも同じく起きた。量的緩和で日本国債のイールドが限りなく下がった結果、債券価格にもう上昇の余地がなくなってしまい、債券が株式に対して逆相関しない、すなわちヘッジとして機能しなくなってしまったのだ。
ちなみにドイツの国債では、先のヨーロッパ債務危機(2011-2012)では30%程度の株価下落に対して25%前後の価格を上昇を見せたので株価に対するヘッジとして十分に機能していた。しかし今年の3月の下落ではすでにゼロ金利政策(というよりマイナス金利政策)で35%以上の下落(EURO Stoxx index)に対してドイツ国債の上昇幅は4%程度にしか過ぎなかった。先月の下落では債券価格はほとんど動いていない。
株式の動きに対するヘッジ機能がなくなっているのは債券だけではない。
ゴールドも株価の下落に伴って売られ、伝統的な資産価格に対する最後のヘッジになることを期待されているビットコインですらそうである。債券も、ゴールドなどコモデティも、仮想通貨も軒並み株式と同じ売られ方をしたというのが先月9月の相場だった。
ヘッジが効かない傾向が続くとしたら
連銀は何が何でもデフレに陥ることを避けようとしている。
Fed to signal interest-rate hikes won’t be an issue until 2024 – MarketWatch
これはバブル崩壊後の日本の金融政策から学んだことで、いったんデフレとなるとそのデフレマインドが解消されるまで途方もない時間がかかる(そしてまだそれは解消されていない)ので、デフレになるくらいだったら多少の無茶をするのは仕方ない、背に腹は代えられないということだろう。
連銀は2024年までは利上げを行わないということも言外に匂わせ、低金利が今後も続く。異常な低金利下では各資産クラスの動きにメリハリがない。低金利で資産運用が難しくなるのはすなわち株式の動きに対するヘッジが効かないという状況が続くことになる。低金利による弊害は、有価証券での資産運用に限ったことではない。
低金利で銀行の利益も圧迫されるゆえ、挑戦的なビジネスを行っているベンチャー企業にはリスクマネーは向かわずキチンと返してくれる無駄に社歴だけ長いゾンビ企業に向かうことになる。また銀行に預けておいても金利はないため家計においてはFX投資や仮想通貨投資、そして新規上場株の勧誘など怪しげな投資話が増えてくるだろう。世相がなんとなく暗くなってくるのは、こういったことが原因だろう。
このように、低金利下の時代ではポートフォリオ内のアセット・アロケーションを調整する伝統的な資産運用方法では、ポートフォリオに与えるインパクトが少なくなってきている。あるいは無意味になってきていると言って良い。
この「株式運用に対するヘッジが効かない」傾向が続くとしたら、ワモノ投資ではなく王道をいく個人の投資家でも取りうる選択肢をいくつかあげておこうと思う。
投資戦略
1. ブラック・スワン狙い
予測できない金融危機・自然災害のことを「ブラック・スワン」という。ヨーロッパでは白鳥といえば白だけと思われていたが、のちにオーストラリアで黒い白鳥が発見される。このことから「あり得ないことが起こること」をブラック・スワンと呼ぶようになり、ローマンショックや東日本大震災など予測できないことをブラック・スワンと呼ぶ。
リーマン・ショック以降、コロナ・ショックが来る前には2011年のヨーロッパ債務危機、そして中国版「ブラックマンデー」が引き起こした2015年の下落があった。細かいものを入れるともっとあるが、リーマン・ショックやコロナ・ショックをもしブラック・スワンと呼ぶのであればブラック・スワンは数年に1度は発生していることになる。
15-30%程度の下落から数ヶ月、数年で立ち直るのであれば、その下落をインデックス(ETFやインデックスファンド)で一気に掴まえたのち、数ヶ月・数年でポジションを徐々に減らしていく。
時間が経過するとともに株式のポジションを減らすことになるので株式市場のアップスイングを100%に捉えることはできないものの、コロナ・ショックのような市場が一気に下落したときにうろたえて株式などリスク資産を投げ売りする不安はない。
事実、「ブラック・スワン」という本を書いたニコラス・タレブはそういったファンドを運営している。
2. 個別株狙い
これはもはや投資ではなく投機と言わねばならないが、経済全体のパイがゼロ金利政策下で膨らんでいかないとすれば経済全体の成長に賭けるポートフォリオ戦略は間違っているといえる。いわゆるロボ・アドバイザーなんかで推奨される60/40(株式を60%、債券を40%)買って放置しておくという戦略は
- 経済全体がおだやかに成長し
- 低インフレで
- 株式と債券の相関が逆
という時代に機能するのだが、前段で申し上げたとおり現在ではマーケットが下落したらどの資産クラスであれ落ち、逃げ場がない。すなわち何を買っても一緒なのだ。
であれば、前回取り上げたようなHSBC株など大きく売り込まれているものだけに注目する。大体、売られている株式はニュースで取り上げられたりしているので、日常的にニュースに接していればそれを見つけるのはそこまでハードルは高くない。またニュースでないにしても、下落幅の大きい銘柄を見つけるための無料ツールはネット上にいくらでもある。
「落ちてくるナイフはつかむな」= 底を打ったことを確認してから投資をしろという相場格言があるが、底が打ったことを確認してたらもう次の高値を更新中ということも十分ありえる。半値八掛け二割引といった自分なりの規律を作って売買を繰り返す。また、そんな短期でなければ配当性向の高い銘柄を中心に選ぶのも良いかもしれない。
ただ、これはご自身が相場に強い関心がなければ続かない。ロスカットのタイミングなど自分なりの運用戦略を立てなければいけないし、毎日1-2時間はニュースやらマーケット情報やらを拾ってなければいけないだろう。
3. ボラティリティを覚悟した上で投資尺をとにかく長く持つ
短期的には世界の経済成長が見込めないとしても、長期的(20-30年)には成長していくと信じて株式を指数で買っておいて寝かせておく。数年に一度のブラック・スワンも覚悟。一度買ったら振り返らず、現在いくらになっているかの明細も見ない。見ると売買したくなるのが人間の性なので。とにかく長く持つことを信条とするので世界株式に分散されたMSCIインデックス連動などコストの安いものを保有しておく。
毎年余剰資金を単にそこに積み上げていくという方式。若い人は資産運用よりも仕事のほうがずっと大切だし、資産運用のための時間がたっぷりあるのでどちらかというと若い方向けになる。
AMGの投資戦略は
資金ボリュームにもよるが、1と2の中間くらいになるだろう。1のようなディフェンシブなやり方はしていないが、さりとて3のような放置ではない。個別銘柄を買うこともあるが、基本は落ちたところを狙いにいくというイメージだ。ここのところ弊社の一任勘定の成績が良いのは、それまでディフェンシブに保有していたが3月に大きく仕込んだからだ。