GameStopのことは忘れよう
短期間で100倍になったGameStop株について。二匹目のドジョウを狙うくらいなら、しっかり研究してから。
GameStopという、全世界にゲームソフトやプレイステーションなどコンソール販売店舗を全世界に広げている。一時6400ほど店舗があったようだがこのコロナ禍で5500ほどに減った。
そもそも、このネットで何でも買える時代にゲームショップにわざわざいく人なんているのか。またコロナでなくてもオンラインゲームや携帯ゲームにゲーム人口を奪われているのに、いわゆるコンソール・ゲームをメインで、しかも店舗販売している会社が儲かるのか。
GameStop社にあまり明るい将来はイメージできない。僕もそうで、おそらく皆さんもそうだろう。
株価は当然低迷していた。コロナ前からすでに株価は下落を続けており、コロナでとどめを刺された… はずだった。
アメリカの掲示板サービス「reddit」のDeepfuckingvalue氏(直訳するとクッソ安値株氏)が大方の人々の予想に反してGameStop株を買い進め、それについての実況解説を行っていた。
その後、ヘッジファンドが空売りポジションを積み上げていることもあり「個人投資家がかつて愛したゲームショップ」vs「ウォールストリートの金満ヘッジファンド」という構図ができあがり、個人投資家がヘッジファンドの空売りに対抗するために買い向かうという構図ができあがった。
空売りには期限があるため、もし空売りした価格よりも期限内に安く買い戻すことができなければ空売りした投資家は損失を被る。GameStopの株価はここ数年ずっと右肩下がりであったためヘッジファンドにとっては十分な空売り動機があった。
その後、5ドル前後を行き来していたのだが個人投資家がDeepfuckingvalueの買い煽りにつられて買い向かい、あれよあれよと言う間に半年あまりで株価は480ドルまでつり上がった。
空売りポジションを積み上げていたヘッジファンドを含む空売り投資家はこの上昇で大損。一躍ニュースとなった。ちなみにGameStopはその後、50ドル近くまで下落、凄まじいボラティリティだ。
個人・ヘッジファンドの勝ち組負け組
買い向かった個人投資家のなかでも、最初にこの案件を仕掛たDeepfuckingvalue氏は数十億円荒稼ぎしたという。しかし買い向かった個人投資家全員が必ずしも儲かったわけではない。むしろ高値でつかんでしまって大きな損失を出してしまった個人投資家が多いのではないか。
また個人投資家が標的にしたヘッジファンドも勝ち組と負け組とに分かれた。
マイケル・バーリというリーマン・ショックの際にマーケットと逆張りして大儲けした伝説のヘッジファンド・マネージャがいる。「世紀の空売り」という本の題材にもなった。彼が運営するScion Asset Managementは空売りではなく、順張り(すなわち普通に株式を購入)で大儲けをしたと思われ、運用資産額170億円から2500億円程度にまで増やしている。一報Melvin Capitalというヘッジファンドはこのディールで1月だけで53%も資産を減らしている。
GameStopが示したもの
今回のGameStopの件は、金融市場にとっても損失だ。金融市場がますます賭場のような存在にみえてくる。アメリカの株式市場は値幅制限(ストップ高・ストップ安)がないので暴騰・暴落が起こりうる。値幅制限があるのは、熱くなった投資家心理を落ち着かせる時間を稼ぐためだがアメリカはそれがない。すなわち熱くなった投資家心理が暴走する。
今回はその暴走が如実に現れたケースで、ビットコインの急上昇を思わせるような展開だった。
そしてまた、ウォールストリート(ヘッジファンド) vs メインストリート(個人投資家)という構図のなかで、メインストリートが初めてウォールストリートを撃破した事件として記憶されるのではないか。
二匹目のドジョウを狙いに行くな
ウォーレン・バフェットは「株式が上昇するときは、信号機が緑からいきなり赤になるようだ。途中の黄色がない」と言っている。すなわち暴騰するような株式はあっという間に上昇し、またあっという間に下落する。まさに今回のGameStopがそうであったように。
特に値幅制限のない米株式市場では振れ幅がおおきいことから、一攫千金を狙う日本や香港の投資家たちは次のGameStopを探していることだろう。政府からのコロナ対策の補助金が出て、濡れ手についた粟で博打を打ちたい個人投資家はたくさんいる。今回の件で、個人投資家の株式取引アプリ・ロビンフッドは新しく100万回ダウンロードされたという。
ただ次のGameStopを狙いにいくことは有象無象の「Deepfuckingvalue」もどきが出てくるため、選別はほとんど不可能だろう。また、香港では株価を吊り上げる目的で虚偽の情報を流す(風説の流布)グループがいて、フェイスブックやツイッターなどで跋扈している。個人投資家が嘘を嘘と見抜くことができるならいいのだが、たいていはそうではない。
香港の金融監督庁は去年からSNSを通じた投資グループに参加することを警告している。「私はその会社の内部をよく知っていて、2週間後に重大なニュースが発表されるから今のうちに買っておけ(売っておけ)」というものだ。一般投資家に、ボロ株を買い向かわせて高値で売却するというやり方だ。そしてその提供者の情報はニセモノだ。万が一その情報が本当だとしても、インサイダー情報による取引なので刑事罰となる。
しかし投資を始めたばかりの初心者はそんなルールは知らないで「いい情報を聞いた!」とばかりに全財産を突っ込んでしまってその後転落してしまうのだ。GameStopの場合はインサイダー情報でもなんでもないが、インターネットを通じて熱狂が伝播するという意味では似たような構造を持つ。
二匹目のドジョウを狙いに嘘かホントか分からない掲示板を次から次へと漁るよりは、しっかりと知識入れをし、研究をして投資に望むほうがよさそうだ。今回のGameStopの件は買い煽ったDeepfuckingvalue氏の粘り勝ちだ。単純に真似をしても彼にはなれないし、また彼のような合法的な・インサイダー情報に触れない・詐欺でない煽り人間を見つけるのも難しいし、仮に見つけられたとしても煽られている銘柄が上がるかどうかなんて分からない。
なのでもうGameStopのことはもう忘れよう。
参考: