この10年、高級時計投資よりも儲かったのは…
高級時計への投資は果たしてこの10年儲かったのか。また時計以外の投資については。
あまり頻繁にあるわけではないが、クライアントのためにオークションを代行することがある。サザビーズやクリスティーズといったオークションハウスが香港で行う美術品や宝石、高級時計などのオークションにはアジア各国からの入札がある。直接本人が出向いて入札することはもちろん出来るが、仕事で忙しかったりしてわざわざ香港まで来れないことが多い。
大小含めると香港では毎週どこかでなにかのオークションが開かれている。5つ星ホテルのボールルームで行われることが多いが、小さいオークションだとレストランで開催してたりもする。基本は入場料無料だ(大きなオークションハウスに口座を持っていないと入れない場合もある)。
代理で入札するのはたいてい投資目的の高級時計。自分の腕に巻いて楽しむ、という実需はなくはないがふつうは大きな化粧箱に入れて暗室で保管し最終的には転売する。
今はオンラインで状態を確認できるため、わざわざプレビュー(入札にかけられる品物を目視で確認するためのイベント。オークションの数日前からオークション前日まで行われる)に出向かなくても良い。また高級時計は流通市場があり、値段を予測しやすいそうだ。ロレックスなんかは流通する数が多いため同じ型番であれば値段が大きく乖離することはない。一方、パテック・フィリップやハリー・ウィンストンのトゥールビヨンなんかに代表されるような「世界で一本」みたいな時計はほとんど市場に出回らないため値付けが難しいらしく、仮に取引する機会があったとしてもよほど気に入らないと手を出しにくいようだ。
僕らは通常はクライアントの有価証券を管理している。しかしあのとき代理購入した高級時計の値段が今いくらになっているのかというのは知る由もない。「いい値段で売れたよ」「トントンだったね」「ババをつかまされたよ」といろんな報告はされるものの、高級時計で一体どれくらい儲かったのか、あるいは儲かってないのか、また高級時計以外の嗜好品やアートなんかは投資対象としてどう動いているのかが気になったので調べた。
Knight Frank – Wealth Report 2020
富裕層のレポートといえばキャップジェミニのレポートが有名。しかしイギリスの不動産コンサルタントのナイトフランクも同種のレポートを出していた。
10年の値上がり
- アンティーク・コイン – 175%
- 高級時計 – 60%
- ワイン – 120%
- ヴィンテージ家具 – 0%
- ダイアモンド – 77%
- ヴィンテージ・カー – 194%
- ジュエリー – 90%
- ハンドバッグ – 108%
- 切手 – 64%
- アート – 141%
- ウィスキー 564%
これには保管費用や維持費、取引費用は含まれていない。僕がクライアントのためにせっせと買っていた高級時計はまさかの60%。オークションは売るのも買うのも手数料がかかる。売買手数料だけを考えても高級時計はこの10年では毎年3-4%程度の利回りしか出てなかったことになる。
ワインは中国人が爆買いし一時手の届かないような価格になっていたが習近平の汚職取締のせいで賄賂として贈答されていた高級ワイン市場が暴落したと思っていたが120%と健闘している。
ウィスキーは2015年あたりから誰が仕掛けたのか暴騰しなんと564%というぶっちぎりの価格上昇だ。日本人なのに香港のバーで山崎や竹鶴が飲めない。いや、正確にはお金を積めば飲めるのだが高すぎて注文できない状態が続いている。
またハンドバッグにこれほどの価格上昇があったとは知らなかった。おそらくそのほとんどがエルメスだろう。レポートによるとワニ革で18カラットのホワイトダイヤがあしらわれたカバンが香港のクリスティーズでおよそ2800万円で落札されたらしい。
ポートフォリオを組むなら?
これらを満遍なく買っていたらどうなるか? というインデックスをKnight Frankが用意している。このインデックスによると、過去10年の値上がりは141%。10年前はリーマンショック直後だったので、141%のリターンが乗ったのだろう。今後10年はどうなるか分からない。
もし株式や債券のようにこれらのポートフォリオを組むとしたら、切手やコイン、ダイアモンドは場所も取らないし、またニーズも安定しているだろうから高級時計と同じくらいは持っていても良いかもしれない。ウィスキーは値段の上昇の仕方が異常なので持たない。
車も事故ってしまったら価値が半減するから乗らないし、バッグも傷がついたらダメだ。ワインやウィスキーは当然飲めないから投資目的であったとしてもつまらない。
こう考えると場所も取らないし腐らない、盗難される恐れもない有価証券に投資をしていたほうがいろいろ心配するコストを考えるとオトクなのでは、と思うのは僕だけだろうか…