株価上昇を続けるLVMH(ルイ・ヴィトン)のグループ経営戦略を探る
株価上昇が続くLVMH(ルイ・ヴィトン)のグループ経営戦略はどのようなものか。ティファニー買収のニュースに見えるLVMHの米国戦略。ベルナール・アルノーによるポートフォリオ経営の行く末は。
ヴィトンによるティファニー買収のニュース
2019年10月、フランスの高級ブランド「ルイ・ヴィトン」を擁するLVMH(モエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトン)グループが、アメリカの高級宝飾ブランド「ティファニー」を145億ドル(約1兆6千億円)で買収する案を持ちかけているというニュースが駆け巡りました。
このニュースを受けて、買収対象候補のティファニーの株価は28日、30%を超える急上昇をしました。1株あたり120ドル程度の提示があったと見られ、ニュース発表直前の株価に対しおよそ22%のプレミアムが乗っている計算になります。今後、両社の間で買収の話が具体的に進められることになりそうですが、この株価上昇を見る限り、市場参加者のリアクションとしては「あり得べき買収」と捉えているようです。
「ルイ・ヴィトン」はブランド名、LVMHはもはやヴィトンだけじゃない
さて、そもそもLVMH(モエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトン)とはどのような企業なのかを振り返ってみましょう。
もともとは富裕層向けの不動産ビジネスからスタートし、現在のLVMH(モエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトン)の根本が形成されたのは1987年、その名の示す通り、モエ・ヘネシーとルイ・ヴィトンによる共同経営の開始でした。
一番最初の買収は、1984年のクリスチャン・ディオール買収であり、この時点でいわゆる「ポートフォリオ経営」にシフトしたことが一大ターニングポイントでした。
その後も、FENDIやLOEVE、Berlutiなど、名だたるブランドを傘下に加え、今ではLVMHは70を超えるブランドを抱える巨大コングロマリットとなりました。もちろん、ルイ・ヴィトンは引き続きLVMHの根幹ではあるかもしれませんが、一方でLVMHそのものの経営を見る上では、ルイ・ヴィトンは一部でしかなくなったとも言えるでしょう。
ラグジュアリー業界はコングロマリットの時代へ
グループ戦略にシフトしたのは何もLVMHだけではありません。同時期、他のブランドもグループを形成し、今のリシュモンやケリングを合わせ、三大コングロマリットと呼ばれるまでになりました。
複数のブランドが、巨大グループの傘下にいるという構図はそれぞれのブランドを買い求める消費者の目から見れば不思議なものかもしれませんね。グループとしての名前ではなく、各ブランドの名前で商品が認識されているのは、ラグジュアリー業界独特です。
LVMHが好決算を続ける理由
LVMHの株式はフランス・パリのユーロネクストという市場に上場しています。
日本でいうところの日経平均株価はフランスではCACにあたりますが、上位40銘柄で構成されるCAC 40にLVMHグループが選ばれています。以下のように今年に入ってLVMHの株式は50%近く上昇しています。
結果として、LVMHグループの大株主であり、会長兼最高経営責任者を務めるベルナール・アルノーは今では世界長者番付(ブルームバーグ)で第2位を占めるまでになりました。
とりわけ、ここ数年のLVMHグループの好決算を支えてきたのは、同社の中国市場での成功であると言われています。米中貿易摩擦の中でも、成長を続けてきた中国市場の恩恵は大きかったことでしょう。中国の景気は鈍化するかとも言われていますが、それでもゼロ成長に近い先進国よりは魅力的なマーケットであることは間違いありません。
買収対象候補に挙がったティファニーの選択
日本では比較的親しみやすいブランドとしてティファニーが定着したかに見えますが、実はティファニー自体は経営の転換点に差し掛かっていると最近までは言われていました。
買収されるからといってティファニーというブランドが消えてなくなるわけではないと思いますし、LVMHグループのこれまでの買収を見る限り、「歴史のある良いブランドは良いブランドとして残す」ということは意識しているように思います。
独立系の地位を維持してきたティファニーにとっては、今回のLVMHの提案を受けるかは悩みどころでしょうが、アレッサンドロ・ボリオーロ新CEOの下で進めてきた改革にとって大きな推進力を期待できるのではないかと個人的には思います。
その後の結果ですが、11月25日には160億ドル(当初提示からは15億ドルアップ)での買収合意が発表されました。株価で言えば当初提示の1株120ドルから2回引き上げ交渉があり、1株135ドルで合意ということになります。当初の買収ヘッドラインに対する市場の反応は概ね適切だったということですね。
LVMHが進める米国市場での事業拡大
2019年10月17日、LVMHは米テキサスにルイ・ヴィトンの新工房をオープンさせており、トランプ大統領も落成式に出席したのも印象的でした。
実はテキサスは今トヨタの北米本社などの日本企業も次々と移転し、活況が続いている場所です。シリコンバレーに代わって、アメリカのハイテク産業を支える街として大きく成長しようとしています。
今回のティファニー買収の動きも、LVMHとしての米国での戦略の一つであることは間違いないでしょう。買収が成功してもしなくても今回のニュースはLVMHの投資家にとってプラス材料に映るのではないかと思います。
LVMHに学ぶポートフォリオ経営
グループ経営にあたっては「ポートフォリオとしてどういうブランドを保有しているか、またそれぞれのブランドをどのように扱ったか」を見てみるのが面白いかと思います。LVMHグループの場合、長く愛されるブランドを保有し続けることで、一方で時代の変化を受ける各ブランドの業績の波を吸収し、再生まで持っていくということを行なっている印象です。そういう意味では、もはやバッグを売っている会社というよりは潤沢な資本力を通じて投資を行う会社というイメージで捉えた方がいいのかもしれませんね。
こうしたポートフォリオ経営に近いものを戦略をして掲げる企業は他にもあります。最近のソフトバンクグループもその一例でしょうか。ソフトバンクビジョンファンドなども随分とニュースになりましたが、かつてのように携帯電話事業をやっている会社だと思ってしまうと、全体像を見失うことになりかねません。経営も時代とともにカタチを変えていくものだという意識は必要です。
先日、ゼネラルエレクトリックの話をしましたが、こういったコングロマリット企業の株式は、いわゆる一企業の株式と全く同じように見ることは適切ではありません。企業グループとして、傘下にどういった事業部門、ブランドを持つことを意図しているか、をしっかり見てから投資判断をすることをオススメしたいと思います。
*本稿の記載内容は筆者個人の見解であり、AMGとして証券売買の推奨を行うものではありません。