2018年の市場展望1/3 – まずはざっくり概観
2018年の市場展望を、まずは2017年から振り返ります。リスク資産全般の上昇、資源価格は持ち直し。世界経済が待ち焦がれたインフレは起こらなかった
2017年を振り返って
株式市場
昨年度はリスク資産全般が上昇した。株式市場ではS&P500が快調に数字を伸ばし、年末にトランプ政権ショックが来るかという大方の予想を覆し着実にリターンを上げ続けた。振り返ってみればアメリカ株が他の株式市場を引っ張ってきたかたちとなった。リスク資産の騰落(ボラティリティ)はほとんど見られず、ボラティリティ指数であるVIXは非常に低かった2006年をさらに下回る水準にまで低下している。
すなわち、株式に投資をしていた投資家はほとんどキモを冷やすことなく落ち着いた状態で資産の増加を見守ることができた。連銀利上げ、イギリスのEU離脱交渉難航、トランプ政権の誕生、イスラム国の台頭、北朝鮮情勢の緊張など株式市場にとってネガティブになりそうなニュースは2017年中もいくつもあったが、それらをはねのけて株式市場はずっと静かであった。
株式市場をドライブしていた自社株買いも一巡し、企業は設備投資など新規事業の発展に軸足を移しつつある。失業率も4.1%まで低下し、労働力需給は逼迫しいよいよ賃金上昇を基点とする良質なインフレが始まろうとしている。つい数年前までインフレ率が低すぎてアメリカもデフレ入りするのではないかと懸念していたのが嘘のようだ。
債券市場
利上げサイクルに入ってもっとも影響を受けると思われていた債券市場ですら、リスクマネーが流れ込んで価格を押し上げることとなった。リーマンショック時には株式市場と同じく債券市場も底が抜けたような落ち方をしたが、2017年度はその逆に株式市場とシンクロするように債券市場も上昇した。
企業は旺盛なM&A意欲があること、手元現金を使うのではなく債券を発行しバランスシートをふくらませることが株価によい影響を与えることから、低いクーポンレートで債券が発行できるとあって、債券市場は活況であった。債券市場でかきあつめたカネを使って自社株買いをして株価があがるという循環が出来た。これも超低金利の恩恵である。
資源、ゴールド
世界経済の好調を背景に石油、天然ガスともに2016年初頭の落ち込みから回復しつつある。石油についてはOPECの原産合意が続いているせいで価格が人為的に釣り上げられてることもあるが、これだけ世界経済が好調なさなかで減産をしてこの価格ということは、今後極端な投機的な動きがないかぎり上昇の余地が限られることになる。
2017年ドルが弱含んだことからゴールドの価格はそれを反映するように1オンス1,150ドルから1,300ドルを超えるまで上昇した。ドルはユーロ経済の安定にともなってドルが相対的に強くなったことで弱く見えているが(ドルの強弱をはかるバスケットはユーロが半分を占めている)、今後利上げにともなってドルは相対的に強くなってくると予想されることから、今年度はゴールドについては慎重な見方が必要だ。
2018年の世界経済
待ち焦がれたインフレ
リーマン・ショック後の世界は、いかにデフレの危機から経済を守るかがテーマであった。バブル崩壊後の日本下で橋本内閣が緊縮財政、増税を行ったことで日本経済が「失われた~十年」と不名誉な呼ばれ方をした。失われたのは株価や不動産価値だけではない。国民の自尊心も大いに失われ、様々な方面で日本人の活躍の場面が失われたように感じるのは私たちだけではない。
デフレはそれほどまでに消費心理を冷え込ませる。いったん冷え込んだ消費者心理が急に上向くことはないから、一度でもデフレに陥らせないようにしなければならない… というのが各国首脳、金融当局者の一致した意見であった。
金利を下げても、それを超えて金融緩和を行っても、インフレが起こらなかった。2007年暮れからの利下げ、2009年からの金融緩和からの悲願のインフレである。とはいえまだぐんぐん物価が上昇しているわけではない。やや上向いただけで楽観的になるような状況ではない。万が一次の景気後退がきた場合、中央銀行は取りうる金融政策を持ち合わせていない。金利も下げられないし量的緩和の効果も明らかでないなかでの度重なる量的緩和は国民の納得を得られない。
すなわちもっと上向きなインフレが必要とされている。仮にアメリカが悲願の2%のインフレを達成、その後も維持できれば、金融政策はあるべき姿 – 3-4%の基準金利、量的緩和はしない – に戻るだろう。
世界経済は3%台後半の成長がメインシナリオ
2018年も2017年から引き続き、ゆるやかな世界成長が続くと考えられている。これには中国経済の安定が大きく寄与している。中国のシャドーバンキング、理財商品と債務が膨張しまくったが中国政府がうまくコントロールしているせいで金融収縮は起こっていない。かつてのようにソフトランディング / ハードランディングの議論をしているエコノミストはもういない。
しかし中国の債務状況が危機的状況であることは様々なレポートで発表されており、投資家を戦々恐々とさせるには十分なレベルである。しかしここが中国経済の諸刃の刃なのだが、中央政府・地方政府が金融機関を隅々までコントロールしているので悪い数字は投資家には見えにくい。銀行の不良債権区分、法人の倒産件数、個人の破産件数などは正確な数字は外からはもちろん、中国の人たちだって分からないのだろう。そのかわり、一気に膿が出し切れないのでゾンビ企業が生きながらえて次の成長の芽を摘む結果となる。
基本的な統計情報が信頼できないのは今に始まったことではないが、「中国がハードランディングを避けつつあるようだ」というメッセージを投資家が受け取っている点が大事なのだ。
2018年も引き続き中国がワイルドカードな状況は変わりがないのだが、このまま穏やかに成長率が下がってくれれば世界経済は風邪をひくことはないだろう。好調な米中に支えられて、世界経済は3%台後半を目指すものと考えられる。
続編はこちら。