預金金利マイナスの衝撃に備える

日銀の次の一手が気になるなか、マイナス金利について、その影響を振り返る。スイスでは既に当たり前となった口座維持手数料が日本で導入されるとしたら。

今回のテーマは「マイナス金利」です。通常、お金を銀行に預けると金利がつきますが、預けておくとお金が目減りしていく状況が起こり得るかという話をしたいと思います。日本の預金者には馴染みが薄いとは思いますが、海外では実際起こっている話です。

マイナス金利に関する最近のニュース

2019年8月1日、スイス系プライベートバンクの雄であるUBSがスイスフランでの大口個人預金にマイナス金利を賦課することを発表しました(ロイター通信)。これによって11月1日から残高が200万スイスフランを超すスイス国内の個人口座に年0.75%の手数料が課せられ、またユーロ建ての口座も年0.6%の手数料の対象口座が、従来の残高100万ユーロ超から50万ユーロ超に引き下げられます。同じくクレディスイスも9月1日から、100万ユーロ超の残高がある個人の口座に年0.4%の手数料を課すことを決定しました(日本経済新聞)。

そもそもスイスの政策金利は以下のとおりずっとマイナスですから、長引くマイナス金利に耐えきれず、苦渋の選択といったところでしょうか。銀行として収益の上がりやすい、資産運用への誘導も兼ねているのかもしれません。

日本でマイナス預金金利導入は現実的なのか

もともとマイナス金利というトピックは、数年前に日銀が大規模緩和に突入したときに議論になったものです。実際に、銀行が日本銀行に預けるお金の一部にマイナス金利が適用されるようになりました。ただし、銀行が預かるお金にはマイナス金利が現状かかっていません。

ちなみに、欧州もマイナス金利政策を継続していますので、実際、ドイツではマイナスの預金金利は見られます。なかなかドイツ語のサイトを読み解くのは難しいですが、具体的に上手くレポートでまとめてくれているのがこちらです。また、ざっくりドイツの状況を知りたいなら、国際通貨研究所のレポートも良いです。

参考記事:ドイツの銀行、マイナス金利の痛みをリテール顧客に転嫁 – Bloomberg

なお、預金に関する契約に関していえば、2016年の日銀マイナス金利政策導入当時、金融法委員会がまとめているとおり、「金利は預金者に”支払う”もの」なので、少なくとも金利という形で預金者から”受け取る”ことはできません。

各国の実例もそうですが、一般的には口座維持手数料という形で請求されます。「普通預金金利 -0.05%」ということにはならないのがトリッキーなところです。

地銀再編が続くなど、銀行の収益が苦しい状況になっていますが、一方でマイナス預金金利の導入は多くの金融機関が出来るだけ避けたくて、これまで踏み込まずに済ませてきた”聖域”のようなものです。口座維持手数料を導入して預金が他行に流れることは避けたいからです。

これまで、メガバンク中心に、預貯金額は増加継続してきましたし、少しでも金利を上乗せて預金を集めようという意欲の銀行も多かったかもしれません。しかし、一方で海外も金利が下がってしまうと、運用先に困るような事態にも陥ります。したがって、もし今どうしても日銀が口先だけでない追加緩和をするとしたら、結果的に銀行側は、預金金利に対して収支改善の解決の糸口を求め始めることが十分考えられます。

スイスと日本を比較する

スイスと日本が似ているところは、通貨が安全資産だと認識されているところです。どちらも地政学リスクなどが意識されると買われやすい通貨となっています。

また、中央銀行がマイナス金利政策を取るのは、通貨安に向かうことを期待しています。米中貿易戦争の深刻化により、逃避通貨としてスイスフランも上昇しており、こちらは実際の為替介入と同時に、マイナス金利の深堀り(さらなるマイナス金利)もありそうです。

国内低金利の時代ですから、海外の高金利通貨の預金を持とうと思われる日本の方も多いと聞いていますが、一方で世界には金利を払ってでも保有したい通貨(スイスフラン)というものもあるのです。ただ、スイスと違って日本の場合は、通貨を買う人はいても、海外の投資家がこぞって預金を持ちたがる国ではないとは言えます。

マイナス預金金利導入により何が起こるのか

原始的な回答としては「タンス預金が増える」です。銀行に預けなければダメージは少なくなりますから、金庫に札束を積む人は増えるかもしれません。ただし、現金で置いておける分には空間の制約、盗難保険の金額など、やはり限界がありますから、一部には例えば金地金に換えるということも起こるでしょう。

一方、大衆の動きとしてはやはり投資に向かうことになります。ただ、やむなく預金口座から証券口座に動かしたとしても、すぐにいい投資先が見つかるとは限りません。焦って少ない選択肢の中で逆に手数料の高いファンドに手を出すといったことは避けたいですね。

あとは、休眠口座に対して手数料を課すということはあり得そうですから、大昔に口座開設をしたが、その後使わなくなった口座はないか、改めて確認する必要はありそうです。通帳やカードがあるか、印鑑はどれを登録したか等、ご自身の口座管理を見直すいい機会になるかもしれません。

一般には、こうした変化は、影響の大きい大口の顧客から起こりますから、法人の預金、大口の個人預金、そして本当の最後の切り札として、個人預金全体という順番になることが予想されます。特に法人の場合、メインバンクとの付き合いもあるでしょうから、悩みの種になる可能性も大いにあります。担当者から話がきたときにどう接するか、今のうちに考えておくのも良いかもしれません。

実際に起こったときに慌てないよう、今回の話が皆さまの頭づくり、そして備えに繋がったとしたら嬉しいです。

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