暴落する原油市場をどう理解すべきか

コロナショックなのか逆オイルショックなのか。ついに原油価格はマイナスへ突入し、様々な領域への波及することが懸念される。需給の緩みに見る、原油市場の変化について頭の整理をしておこう

コロナショックの一因は逆オイルショック

1973年と1979年に始まった2度のオイルショックのことを覚えている方もいらっしゃるでしょうか。当時は、中東で戦争が、そしてイラン革命が起こったことで、原油の供給が逼迫し、価格が高騰することで経済混乱がもたらされました。1974年の日本の消費者物価指数は23%上昇し、”狂乱物価”とも呼ばれ、高度経済成長時代の幕引きとなりました。

今回は逆オイルショックという呼び方も出ていますが、原油価格の暴落です。本来供給側はスムーズにコントロールされるはずだった原油市場において、供給過剰が引き起こされ、価格が急速に下落しています。一体何が悪いのだろう、と思う人もあるかもしれませんが、新型コロナウィルスの流行により経済自体が落ち込むなか、これまで原油輸出による歳入に頼ってきた国にとっては、唯一の稼ぎ頭がいなくなることで、国家破綻の懸念が出てきているのです。これまでの石油ビジネスでしっかりと蓄えができている国家はキャッシュを使いながら耐え凌げますが、そうでない国にとってはまさに苦境です。また、企業レベルで見てみれば、当然ながら石油生産には採算水準というのがありますので、それを下回る水準で掘削活動をすることはできません。石油関係企業は事業継続に関して赤信号が灯っており、破綻するところは確実に増えます。

原油価格は急落を超え、マイナス圏へ暴落

WTI原油先物価格(2020年5月限月)は、4月20日に1バレルマイナス40.32ドルという歴史的急落を記録しました。ただ、マイナスになっただけではありません。水準だけで言えば、水よりも安いわけですから、非現実的な値付けであったことは言うまでもありません。ただし、5月限月のロングを手放したくても、買ってくれる相手がいなかった、石油を備蓄してくれる人がいなかったのです。

トランプ大統領はこれを受けて戦略的石油備蓄を最大7500万バレル積み増す表明をしており、また、共和党上院議員はサウジアラビアからの原油輸入停止を目指すこととしています。原油価格は翌21日のアジア時間にはプラス圏まで戻しています。

原油価格は確かに下がったのは事実ですが、需給が安定していないなかなので、採算という概念もありえず、もはや価格はあまり問題ではないということも意味しています。原油価格のマイナス圏への突入は、逆オイルショックの第2波とも考えられていましたが、事前の予想があったこともあり、株式市場全般での急激なリスクオフには今のところ繋がっていませんが、まだまだ原油市場は目が離せません。

諸外国への波及効果が最も懸念される

石油業界の主要プレーヤーはアメリカ、サウジアラビア、ロシアであることは知られていますが、彼らは当然ながら事の成り行きをある程度コントロールできる立場にあるので(状況はそれぞれにとって厳しいとは言え)それなりの備えをしていますが、それに巻き込まれる諸外国はたまったものではありません。

国家経済が原油に依存している南米のベネズエラは既に経済破綻をしていますが、医療問題も抱えるなか、さらに困窮することが予想されます。また、エクアドルは20日、S&Pに加え、フィッチからも国債に対して「デフォルト」認定を受けました。

フィッチ、エクアドル国債を「デフォルト」に格下げ – 日本経済新聞

メキシコは逆オイルショックにおいては強気な交渉姿勢でしたが、格下げを受けており、通貨安が進んでいます。米ドル高に加え、原油安が続けば、いわゆる”資源国”と呼ばれる国々にとっては苦しい状況がしばらく続きそうです。IMFの支援を受ける国も増えるかもしれませんが、同時多発的な危機にIMFが対応しきれるかどうか、という問題も出てきそうです。

急激な石油価格の反転材料は乏しい

石油の場合、野菜のように作り過ぎたからといって破棄するわけにもいきません。腐るものではないので保管すればいいわけですが、保管にもコストがかかります。もちろん、これだけ安ければバーゲンであることは間違いないので、保管余力のある人は買いであることは間違いありません。しかし、先行きの不透明感がある中で、保管コストだけかかって利益が出ない可能性もあるとすれば、とりあえず売買を自粛する、ということがあるのもうなずけます。需給関係が緩みきっている以上、市場メカニズムに基づく価格の調整ができるようになるまではそれなりに時間がかかりそうです。米国を始めとした消費大国が経済活動を再開することが待たれます。

ちなみに、ガソリン価格への波及も期待されるところですが、原油価格に対しては遅行性(つまり、遅れて反映される)があることと、また結局は各社の仕入れ値によるので、新型コロナウィルス流行以前から在庫が積み上がっていたのであればしばらくは下がりませんし、また、どこの国から輸入したのかによっても価格が違いますから、日本の消費者への恩恵がどの程度あるかは今時点では判断の難しいところです。中期的にみれば、トランプ大統領の言うように、原油価格の下落によって減税に相当する効果が現れる瞬間があるのかもしれませんが。

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