今後もずっと続く緩和・今後もずっと続く低成長
緩和は終わらない。なぜなら、緩和によって経済はどんどん疲弊していくから。
「このバブルはいつ終わるのか」
「いつになったら景気がよくなるのか」
「中央銀行の緩和はいつ終わるのか」
これら、私どもアドバイザーが日常的にうける質問だ。3つは別々の質問にみえるが、アドバイザーにとっては同じようなことを聞いてるように感じる。なぜ同じようなことだと感じるのかというと、
- 経済が急速にスローダウンする
- 低金利や財政出動といったカンフル剤を打つが、思ったように経済が回復しない
- 回復しない状態のまま、また景気後退がやってくる
- これまで以上のカンフル剤を打つ
バブルの破裂も景気回復も緩和終了もこのサイクルのなかの一つの局面に過ぎないと考えるからだ。
リーマンショック以降のカンフル・サイクル
2008年のリーマン・ショック以来、ヨーロッパ債務危機を経て今回のコロナまで同じようなプロセスを繰り返している。もう少しこのメカニズムについて詳しくみていく。
もはや形容詞が見つからない財政支援
まず、リーマン・ショックやコロナ禍などで需給ギャップが生じる。需給ギャップは、その名のとおり需要と供給にギャップがある状態だ。今回の場合だと需要が供給に追いつかない。需要が少なく供給が多い場合、政府は自ら供給主体となって財政出動をしたりしてカネをぶん回す。
たぶん、中央銀行は民間の個人・法人にこういうことを期待している。
「今は思いっきり借金をして、そのお金を使ってどんどん新しい製品やサービスを作って、儲かったらその借金を返してね」
しかし新しい製品やサービスが生まれるどころか、そもそも民間は借金をしない。欲しいものが出てこないから需給ギャップはひらいたままだ。民間が儲かる前に次の危機がやってくる。ついこの間、財政支援したばかりなのに。
覚えているだろうか。リーマン・ショックの際、「金融市場の底が抜ける」とアメリカが大慌てで7,000億米ドルの財政支援、金融資産購入を決定したときに「とんでもない金額」「天文学的な数字」と報道されていたことを。今回のコロナでの財政支援は先月だけで9,000億米ドルである。もちろん、強欲な金融機関を救済するのとは性質が違うものの、それだけの財政支出が短期間で決定されたということ、またその上に1.9兆ドルの財政支援が決まり、昨年と今年で合計8兆ドルもの財政赤字が想定されている。
もはやどういう言葉をもって形容していいか分からないくらいの資金が投入されているわけだが、途方もない金額が投入されたが数字に慣れてきており私どもですらニュースに驚かなくなっている。
カネが回らない
しかしカネはまわらない。通貨の流通速度、英語でいうところのvelocity of moneyはコロナで劇的に減少したが上昇はしていない。手元にカネがあってもなにかに使うことはなく、単に貯蓄か投資に回っている。またそうでなければ、借金の返済に回っている、あるいは税金で取られている。以下の図はセントルイス連銀が発表しているものだが、コロナ以降劇的に落ち込み、まだ回復するには至っていない。すなわちカネが回っていない状態が続いている。
不名誉な125%クラブ
米国は公的債務の返済が対GDP比で125%を超えた。この水準は日本をはじめ、イタリア・レバノン・ギリシャしかない。公的債務が膨張している国が考えることは一つ。増税だ。日本の消費税も増税されたがアメリカでもついに増税が始まる。カリフォルニアではすでに富裕層に対しては最大で54%の所得税の導入が検討されている。
個人の所得税が増えるのはまだマシかもしれないが、法人の法人税が増えると企業は使えるおカネが減り、それは通常賃金の減少につながる。賃金が減少すると買いたいものも買えなくなり、インフレになるわけがない。
これら125%超えの国々で景気の良い国はない。10年ほど前から低成長が当分の間続くとする「ニューノーマル」という言葉が流行ったが、まさにこの125%クラブは他の国に先駆けてニューノーマルに入ってしまった国々だ。
救いたかった人が結局救えない
インフレにならないので、ますます意地になって緩和をするのは日銀をみてもよく分かる。
しかし緩和が経済を回復させるものではなく、むしろ緩和によっては経済を回すことができずに資産バブルだけが発生し、景気がいつまでたっても回復しないので国は財源確保のために増税をし、その増税が当初緩和によってもっとも救いたい対象であった99%の人たちの実質可処分所得を下落させていく。それは企業からの賃下げであったり国からの直接の増税であったりする。
一方、救う必要のない1%の人たちの資産価格は緩和によって上昇していく。緩和は経済を一時的には救いはするが、長期的には経済を疲弊させる元凶となっている。
質問に対する回答
「このバブルはいつ終わるのか」
「いつになったら景気がよくなるのか」
「中央銀行の緩和はいつ終わるのか」
まず1つ目の質問だがバブルがいずれ終わることは明らかだ。ただし、そのバブルの終焉が来るのは私たちが思っているよりもずっと後であることが通常だ。ニュアンスを伝えるのが難しいのだが、金融市場はあなたよりもバカである。「なぜこのタイミングで?」というところでバブルが弾ける。しかしその尺はこれから10年などではない。もっと早いだろう。
「いつになったら景気が良くなるのか」。これは景気が良くなった状態がどのようなものかにもよるが、経済で需給ギャップが解消され需要が供給を上回っている状態がしばらく続き、インフレ気味となり中央銀行も利上げに踏み切らざるをえない状態を指すとすれば、それはこの先5年は来ない。ただ、これだけ緩和が続いているので一瞬「景気は回復したかな?」と思える水準は来るかもしれない。報道も明るいものが増えてきている。
そして3つ目の質問「中央銀行の緩和はいつ終わるのか」だが、答えは「終わらない」。緩和は麻薬である。一度緩和の味を知ってしまうと、次からは抵抗なく行える。7,000億ドルの緩和は大々的に報道されたが、今となってはちょっとした金額にとしか思えない。経済の回復と、次の経済・金融危機との追いかけっこでは経済の回復が勝つことはない。