香港でプロ投資家宣言をするメリット・デメリット

プライベートバンクを利用する資産家はプロ投資家を宣言することで一般投資家と異なる商品にアクセスしている。香港でプロ投資家宣言をするメリットとデメリットを押さえることにしよう

香港で富裕層担当の運用アドバイザーをしております、宮脇健です。資産家の方にとって、プライベートバンクの利用は一つのステータスであることが多いですが、こと資産運用において非常に重要になってくるのは、プロ投資家宣言(Declaration of Professional Investor)です。

今回は香港におけるプロ投資家宣言の仕組みとそのメリット・デメリットについて紹介したいと思います。

そもそも香港のプロ投資家宣言(PI宣言)とはどういう仕組みなのか

世の中の投資家は、個人投資家(Retail Investor)と機関投資家(Institutional Investor)という2種類に分類されることはご存知の方も多いでしょう。このように分けている理由の一つは、単に個人なのか法人なのか、ということではなくて、個人投資家と機関投資家では、投資経験ないしスキルの程度が大きく異なるからです。金融業者としての立場で言えば、例えば一般投資家に対しては契約にあたってリスクなどを一から百まで説明をしないといけないのに対して、機関投資家に対しては十でいい部分があるということになります。個人投資家の中には、長々と説明を受けることに抵抗を感じる方もいらっしゃるでしょうが、そこは金融当局から監督を受ける金融機関として説明を省けない部分があるという事情もご察しいただけたら有難いです。

香港においては、このプロ投資家宣言をするための最も大きなハードルは何かというと、

金融資産額 HKD8mln

です。日本円でいうと1億円強ですね。

ちなみに、正確にはこちらのルールに記載があります。

Securities and Futures (Professional Investor) Rules (Cap.571D)

え?経験とかいいながら結局金額なの?と思う人もいるかもしれません。もちろん経験というのは非常に重要なのですが、残念ながら、投資経験を計測する明確な尺度は存在しません。もちろん投資初心者なのにプロ投資家ですということは違和感はあるにはありますが、株のことにめちゃめちゃ詳しいからといって、債券の話ができるわけでもなければ、凄腕のFXトレーダーだからといって、投資ポートフォリオが組めるわけでもないからです。

香港の投資商品にはプロ投資家宣言をしないと購入できないものがありますから、プロ投資家扱いを受けられるかどうかは非常に重要になってきます。弊社AMGでもプライベートバンキングサービスをご用意している理由の一つとして、お預かりできる金額によって、提供できるサービスが変わってしまうという現実があるのです。

日本では特定投資家や適格機関投資家と呼ばれる

日本でいうと同じようにアマからプロが分けられる仕組みは「特定投資家」で3億円以上、「適格機関投資家」になると10億円以上となっています。

もう少し具体的に見ると、金商法において、特定投資家に移行できる個人とは、以下の全ての要件を満たす個人とされています。

「1)取引の状況その他の事情から合理的に判断して、純資産の合計額が3億円以上と見込まれること。2)取引の状況その他の事情から合理的に判断して、投資性のある金融資産の合計額が3億円以上と見込まれること。3)最初に申出に係る契約の種類に属する契約を締結した日から1年を経過していること。」

特定投資家に関する情報 – 金融庁

ざっくり言うと、香港の方が少しだけハードルが低いことにはなりますね。ただし、特定投資家になった場合、書面交付義務や適合性の原則などの投資家保護に関する規制が一部免除されるため、要件を満たしていても、一般投資家のままでいることを選択する(あるいは移行する)こともままあります。

日本の場合、特定投資家の上に適格機関投資家というもう一つハードルを設けているのですが、細かく限定列挙されているので気になる人は以下のリンクを見て見てください。適格機関投資家の場合、一般投資家になることはできない点は注意です。

適格機関投資家に関する情報 – 金融庁

プロ投資家宣言のメリット – 商品の幅と質の向上が期待できる

提供できるサービスが変わってしまうと言いましたが、何が変わるのでしょうか。具体的にメリットを話してみたいと思います。

簡単に言えば、プロ投資家宣言をした場合、個人投資家であっても機関投資家と同じ商品を買うことが可能になります。

小売での商品の仕入れでも一般消費者が店頭で買うのと、業者が卸売価格で買うのでは値段が違うのと同じように、金融商品についても大きなロットでなければ買えないものや、大量に買うことが想定されているので予め手数料が安く設定されているものがあります。そのため、購入できる商品の幅と質は格段に向上すると考えていただいて大丈夫です。「いやいや自分がプロ投資家と呼ばれるのはおこがましい」などと考える必要はなく、ただただメリットを享受すればいいのです。

プロ投資家宣言のデメリット – ハイリスク商品に当たる可能性は増す

プロ投資家宣言はメリットばかりではありません。なぜなら、プロ投資家かそうでないかを分けるもう一つの理由は、リスク量の問題もあるからです。いわばハイリスク・ハイリターンな商品を一般投資家に説明をせずに売ったとなると、後で販売側の責任問題にも発展し得ます。金融業界では顧客保護の観点は非常に重いと考えられています。したがって、プロ投資家宣言をするからには、お客様ご自身がよくリスクを理解した上で購入する必要がある商品が増えることもまた事実です。

このようにいうと、プロ投資家になってしまうとリスクの高いものしか買えないんだ、という誤解が発生しそうですが、そういうわけではありません。業者向けだからこそ、有利な商品を仕入れることもできるのです。

適切なアドバイザーについてもらうことが重要

先に述べたように、プロ投資家宣言というのは、金融資産額がHKD8mlnを超えていますよ、という宣言です。

したがって、仮に資産がそれだけあったとしてもプロ投資家宣言という超えた方がいい壁なのかというのは自問自答する必要があります。義務ではありませんからね。業者からすれば、説明責任が軽くなりますから、ひょっとしたら説明を省きたい担当者に出会って、リスクをきちんと認識しないままに投資を行う可能性すらあります。金融都市香港という目線ではきっと良い商品があるのだろうと考える方はいらっしゃいますが、だからこそ、仕組みが難解で、でもリターンが良さそうに”見える”商品に出会うことだってあるのです。

仮にプロ投資家宣言をする場合も、しっかりとしたアドバイスをくれる、信頼のおけるアドバイザーかどうかのチェックはしておいたほうがいいという結論になるかと思います。また、そのアドバイザーが、プロ投資家を顧客としてアドバイスをしたことがあるか、も大きな分かれ目にはなってきますね。

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