暗黙の元本保証を見極めるにはどうしたらいいか
ファンドに元本保証は存在しない。にも関わらず元本保証型のファンドが巷で語られるのは何故なのか。時代とともに投資商品が変わってゆくなか、暗黙の元本保証の実態を検証してみる
香港でファンドの投資関係者と色々と話すなかで、しばしば話題になるのが「固定利回り&元本保証」です。てっきり日本人独特の営業トークなのかと思っていたら、中国人や香港人相手でも同じ文句を使っているようだ、ということに驚いたことがあります。そういえば2017年に中国では理財商品(日本でいう投資信託)に元本保証を禁止することが定められたというニュースがありました。つまり、それまではそれがまかり通っていたということですか。。
一方で、アドバイザーとして実際働くなかで、固定利回りにしても元本保証にしても積極的に使うことがない2つのワードなのですが、今回はそもそもお客様が期待するように、ファンドの世界に元本保証なんて存在するのか、ということを検証してみます。
元本保証型のファンドなんてそもそも存在するのか、という疑問
いきなり答えで申し訳ありませんが、答えはNoだと思っていただきたいです。ファンドという形態をしている限りにおいて元本が保証できることはないからです。もちろん、投資元本以上の金額を投資家に還元できるよう頑張るのが投資信託ですが。ただ、現実問題として「元本保証型のファンド」なるものが巷で話されることがあるにはあるということが分かってきましたので、何でそんな現象が起こるのか、そのカラクリを紐解いてみましょう。
”元本保証型”と誤認されるファンドの2つのパターン
「配当利回りが約束されている」ことをもって”元本保証型”だと思ってしまうケース
そもそもファンドで配当利回りが約束されていること自体ないといえばないのです。ファンドでは出資者に対して配当を出すことができますので、運用が上手くいこうがいくまいが配当パーセンテージを一定に保つ手法は確かにあります。当然ながら資産運用業界としてこういった見せかけの配当を通じて投資家を呼び込み&維持しようとする行為を推奨はしていません。なぜかというと、分配金とは儲かった分を分配するべきであって、出資してもらったものの一部を返却する行為とは分けて考えるべきだからです。日本でも毎月分配型、さらにはタコ足配当型の投資信託は存在しますが、気づいたら投資信託の価値自体が下がっていて化けの皮が剥がれたことが記憶に新しい人もいるのではないでしょうか。よもや、自分の出資したお金が(手数料を抜いた後!)返ってきているだなんて思いもしませんよね。分配を頻繁に行うファンドはひょっとしたら安心感があるかもしれませんが、長期投資には向いていません。
「満期の約束がある」ことをもって”元本保証型”だと思ってしまうケース
出資には満期がありません。だから資金を集める側からすれば、満期を暗黙に設定すればそれっぽくなるのではと考えます。これも暗黙の元本保証のトリックです。投資信託あるいはファンドは”出資”する(=持分株式を買う)ものですから、元本を返すことを保証すること自体が例えば出資法という法律に反していることになります。ファンドに対していついつまでに償還(返却)をしてくれるという満期の設定をお願いすること自体が不適切ですね。お願いされた方は、”満期”に向けて頑張ります!と口ではいくらでも言えます。ファンドができることはしっかりと運用をしてファンドの価値を維持向上させることでしかありません。その上で解約請求があったらそのときの価値で即時に解約に応えるということがあるべき姿です。プライベートで出資者を募った場合、そもそも満期があるない以前に、解約請求にきちんと対応してくれるのかどうか判断しようがないことがあります。
暗黙の元本保証の例〜あってないような満期の概念〜
普通の人は、満期があるものといえばローンだったり債券だったりを自然とイメージしますから、満期がくれば元本は返ってくるという感覚がどこかで生まれます。もちろん時が来て返せるお金があれば耳を揃えて返してくるかもしれませんが、契約書をよくよく見てみましょう。返せなかったら「こうこうの理由でしばらく返せません」と投資家に言えばいいという契約になっていませんか?返せなかったらそれはそれで延滞利息が課されるような仕組みなのでしょうか?
不動産投資における数年後の買い戻し規定や、満期のあるクラウドファンディングでは、そのときになってもお金が返ってこないことはしばしば起こります。そもそも出資してもらったお金を何かに投資している以上、投資先からお金が返ってこなければ出資者にお金を返すこともできないし、返す義務もない場合があるからですね。「資金回収に手間取っておりまして・・」と言われ、出資者は泣きを見るしかないのです。1年で10%の利回りの約束だったのに、回収に5年かかって10%分の利益はもらったけれど・・・。約束は約束ではなかった例であり、約束の内容を双方が自分にとってのベストシナリオに解釈した結果です。
トークとして元本保証を用いても、契約書にはそんなことはどこにも書いてないこともある
営業がライセンスを持たずに活動している場合、また短期で荒稼ぎをしたいと思っている場合、この悲劇は起こります。トークもまた契約の一部だ、と言いたくなりますが、言った証拠がないとすれば、まかり通ってしまう可能性があります。特に海外だと英語で書いてあるので、書いていないことに気づくこともないかもしれません。あなたに投資を紹介した人が、元本保証ですと最後まで言い切るパターンもあれば、元本保証は勧誘文句であってどこかで「いえ!元本保証ではありません!」と吐き出すパターンもありますが、最初に思い描いた元本保証のイメージがこびりついて、いつの間にかそこから外れたことに気づかないことも考えられます。
投資の話は小出しになりがちだが、妥協はしないことが大事
投資の話をするときに、最初から全てのことをつまびらかに話す人は多くありません。そもそも相手が興味があるか分かりませんし、また本当にいい話であれば相手にアイデアを盗まれることすら恐れるからです。いい話と悪い話が最初から判別できることは少なく、「固定利回り&元本保証」などの耳障りのいい言葉を頼りに話を聞きにくる人がいるという現実があります。大事なことは、納得がいくまで話を聞き、妥協をしないことですね。
もちろん知り合いから伝わってきたいい話を頭ごなしに排除するのは勿体無いと思うかもしれません。一方でここで話したことはまずはベーシックな知識としてもっておき、そこに当てはまらないものは素人目で判断できるものでないと割り切るのも大事なことのように思います。腑に落ちないことがあればきっぱりと諦めることです。目利きができるようになれば自然ともっといい話がやってきます。
30年前の日本では銀行に預けていればお金は増えた時代ですから、仮に10%の投資利回りを謳ったところで誰も寄ってはこなかったでしょう。今の日本が低金利だから利回りを求める動きが出ていて、でもでも元本は確保したいと思う投資家心理があり、そしてそれに合わせた営業トークが編み出されているわけです。投資するファンドが健全に運営されているかどうかチェックすることが投資家に求められますし、それがチェックできないのであれば投資を見送ることも検討すべきです。面白い話をもらったが迷うようなときは聞いてみる、というのもIFAの一つの使い方です。また、「いや!それでも元本保証にこだわりたい!」という方は以下のブログも参考にしてみてください。
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