実体経済と株式市場の乖離について思うこと

最近よく聞く、実体経済と株式市場の乖離に関する論点を整理してみる。それでも資産運用を続けるためにどうしたらいいのか

今回は、最近お話ししたお客様と必ずと言っていいほど話題になった「実体経済と株式市場の乖離」についてちょっとだけコメントをしたいと思います。

そもそも乖離を気にしている背景は何か

改まりすぎても仕方ないのですが、気にしたことがないという人もいらっしゃると思うので、共通の認識づくりからスタートします。実体経済と株式市場の乖離が激しいと指摘する人は一体何に基づいて話しているのでしょうか。

一つにはコロナショック後のV字回復です。

2020年3月に世界の株式市場は急落し、時を同じくして世界の主要都市からロックダウンが行われました。明らかに経済活動は停止し、実体経済にダメージがありました。一方、株式市場はまたしても遅くないスピードで回復をし、見た目にはV字回復を遂げました。残念ながら、実体経済の方は感染第2波や第3波を警戒していますし、旅客機はほとんど飛んでいないことに見られるように、経済活動が完全に戻ったとは言い難いです。

もう一つはメディアでの報道増加です。

世界的に見れば感染者はまだまだ増加傾向にありますが、かたや日本はというと壊滅的な状況とまでは言えません。日本の実体経済は世界の実体経済と少し様相が異なっていることは報道で感じられますが、それが実感を伴っているかと言われるとそうでもありません。逆に、長く通っていたお店が潰れたり、夏のボーナスが支払われなかったりすることの方が、人々の印象には残ります。実体経済と株式市場が乖離している、という報道ほど、「それっぽい」と思えるものはなく、そして報道がしやすい面はあるでしょう。

そもそも実体経済とは何か

個人的には、「より広義な経済」を意味しているのだろうと思います。目に見えるし、近い将来に予見できるあらゆる経済活動、といった意味合いです。恐らく生活実感とリンクしているので、「消費者や労働者の世界」とイメージしても良いだろうと思います。日々、働きに出たり食事をしたり、買い物に行ったり、という部分ですね。

そもそも株式市場とは何か

個人的には、「より狭義な経済」を意味しているのだろうと思います。特に、株式市場とはただ企業全般を表すのではなく、上場企業を指していることになりますから、言ってみれば「資本家の世界」なのでしょう。投資信託などを経由していれば現物株式でなくても、立派な資本家、投資家です。

実体経済と株式市場は乖離してはいけないのか

つまるところ、皮肉なことに、上場していない企業がいかに苦しんでも、上場している企業さえ良ければ株式市場は持ち堪えます。

あなたの街の商店街がシャッター街になったとしても、世の中の景気が良いこともあるのと構造は同じです。シャッターを閉めることを決断した個人商店の経営者はきっとこういうでしょう。「景気が悪くなった。」と。一方、街の中心にある百貨店の経営者はこういうでしょう。「景気が良くなった。」と。

実体経済と株式市場は常に乖離しているとは思っていても差し支えはないと思います。なぜなら理論的な話をするのであれば、株価というのは将来の利益から逆算される数字(株主帰属価値)であるのに対し、実体経済は今、この瞬間(の利益)しか指していないことが多いからです。5年後に爆発的に世の中に広まるサービスがあったとしても、今世の中に出回っていなければ人々に認知されないのと同じです。

実体経済と株式市場は本当に乖離しているか

ただ、実体経済と株式市場が乖離しすぎていても違和感がある気はしますよね。一つの指標として、以下を見てみましょう。MSCI全世界株式インデックスにおいて予想されている株価収益率(PER)です。つまり、収益に対する株価がどの程度高く評価されているかを表しています。PERが上昇するのは、株価が上がるか、収益が下がるかですから、今回のコロナショック後は両方が重なって2002年来の高水準となっていることが分かります。

背景には一体何があるのかというと、一番は、未曾有の金融緩和が株式市場を下支えしていることがよく指摘されます。そしてそれが同時に実体経済を支えていることも事実です。経済を意図的に止めてしまったがゆえに、代わりに人工心肺に入れ替えている状態が続いています。上記の数字を読み解くのであれば、ただの代替というよりも、より強力な人工心肺を投入したとは言えるかもしれません。少しずつ経済が戻るにつれ、企業が自らの力で活動し始めたとき、収益が上がって、実体経済と株式市場の乖離は縮小に向かうことは期待できます。逆に経済回復が遅くなれば、乖離の状態は長く続くことになります。

乖離を指摘はすれどもどうしようもない現実とどう向き合えばよいのか

大切なことは、乖離しているからどうだとか、乖離しているときはどうしたらよいという何か鉄板の解答があるわけではないということです。

もちろん、長期的に見れば実体経済と株式市場が整合的になるタイミングがくるかもしれませんが、それは株式市場が下がって起こるのか、あるいは実体経済が回復して起こるのか、そしてそれがいつ起こるのかまでは分からないのです。

金融市場とは瞬間の連続でしかありません。実体経済と株式市場がもし乖離してしまったのなら、それはそれで事実です。「金融市場は常に正しい」ということをいう人もいますが、正しいかどうかはさておき、それが事実だということは認めるべきでしょう。“事実として”●●円で売りたい人がいて●●円で買いたい人がいた、それ以上でもそれ以下でもありません。外野がその値段は高いだの、低いだの言うのはそれとは少し別の次元の話になってきます。売り買いをした当事者は後々の損得はおいておいてもそれで良かったのです。

ただ、実体経済と株式市場が乖離したからといって資産運用をやめることができないし、やめるべきでもないとしたら、一度やると決めてしまった人はこのどうしようもない不安のやり場をどこに持っていったらよいのでしょうか。

一つは、消費者や労働者の世界と、資本家の世界の違いをポジティブに受け止めることでしょうか。

資産運用に完全に依存する生活が良いとは思いませんが、しっかり働きつつ、しっかり資産運用できているのであればある意味で人生のリスク分散ができていることを意味します。もちろん、両方が上手くいっているに越したことはありません。

もう一つは、家計と資産運用のバランスについて考える機会にすることでしょうか。

資産運用は長期戦なので、短期的な気分でコロコロと変えてしまうことはオススメはできませんが、仕事や家庭などの状況が良い方向にせよ悪い方向にせよ変わったのであれば、家計と資産運用のバランスを見直すこと自体はあっていいと思います。

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