低金利な世の中で今投資中のあなたは過剰にリスク取っている

ハーバード大とMIT大の共同リサーチによると、金利が低ければ低いほど投資家は過剰にリスクを取ることが分かった。そこからどう資産運用に結びつけるか。

金利が現在X%だとします。平均でX+5%のリターンを生む、しかしリスクのある株式に投資をすることを検討しなければいけない状況だとすると、あなたは全資産の何%を株式に投資をしますか? 投資期間は1年とします。

ハーバード大学とマサチューセッツ工科大学が発表したLow Interest Rates and Risk Taking: Evidence from Individual Investment Decisionsが挑んだ実験。結論を先に言ってしまうと 金利が低い状況では、人々はリスクを取りがちである ということになる。

低金利は人のリスク許容度を上げる

リサーチによると、-1%から10%までの金利水準であればリスクを取る割合が減っていく。すなわち金利が低ければ低いほどポートフォリオ中の株式などのリスク資産を増やし、金利が高くなればなるほどリスク資産を増やすという傾向にある。(ちなみに金利が15%の場合は10%と比較してわずかにリスク資産の割合が多くなっているが、これは誤差の範囲内と考えていいだろう)

合理的には行動しない人間

この実験が示唆するところは大きい。 まず、人々は合理的には行動しないという心理学では当たり前だが経済学では無視されてきた事実を突きつけられる。

全資産のなかで、リスクのない資産といリスクのある資産をどれくらいの割合で組み入れるかは、個人のリスク選好だけで本来金利水準とは関係ないはずである。実験ではリスク資産は非リスク資産にくらべて5%のリターンが期待できるとのみしており、その他一切の事情は関係ないわけだから個々人のリスク選好が金利水準と関係なく結果に反映されるはずだ。 単純に個人のリスク選好が反映され、金利水準は関係がないとすれば、調査の結果グラフは横にまっすぐなグラフとなる。

しかし現実は異なり、低金利で高いリスク、高金利で低いリスクとなっている。行動経済学の泰斗でノーベル賞を受賞したダニエル・カーネマンは、人々はある数字を与えられるとそれを基準(アンカー、 錨)にしてモノゴトを判断するようになることを証明した。これをアンカリング効果とよぶが、この実験はまさに金利がアンカーとなってリスク選好に影響に与えている。 アンカリング効果については様々な実験があるので興味がある方はネットでひいていただくとして代表的なものを紹介したい。

ルーレット実験

10と65がランダムに出るルーレットを用意し、10が出たグループには「アメリカ諸国の国連加盟率は何%だと思いますか」と聞き、65が出たグループにも同じ質問をする。10が出たグループの回答の平均は25%、65が出たグループの回答の平均は45%でった。ルーレットが示す数と個々人が考えるアフリカの国連加盟率は全く独立した問題だが、ルーレットの数字がアンカーとなって回答に影響を与えたのだ。

パン焼き器マーケティング

もう一つ。それまで手作業でこねてオーブンにいれていたパン焼きを自動化する画期的なパン焼き器をとあるメーカーが開発、200ドルで販売を始めたが一向に売れない。そこでもう一つ300ドルのパン焼き器を売り始めたところ、200ドルのパン焼き器が飛ぶように売れ始めた。

200ドルのパン焼き器はその間性能は向上していない。しかし人々は最初に販売された画期的なパン焼き器の値段(200ドル)が高いか安いかがわからず、300ドルのパン焼き器が発売されて初めて300ドルという数字がアンカーとなり200ドルが安いと認知できるようになったわけである。

これを投資環境い引き直すと「ふつうの金利水準」というのがアンカーとなり、それより低い金利水準の場合はポートフォリオ全体でより高い利回りを追求するためリスク資産を多く組み入れたいという衝動に駆られるのだろう。 逆に金利が上がってくると高い利回りを目指したいというモチベーションにブレーキがかかることになる。

日本人の過剰なリスクテイク

先日の弊社AMGブログ。現預金は過去最高となっているのに過剰なリスクを取りたがることについてのお話だったが、日本人の「保守性」とその対にある過剰にも思える「リスクテイク」は低金利にあるのではないか。

低金利状態が長く続きすぎたせいで、リスク資産に対する免疫がなくなってしまっているのではないか。少し前は「ミセス・ワタナベ」に代表されるようなFX投資、今はビットコイン。この低金利状態で少しでも資産を増やそうと投機に走ってしまう。

証券会社で株式をやるのは営業マンにいいように言われて回転売買で損をするというイメージがあるし、投信は手数料が高い。債券市場はなおさら整備されてないし、だったらビットコインでもやるか! となってしまう日本の資産運用環境の悪さには同情してしまうが… ちなみに香港は資産運用ツールが豊富に揃っているためビットコインは一部投機好きが話題にする程度で、ふつうの市民の間で盛り上がってはいない。

リアリティ・チェック

この実験はアメリカ人およそ1,200人が参加している。日本人が実験に参加しても同じような結果になるだろう。日本は相変わらず低金利が続いており、実験結果からすると資産を高いリスクに振り向ける傾向にある。現在の株高はむしろこういったリスクテイクの結果だと言ってもいい。 しかし、そのリスクテイクが報われるかどうかは微妙である。

資産運用でもし運用開始のベストタイミングを狙うとすれば周囲と逆のことをする必要があるからだ。個人投資家はえてして「その波にあやかろう」と後からついてくることがある。個人投資家が資産運用で勝ちのこるためには、周囲と逆のことをする勇気が必要だ。 もし「周囲のみんなも儲かってるみたいだし、自分も資産運用をはじめてみようか」という程度であれば、全財産をかけてリスクテイクするのではなく、ほどほどにしておいたほうがいい。

そしてすでにリスクテイクをしていて、儲かっているという方はこれからアクセルをベタ踏みするのはやめたほうがいい。個人投資家が買い上がるときというのは、えてして相場のサイクルの最後のほうであるのだ。またアメリカが金利をあげてくると個人投資家はリスクテイクをしなくなってくる。アメリカ金融市場がくしゃみをすれば、日本市場は風邪をひく。

日本人にとって0%という低金利がアンカーとなっていることは間違いないので、過剰にリスクをとっていないかをチェックする必要がある。たとえば全資産の80%をリスク資産に振り向けていないか。実験によると金利が0%すなわち現在の日本のゼロ金利のときリスク資産は70%となっている。80%であれば、普通の人よりもさらに多くリスクを取っていることになる。

これを踏まえた資産運用

これから逆算して資産運用を考えると、教科書的なポートフォリオの組み方と逆の結論に行き着く。教科書的ポートフォリオ理論だと、リスク資産(株式)と非リスク資産(債券)のバランスは以下のようにあるべきと教えられる。

  • 金利が低いときはリスク資産割合を高く(なぜなら企業は低金利を利用し新規事業や自社株買いをするから株高になるだろうし、低金利時は債券利回りも低いから債券投資を増やしても意味がない)
  • 金利が高いときはリスク資産割合を低く(なぜなら企業は高い金利を早く返したいから新規事業や自社株買いをする余裕はないし、高金利時債券利回りも高くなっているだろうから良い利回りを取れる)

しかし上述したように金利が低いときにはすでに普通の投資家でもリスクテイクをし始めている可能性がある。すなわち低金利状態ではすでに株高であるかもしれない。むしろ金利上昇していく過程でリスクテイクを始めていなければならない。 ちなみに、このリサーチペーパーでは

  • 男性は女性より
  • 高等教育を受けている人はそうでない人より
  • 投資経験がある人はそうでない人より

リスクを積極的にとる傾向がわかっている。

ただ、30-40歳のグループが40-50歳のグループよりリスクを取らない傾向もわかった。リサーチペーパーにはこの差についての理由は書いてはいなかったが、考えられる要因としは30-40歳グループは40-50歳グループよりも資産が少ないためリスクテイクについて保守的になったのかもしれない。ちなみに50-60歳グループは30-40歳グループよりもさらにリスクテイクは少ない。これは年齢からくるものだろう。

関連ブログ:運用利回り5パーセントのポートフォリオ例をデザインする

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