追加の1,400ドル、どう使う? 行く先の60%がビットコイン
株よりビットコイン? 400億ドルの現金給付の流れる先は
インフレ懸念
米国も日本と同じ轍を踏む。すなわちいくら緩和をしたとしてもインフレは起こらず、賃金も上昇しない。
なぜか日本にはこのようなコンセンサスが強い。おそらく日本がかつて経験した「バブル崩壊→需要急減→デフレ」という図式が定着しているからだろう。しかし今週、米国10年債のイールドが急激に1.75%まで上昇した。国債のイールドが上昇するということは、市場参加者は「経済が成長し、インフレになる」ことを予想していることになる。
いやいや、これは投機的な動きであって「債券王」と言われていたビル・グロスは「数ヶ月以内に3-4%のインフレになる」と考えて米国債をショートしていることが明らかになったし、元財務長官のローレンス・サマーズも「過去40年で最悪のインフレになる」と発言している。
とはいえ米国内で物価が大きく上昇している気配はない。2月速報値でも1.7%だから、ビビるほどのインフレが起きている印象はない。それに、連銀はインフレのオーバーシュート、上振れを認めており2%以上のインフレになったとしてもただちに引き締めに入るわけではない。
かつて日本のデフレは日本政府がただちに金融緩和に動かなかったばかりか、それによって引き起こされたデフレをほったらかしにしてしまったという経緯がある。しかし今回のアメリカ政府はリーマンショックのときよりも迅速に行動し、デフレを未然に防いでいる。今回のコロナでも素早く十分すぎる規模の財政政策で需給ギャップが埋まっている。
これらの点で「日本と同じ轍を踏む、物価は上昇せずに超低金利が半永久的に続く」と短絡的に考えるのは確かにどうかと思う。感覚が麻痺しているが、リーマンショックの際には7,000億米ドルで「超ド級」と形容される緩和であったのだ。今回は1.9兆ドルである。しかもこれだけで終わるとも考えられず、必要とあらば次の給付が待っている。
消費には使われず、ビットコインが買われる
その給付。
コロナ対策のための1.9兆ドルの追加予算がバイデン大統領によって承認された。「米国救済計画法」と呼ばれるこの法律の中には、年収7万5千ドル未満の国民一人につき1,400ドルの現金一時給付が含まれる。
この1,400ドルの使いみちであるが、コロナといっても国民全員の生活水準が下落したわけではなくむしろコロナによって収入が上がった人もいる。収入が上がったのか下がったのか分からないから一斉に給付するというのは日本も同じではあるが、この給付金総額3,800億ドルのうちおよそ10%の400億ドルが米国株式市場かビットコインに流れ込むという。しかも、そのうちの60%がビットコイン投資に振り向けられる、とみずほ証券のリサーチで明らかとなった。
コロナの給付金で、個人投資家の投資熱が異様に高まっている。仮想通貨のここ最近の急激な上昇もそれを反映してのことで、もともと本質的な価値をもたないビットコインがますます投機の対象となっている。どうせ自分で働いて稼いだおカネでないのであれば大事する必要はない。とはいえただただ遊びに使ってしまってはもったいないからギャンブルしようという心境か。
ビットコインが上昇しても、米国株が上昇しても直接的に雇用をうむことはない。いくらペーパー上の資産がふくれても全国民の胃袋が同時に膨れることはない。
今回の給付金は年収75,000ドルという区切りはあるものの、高年収になればなるほど1,400ドルを使い切って経済にまわすというモチベーションは働かない。3,800億ドルのうち3分の1が貯金にまわると予測されており、銀行預金がただただ増え、低金利でただでさえ厳しい銀行経営がますます厳しくなり、銀行は貸し先がないから同じく投機をしリスク資産がますます上昇してしまうという循環が続きそうだ。