あふれるマネーはIPOや新興諸国へ

ドットコムバブルのミニチュア版のようなIT企業の新規上場後のバリュエーションの異常さ、いかがわしさについて。

目立つ投資先であれば何でもいいようだ。DoorDashとAirbnbの新規上場の件。

DoorDashは倍

アメリカではUberEatsを抑えてマーケットシェアの半分を占めるDoorDash。7年前に創業したこの会社が新規上場を果たし、上場直後から一気に上昇し一時倍近くまで値上がりし時価総額は720億米ドルを記録した。

アプリは使いやすいらしいしコロナの直撃をうけているレストランもDoorDashを通じてテイクアウト・サービスを提供できる。特にこのコロナではDoorDashは一気に売上を伸ばした。上場についてはコロナ前から計画されてきたが、まさにドンピシャのタイミングで上場できたことになる。

DoorDashは他のシリコンバレーで創業し上場するテック企業のように、通年で黒字を達成したことはなく、面を取りにいくために赤字を「深堀り」してきた会社である。ずっと赤字なので株価収益率がいくらか、なんて分からない。しかもトラビス・カラニックが率いていたころのUberが完全自動運転技術に何千億円も資金投入していたように、DoorDashもレストランと顧客そしてその橋渡しをする配達員の道順などロジスティックを強化するための人工知能の開発に勤しんでいる。

顧客は1秒でも早く食べたいし、レストランは1ドルでも多く儲けたいのでそれを最適化するための仕組みは必要なのだろうが、そこまでコストをかけてやる必要があるのか、まずは手前でAIとか人工知能というバズるワードを出すことでバリュエーションの引き上げを狙っているというイメージが拭えない。要するにカネを使って投資家に誤認させているのではないかというイメージだ。DoorDashは2019年はおよそ10億米ドルの収入に対して4.5億米ドルの赤字であった。

そんな会社が新規上場デビューしていきなり倍である。

アメリカ人の多くがコロナでこのDoorDashのアプリを使うようになったのでいわば銘柄に対する「親密さ」が生まれたことは間違いない。FacebookのIPOもそうだった。アプリを使っていると親近感が生まれるから株式もつい気になって買ってしまうのだ。しかも、自分がアプリを使っているのでバイアスがかかっている。「少なくとも自分が使っているのだから収入はあるはずだ、しかもこんな便利なんだから他人が使わないわけない、だから儲かるはずだ」という。

Facebookは上場後に一時半値くらいまで落ちた。もちろんその後上昇したが、それは広告収入がついてきたからだ。

結局、どんなに有名で使いやすいアプリであってもそれに収益がついてこないと株価は伸びない。ドットコムバブルはそれがIT業界すべてで起こったが、局所的なドットコムバブルを見ているようだ。

Airbnbも倍

そして昨日、Airbnbが上場した。DoorDashよりも財務状況がよく、2018年にはEBITDAベースでは黒字化したと報道された。このコロナ禍においても、外国旅行ではなく国内旅行の予約でなんとかしのいでいたものの下半期になると予約数は下落し通年での売上は昨年よりも悪くなることが確実視されている。

Airbnbにとって上場タイミングが悪かったとはいえ、IPOデビューの結果はこれまた倍。

DoorDashにしてもAirbnbにしても、押しも押されもせぬマーケットリーダー。シリコンバレー流の「赤字をバンバン出して、資金調達のたびに投資家に夢を見させてバリュエーションを釣り上げ、その後に上場して一般投資家に高値で売りつける」というやり方がまかり通っていることを見ると、2000年前後のドットコムバブル時と同じく今の投資家はよほどキャッチーなところに飛びついてしまっていることが透けてみえる。

おカネの作り方が変わってしまった

1980年までは上場時に赤字だった企業は2割しかなかったが、現在では上々に赤字である企業は8割もある。すなわちお金の作り方が全く変わってしまって、利益をあげて社会に還元するというよりは投資家に夢を見させて資金を集めるという手法となっている。TESLAのようにうまくいっている(ようにみえる)企業もいくつかあるものの、その大言壮語はいわばマーケティング的な視点であって原野商法と何が違うのかと思うこともある。

これも低金利の弊害だろう。

次は新興市場

次、というよりももうすでに向かっているのだが。例えば中国。米株があがりすぎたこともあって定期的なリバランスを行っている投資家のマネーが機械的に新興市場に向かっている。

またコロナ下にあって唯一成長見込みがある、また中国政府がなんとかしてくれるという思い込みがあり国レベルはもちろん投資家レベルでも全世界が中国に寄りかかってくることが考えられる。

ただし中国市場も盤石ではない。国でも民間でも債務は激増しており、5年前なら確実に中国政府が救済していたであろうチップメーカーのTsinghua Unigroup(紫光集団)のドル建て債券のデフォルトをスルーしている。無い袖は振れない、ということなのだろう。

またタイやベトナムなどコロナから難を逃れた国はこの数週間で投資資金が流入し指数の押し上げに貢献している。

それでもマーケットに入っていくか

3-6ヶ月の短期ではリスクテイクはYESかもしれないが今後政府の補助政策も尽きていよいよ消費が細ってきたときを考えると今のこの熱狂がどういう形で冷めていくのか予想もできない。また主要中央銀行はゼロ金利を継続しており政策ツールはほとんど残されていない。

ちなみに弊社のモデルポートフォリオでは3割現金の5割株式、2割が債券となっている。3割も現金でおいておくこのは保守的な采配であるが、弊社のポートフォリオマネージャのWyman Leungはそういう判断をしている。

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