おカネの心配をしなくていいはずの富裕層が生命保険を買う理由
将来の心配をしなくてもいいくらいの資産を持ってる方でも、生命保険を買う理由はあるというお話
生命保険は「自分が死亡した場合に備えた生活資金」と理解されている。たとえば生命保険の必要保障額は
- 将来の出費(子供の教育費など)
- 現在の生活レベル維持
- 過去の債務の清算(家のローンなど)
と時系列で3つの目的に沿って設計される。生命保険の営業マンはこれらの数字をエクセルで作成、グラフを見せる。掛け捨てと貯蓄性あるタイプでは目的は違うものの基本的にはこれらの目的に資するために使われる。
では
- 将来の出費の蓄えが十分にあり
- 現在の生活レベルを今の蓄えから捻出することができ
- 過去の債務も存在していない
この場合、要するにお金持ちであれは生命保険を買う理由がないとも思われる。実際に私のクライアントの中でも上記の理由で生命保険を一つも保有していない、あるいは全く生命保険に関心を示さない方は少なからずいらっしゃる。
しかし、富裕層でも生命保険に利用するメリットはある。これまでの弊社のクライアントで生命保険を利用されている方の利用目的をみてみたい。もちろん最初に延べたような生命保険を買う一般的な理由がない方々だ。
1. 利害調整弁として
相続資産が常に流動性あるものだとは限らない。先祖代々の土地を相続によって分筆することが許されないこともある。また相続に対する考えの世代間格差があって、相続対策を検討している家長は「長男がすべての財産を引き継ぐ」と考えていたとしても子どもたちの世代は「兄弟間で平等に分配される」と考えていたりする。この考えの乖離が争族を発生させる原因となるのだが、「先祖代々の土地は長男に」「その他の資産は次男や長女に」としたときに流動性ある現預金で間に合えばいいが間に合わないこともある。
生命保険をかけておき、キャッシュを余計に積んでおいて兄弟間の相続資産の調整弁とする。おそらく富裕層の方が生命保険を購入する一番大きな理由だ。
2. 共同創業者
事業を友人と共同で創業した場合、共同創業者が等分に株式を保有していることが多い。たとえば本人が50%、友人が50%といった具合に。この配分自体が正しいかどうかは別として、もしご本人が亡くなった場合奥様が50%を相続することになる。その奥様が経営になんの関心もなく、片割れの友人に事業を任してくれさえすれば問題はない。しかし奥様が経営に関与し、その経営方針がまるで本人と違っていたら悲惨である。
そこで会社を保険契約者かつ受益者、創業者を被保険者として生命保険を買っておく。死亡した場合、生命保険の保険金をつかって自社株買いを行う。
3. キーマン保険
キーマン(Key man)とは会社の社長など、キーとなる人のことだ。たとえば社長が死亡した場合、取引先や金融機関が動揺してしまって取引を見合わせたり融資を引き上げたりすることがある。その間、会社に潤沢な資金がアレばよいが次の後継者が決まるまでのキャッシュが続かない場合もある。
そんな場合に備えてキーマンに生命保険をかけておく。キーマン保険という種類の保険があるわけではなく、生命保険自体はふつうのものを使うがその目的がキーマンが死亡したときのために用いるということになる。
4. チャリティ・慈善活動
生命保険は他の金融商品とは異なり受益者を設定することができる。仮に遺言で「全財産はチャリティに寄付する」としたためてあっても、それが相続人によって必ず実行されるかどうかは分からない。また遺留分資産の算定をめぐって長期間争うことも考えられる。
死亡したら財産はすぐに慈善活動団体に寄付したい。そんなニーズに備えて生命保険を買っておき、受益者をその団体に指定しておく。そうすることで相続人が争ったとしても保険金を慈善団体に届けることが可能になる。
相続は争族を避けること
余談ではあるが、IFAとしてクライアントが元気なうちに家族、特にご子息たちとの家族会議に何度か参加させて頂いたことがある。そして記念すべき第一回目の家族会議を終えた後たいていクライアントは深~いため息をもらす。
「長男があんな強欲だとは思わなかった」
「海外留学までさせてやったのに、長女のあの態度はなんだ」
「子どもたち兄弟は、今まで仲良くやってきたのになぜ相続の話となるとこんな感情的になるんだ」
「商才がないくせに、家業を継げると思っていたなんて」
「なんとか相続させないことはできないものか」
まだ元気なうちにこういったことに気付くことができたならマシなほうで、悲惨なのは子どもたちと相続について全く話し合ってこなかった場合である。独力で成り上がったタイプの富裕層はまさか子どもたちが自分の資産をアテにしているなんて思ってもみないことが多い。自分は裸一貫だったので、子どもたちも当然そうすると思っているからだ。しかし子どもたちは「父親の成功によって得られた資産は私たちが引き継ぐ」となんの疑いもなく思っている。
創業者が作った資産は孫の代でなくなる、とよく言われる。これは相続税によって資産が削られていくという意味ももちろんあるものの、おカネについての教育が施されていないことが多い。宝くじ当選者の90%が当選から5年以内に破産する、という事実は突如として自分の器量以上の富を手にした人間は生活レベルを急上昇させた後、それを下げられないのだ。
相続を円滑に行うためには、子どもたちに対するファイナンシャル・リテラシーの教育から始めなければいけない。単に資産の割り振りをどうするかを決めるだけではなく、いろんな意味でお金に苦労しない家族を作るのは長丁場。家族の問題なので特別デリカシーが要求されるため、IFAや顧問税理士ではない相続専門・争族予防のためのカウンセラーがいてもおかしくない。