日本の富裕層は、日本のプライベートバンカーやファミリーオフィスに不満

キャップジェミニのワールド・ウェルス・レポート2019年版を読み解く。ネットプロモータースコア(NPS)の数値として浮かび上がる、日本の富裕層が抱くプライベートバンカーやファミリーオフィスへの不満。

毎年キャップジェミニというフランスのコンサルティング会社が発表している「ワールド・ウェルス・レポート」の2019版が7月に発表された。毎年、世界的な富裕層の動きに関して詳細なレポートが無料で読める。私どもウェルス・マネジメント業界にいる人間はほぼ全員目を通しているだろう。個人投資家であっても、このレポートに書かれてあるポートフォリオを参考にする富裕層の方も少なからずいらっしゃるので興味のある方は こちらからダウンロード していただきたい。

2019年の「ワールド・ウェルス・レポート」のハイライトは以下のとおりである。

  • 7年連続して続いていた富裕層人口の増加が初めて減少に転じた。これは景気減速や株価が冴えない影響の結果である
  • 中国を含むアジア太平洋地域での富裕層の減少が著しい
  • 中東地域だけが富裕層が増加した
  • 北米はほぼ横ばい、南米は地域により増減
  • Ultra-HNWIs(富裕層中の富裕層、富裕層のなかの1%で資産USD30,000,000以上)の資産が6%減少した

レポート中の富裕層は3つの層に分けられている。1つ目の層が計算の対象となるのが住居用不動産を除いた金融資産や不動産、美術品などの合計額だ。USD1m(mは1,000,000なので、1m=1,000,000)から5m、2つ目の層がUSD5m-30m、一番高い層がUSD30mという内訳である。

富裕層全体が100人いるとすると、2つ目の層は10人、一番高い層は1人となる。様々な国の統計から富裕層人口を割り出し、さらにプライベートバンクやファミリーオフィスなどのクライアント経由でのアンケートを得てレポートが成り立っている。

アンケートの部分ではここ数年のレポートではGAFA(Google、Amazon、Facebook、Apple)などのテック系大手がもし富裕層の資産運用サービスを開始したら、どの程度興味があるかどうかを聞くコーナーがありおよそ60%前後の回答者が「興味がある」と答えている。この部分については改めて掘り下げたい。

レポートでは富裕層資産が増えたのか減ったのかという統計的な数字が最初にあり、今年のレポートでは7年間連続で増加していた富裕層資産が減少に転じたことがハイライトとなっているっことは前述したとおりだ。

あなた自身が富裕層であるなら、このワールド・ウェルス・レポートを興味深く読めるかもしれない。富裕層はこの10年で資産を2倍に増やしているが、あなたはそのペースについてこれたか、あるいはもっと増やして10倍にしたのか。富裕層といっても100:10:1のどの層にいるのか。あるいはすでにおカネには興味がなくなってこういった富裕層レポートのたぐいは読まないのか、など。

しかし私どもが最近のワールド・ウェルス・レポートの中で興味深く読んでいるのは「Net Promoter Score(ネットプロモータースコア)」略してNPSの部分だ。

NPS®とは(ネットプロモータースコア)顧客満足度に変わる新指標 – NPSソリューション | NTTコム オンライン

NPSは簡単にいうと「その製品やサービスを他人に紹介したいか」を測るモノサシだ。数値が良ければ「紹介したい」となるし、悪ければ「紹介したくない」となる。紹介したいと答えた人のスコア合計から、紹介したくないと答えた人のスコアを引けば購入した人がどれくらいその商品・サービスを気に入っているかが分かる。またこのNPSを業界全体に適用することで業界自体にどんな課題があるのかが透けて見えることになる。

さて、このNPSであるがレポート中に全世界の各地域、北米やヨーロッパや日本などで算出されているのだが、日本だけ突出してNPSスコアが悪い(レポート15ページ)。逆に北米や南米が異様に高く、ヨーロッパが全世界平均に近い。

なぜ日本のNPSが異様に低いのか。また逆になぜ北米、南米では高いのかについて推理してみたい。

仮定1. そもそも、NPSは信用できない数字である

NPSには批判的な意見がある。NPSは単純に製品やサービスを「紹介したい人」「紹介しない人」「中立」と3種類に分ける。

紹介したい人がおおければNPSは上昇し、逆に紹介したくない人がいればNPSは下落する。このロジックでいくと、10人にアンケートをとって紹介しない、したくない人が10人だとNPSスコアはマイナス100となり、紹介したい人が善人だとNPSスコアはプラス100となる。全員中立だとNPSスコアはゼロとなる。

もちろん多くのアンケートを取ればこのような極端はなくなるだろうけれど、たとえばものすごく尖った製品やサービスがあったとして、それを他人に勧められないからといってその会社の提供するものが即ダメということにはならないだろう。たとえば日本酒をがぶがぶ飲みたい人のために、中ジョッキぶん日本酒が入るおちょこがあったとする。とんでもない酒豪で日本酒好きにとっては必要かつありがたいアイテムであってもそのおちょこを家族や友人に勧めるかどうかは分からない。

NPSで「この会社のプライベートバンク・サービスを人に勧めますか」という質問があったとして「今サービス提供をうけているプライベートバンクは気に入っているけれど、資産運用なんて個人的なものを人に勧めるなんてちょっと… 」という回答者は「紹介しない」となりNPSスコアにとってはマイナスとなる。

一方、北米南米は良いと思ったものはなんでも人に勧める楽観さがあるしキリスト教の宗教観が影響しているのか人に対してかなりポジティブな見方をする。「資産運用」「プライベートバンク」というサービスの性質に対する国民性が影響するのであれば、そもそもNPSを参考にして日本の富裕層向け資産運用業界はダメで北米南米は素晴らしいと断言してしまうのは早計なのかもしれない。

仮定2. 本当に日本の富裕層向け金融サービスがダメ

日本の富裕層向け金融サービスが致命的に他の国(たとえば香港)と違うのは

  • 担当者が数年で入れ替わる
  • フィーベースではなく手数料ベース
  • 商品が少ない

これらについては日々クライアントから聞くし、そういったことに不満をお持ちのクライアントが弊社で資産運用を検討するトリガーとなっている。特に証券会社などで顕著なのが「誰が一番手数料を稼げたか」という手数料収入の多さ=人格の尊さといういびつなカルチャーである。数字が正義であり徳である場所に身をおいていながら、クライアントの利益になること会社単位で考えられるわけがない。

香港は金融サービスが多様なので結局クライアントに選ばれないと自然淘汰されていく。護送船団方式で箸の上げ下ろしまで金融庁の指示を仰いでいる日本の金融機関が真似できないだろう。

これらの要因が複合的に重なって、「紹介しない」「紹介したくない」という回答に至ったと考えることもできる。

仮定3. 日本人のサービス・スタンダードが高すぎる

日本は世界一のサービスを提供する。これは日本を訪れる人が異口同音にいうことなので間違いない。かつて、香港HSBCのプライベートバンクに口座を保有していた方が「空港に到着しても、誰も迎えにこない。地元の銀行では支店長以下、最敬礼でお出迎えされるのに」と嘆いてらしたことがあった。預かり金額はUSD3m程度だったように記憶している。地元では工務店として成功され、上場を目指すくらいの勢いのある会社であった。

ただ、HSBCプライベートバンクは一時最低預かり金額をUSD10mにしようとしていたくらいなのでUSD3mレベルのお客様層で空港にまで迎えにいくような待遇を求めるのは酷だろう。これは日本でも同じだろう。日本の独立系のウェルス・マネージャはちょっとしたビルの一室で営業していることもある。そういったオフィスに来てもひょっとしたらクライアントのオフィスのほうが立派だったりする。しかしそういったオフィス賃貸料もクライアントからの手数料で成り立っていることもあり高すぎるフィーが豪華なオフィスの家賃を払っているという側面はいなめない。

しかし日本人の「お客様のためなら何でもする」という過剰なサービス精神にサービス消費者側として慣れてしまっていると、日本の富裕層向けサービスがどんな素晴らしいもてなしをしてくれるのだろう? と期待し、意外と質素なのでがっかりしてしまう… みたいなことは予想できる。

まとめ

ワールド・ウェルス・レポートには、上記であげたような「文化補正」や「サービス期待値補正」はもちろんされておらず、ただただむき出しの数字が並ぶ。日本のNPSが他地域と比べて異様に低いことは事実なのだが、もしこれが単純にサービスの質に起因するなら、日本の資産運用業界の未来は明るくない。

関連ブログ:2018年、キャップジェミニの富裕層レポート

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