パッシブ投資が難しい理由
パッシブ投資は「パッシブ投資が最強の投資手法である」と思い込むことが難しいというお話。
パッシブ投資のお話。
パッシブ投資とは、ETFやインデックスファンドで、指数の比重と同じだけの株式を買い分散する投資手法だ。パッシブ=消極的投資だが、ETFが自動的に機械的にどの株式を買うか、指数に従って決めてくれる。それに対してアクティブ投資とは、アナリストが市場の歪みを見つけ出して指数とは異なる買い方をする。ただし、市場リサーチにコストをかけるぶん、パッシブ投資よりも高い手数料がかかる。
アクティブ投資でその手数料を補ってなお余りあるリターンが出ればいいのだが、アナリストの頭をつかうアクティブ投資はアナリストの頭を使わないパッシブ投資に負け通しである。1年単位でみると、アクティブ投資がパッシブ投資に勝つ割合は50%前後となるものの、3年で30%、5年で10%くらいしか勝てない。インデックスが10%の投資リターンであるとき、パッシブ投資は9.9%、アクティブ投資は9%の投資リターン… みたいなのが一般的だ。この差は手数料の差でもある。アナリストも、ファンドマネージャも不要なパッシブ投資はコストがかからない。どんなサイズの大きいファンドでもパッシブならごくわずかの手数料だ。たとえばヴァンガードのS&P500(VOO)は手数料は運用額に対してわずか0.03%だ。対してアクティブファンドでは1.0 – 1.5%程度の手数料率となる。この差が積み上がって最終的なリターンに影響する。
しかしアクティブ投資にも時々人気になる。特に現在のような「株高」と言われているような局面ではアクテイブ投資がファンド内の現金を余分においておき、次の暴落が起きたときにより多くの株式を購入するということができるからだ。今は全額投資せず、将来に備えて現金割合を増やすのはパッシブ投資には不可能な芸当だ。パッシブ投資は指数のとおりに株式を購入するだけなので、現金保有は原則としてできない。
そこで高値圏にある現在、投資家の頭を悩ますのはこの水準から落ちたとき現金割合が多いアクティブ投資・アクティブファンドのほうがリターンを大きく減らすことなく乗り切れるのではないか。そんな期待が頭をもたげる。
アクティブか、パッシブか。そんな疑問に対してヴァンガードの祖、ジョン・ボーグルのプレゼンテーションからパッシブ投資の5つの真髄を紹介したい。このプレゼンテーションが行われたのは1997年10月8日ということだから、2週間後のちょっとした暴落の直前の大きく高騰しているタイミングだ。
1. 本当のリスクは、投資することにあるのではなく投資しないことである
まず前提として、パッシブ投資家は長期投資家だ。短期で売り買いを重ねる短期投資家はパッシブ投資家たり得ない。パッシブ投資家は途中の上げ下げはあれど株式市場の持続的な成長を心の底から信じる。どれだけ高値圏にあろうとも、長期的にはさらなる高値圏を目指すと考えるので、リスクは投資しないことにある。
パッシブ投資家がなぜ株式市場の持続的な成長を信じられるのか。それは本人たちに聞いてみないと分からないだろうが、ある投資家の方は「人間はいつも仕事に工夫を凝らして生産性を上昇させている。またそれを支えるコンピュータなどの発達も著しい。もちろん金融政策や投資家心理など、いつの時代も適正な株価から乖離する原因はあれど結局は適正価格を中心に行ったり来たりするだけだ。人類は仕事をより効率よくこなして生産性が上がっていくかぎり、株式市場もまた長期的に上昇していく」と聞いてなるほどな、と思ったことがある。
そういったパッシブ投資家にとっては現在高値圏かどうかは関係なく、途中の暴落は長い運用期間のイチ局面にしか過ぎない。
2. 時間を味方につける
これは1.を言い換えたものだ。パッシブ投資家は長期投資家であるが、長期とはどれくらいか。それは投資をやめなければならないギリギリまでということになる。50歳よりも40歳、40歳よりも30歳からパッシブ投資を始めるなら、その果実はより大きくなる。
3. 感情は邪魔、機械的に投資をする
“感情はあなたを殺す”とジョン・ボーグルは言っている。パッシブ投資家はある種の投資マシーンになる必要があり、感情を殺して投資をする。要するにパッシブ投資家はアクティブがいいのかパッシブがいいのかなんて悩まない。人生、パッシブ一本でいくと決めておりアクティブ投資なんかには目もくれない。もし勤労収入などで貯蓄を投資に振り向けるとしたら、間違いなくETFをやインデックスファンドなどのパッシブ投資である。もし悩むとすればパッシブ投資の中身を株式偏重にするのか債券偏重にするのかの違いである。債券投資はもちろん債券ETFである。
ドルコスト平均で、機械的に投資をするので投資タイミングも悩まない。投資タイミングが最高値であったとしてもちゅうちょなく運用資金を投入できるのがパッシブ投資家である。
4. 分散、分散、分散
パッシブ投資家は金融市場に幅広く網をかける。パッシブ投資家は株価を予測することはしない。株価を予測することは時間とおカネのムダである、考えている。
どの株式が今後上昇するのか分からないのであれば、パッシブ投資家が望むことは一つ。地球上で上場しているすべての株式に網をかけることができればよい。iシェアーズ MSCI ワールドのような、ETF一つで世界中の株式に分散できるものがあるのでそういったETFを使いながら分散を達成する。分散の反対は集中だが、集中にはどのセクター・どの株式に集中させるべきかの選択がともなう。
パッシブ投資家は考えない。考えないことで手数料を極限まで減らし、その分リターンに貢献させるのだ。
5. 振り返らない
パッシブ投資家は「自分がやってきたパッシブ投資が正しかったのか」なんてことは微塵も考えない。パッシブ投資はもはや宗教ともいえるもので、ジョン・ボーグルの著書はさしずめ聖書・経典である。「あの時点で買わなきゃ良かったな」などと振り返っていてはパッシブ投資家としては失格だ。パッシブ投資家は株式市場がこれからも大きく上昇していくことを信じてうたがわないので、高値圏であろうが構わず買い進めていく。
パッシブ投資が難しい本当の理由
パッシブ投資家はETFやインデックスファンドを買って可能な限り長期にわたって放置し、金銭に余裕ができたら新しいパッシブ投資を躊躇なく実行する。考えること・予測することを極限まで避けるパッシブ投資は表面的には簡単そうな投資手法である。しかしそのあまりにも簡単な投資手法がかえって「他のもっとパ稼げそうな投資手法はないか」と意識を向けてしまうのだ。株式市場は生き馬の目を抜く世界で、こんな簡単な手法で儲かるわけがないという思い込みがあるためだ。
おそらくパッシブ投資で一番むずかしいのはこの思い込みをどう捨てるか、高値圏であろうがなかろうが感情を殺して「パッシブ投資が最強の投資手法である」と思い切ることだろう。
投資にまつわる情報は無限にあって、ニュースをみているとパッシブ投資が正しいのかどうか疑問を持つことが多い。特に現在のような高値圏で「私はパッシブ投資家だから」といって機械的に資産をパッシブ投資に振り向けられるような鉄のハートを持つ投資家は資産運用の成功確率が高いだろう。
パッシブ投資が難しいのは、「統計的にパッシブ投資が長期的には良いリターンをもたらし、個人投資家にとってはそれが最良の選択である」というメンタルを強靭に持ち続けられる投資家が少ないからだ。
もしその思い込みができるのであればパッシブ投資は万人向けだと思う。仮にあと5年しか投資期間がないとしても、パッシブ投資を勧める。パッシブ投資はどちらかというと若い人向けという印象はあるが、どの年代でもパッシブ投資は有効だ。もし投資期間が短い場合はその投資対象は株式偏重ではなく債券偏重になるだけの話だ。