債券市場概観 – 2018年10月

先月の債券市場をざっくり概観

下駄が外されつつある

10月は市場が大混乱でした。

リーマン・ショック後のこの10年の金融市場を振り返ってみますと、リスク資産は何を買っても上昇するという傾向が見られました。資産運用の教科書なんかを読みますと”株式が上がったら債券は下がり、株式が下がったら債券は上がる”、みたいなことが書かれていますが現実世界ではそんなことはめったに起こらず株式と債券はいつも手をつないで仲良しに動きます。

教科書通りに動かない理由の1つとして、中央銀行の積極的な金融緩和があげられます。投資の教科書に載っている”想定”は、あくまで金利を上げ下げするくらいでしかありませんが、中央銀行が経済を下支えするために債券を買い取ったり、日銀のように大量のETFを保有するという事態までは考えられてなかったでしょう。このせいで市場を通じてリスク資産価格がプライシングされず、投資家はすっかり中央銀行に甘やかされてきました。

が、それもいよいよ終わりということになり投資家はパニクっちゃいました。今回の世界同時株安についていろいろな見方はできるでしょう。貿易戦争、サウジ、中国信用危機。ただどれか一つ挙げろと言われると私は「中央銀行がもはや投資家を甘やかさなくなったから」ということになりましょうか。中央銀行が投資家を甘やかさなくなったから、投資家の判断レベルは通常に戻りつつあり、市場を通じた金融資源の分配の結果今回の株安となったと理解しております。

今までは企業も投資家も下駄を履かせてもらっていました。企業は実力なら5%のクーポンで発行しなければいけない債券を4%で発行できたし、投資家はそれによって本来なら得られなかった株価で儲けることができました。問題は、下駄を履いていた状態が企業なり投資家なりにとって”新常態”であったため下駄を履いていたという認識がなかったことです。実力のない企業が低利で資金調達ができ、実力のない投資家が市場から退場せずに済む。私たちは中国の計画統制経済を笑えません。量的緩和もマイナス金利も最初は緊急的措置であったはずなんですけどね。慣れって恐ろしいものですね…

とはいえ、ようやく実力に見合った企業の選別などができるということですからアクティブ・ファンドのファンドマネージャーはこの状況に喜んでいるかもしれません。日本人のファンも多いジム・ロジャーズは最近ETFとキャッシュポジションを同時に持つファンドを立ち上げました。”右肩上がりしか知らない投資家が増えてきた。そういった投資家がパニックを起こせば下落は大きいから、キャッシュポジションを持っておいて拾いに行く”とのこと。

本人は自嘲気味に「世界最悪のトレーダー」を自称してますが彼は同時に世界最高のアナリストであることは間違いありません。ここ最近、彼はすっかりキワモノ扱いとなっておりましたから面目躍如といったところ。今後も彼の投資アイデアはフォローし続けたいですね。

The Centreで李嘉誠は最後に笑う

当時、不動産取引額としては世界最高と言われた香港セントラル地区のオフィスビル”The Centre”の取引について。The Centreはアジア一の富豪であった長江実業の李嘉誠、おん年90歳で先日現役を退いたのですが51.5億米ドル(およそ5500億円)で投資家グループにビルを売却したのですね。当時、セントラル地区のオフィスビルは空室率2%という超売り手市場で、おカネがあっても入居できないという状態が続いておりました。中国系の企業が香港にどんどん進出したこともあってオフィスビルの供給ははるかに追いつかず、セントラル地区に商業ビルを保有することは投資家には垂涎の的となっていたわけです。

そこに、地上73階建てで世界で32番めに高いビルに売却の話が持ち上がったわけですね。長江実業としては、会社の資産ポートフォリオを香港/中国だけにとどまらせずにロンドンやシドニーなど積極的に海外資産に分散したいとの思惑があったようです。10人(社)の投資家グループはこの不動産取引だけのためにコンソーシアムを作ります。投資家グループにはかつて音楽カセットテープ王と言われたDavid Chan Ping-chiやミニバス経営で財を成したMa Ah Mokがおり、まさに香港の古き良き時代のビジネス王たちが買い手側グループにいるわけです。

そしてめでたく取引成立となるわけですが、取引が成立した2017年11月時点では投資家グループは「良い買い物をした」と考えていたようです。当時の状況を考えるとさもありなん。私がもし投資家グループにいても同じことを考えたかもしれません。1. 香港に土地は少ない、2. 中国企業が殺到している、3. 低金利はしばらく続く、4. そして1-3を香港中の誰もが信じている… という状況でしたからね。

しかし時流を読む力は李嘉誠のほうが一歩上だったかもしれません。この低金利が永遠に続くわけではなくインフレ率よりも速いスピードで上昇を続けているのは「資産が今後も上昇する」という期待値を織り込んでいるからです。明日は10%上がる資産を今日5%くらい高くても買っておくのが合理的な判断ですから。

投資家グループは楽観していたものの、先月ハンセン指数は過去37年間で最悪の下げを記録。ハンセン指数は香港の不動産市場を写す鏡ですから、不動産市況もそれに反応して下落。去年は楽観的だった投資家グループはキモを冷やしています。それもそのはずこの取引で投資家グループは頭金20%で、購入代金の残り80%のうち65%をモルガン・スタンレーから第一抵当で金利7.5%で、15%をハマーキャピタルから第二抵当で金利15.25%で融資を引いているのですね。

すなわち不動産価格が20%下落すれば投資家グループには追証を入れねばならず、それができなければ手に入れたThe Centreは他人に渡ってしまうかもしれない… という状況です。投資家グループが10人いるわけで、これだけでも複雑な権利関係となっておりなかなか買い手はついていない様子。当初は20%-30%の利を乗せて転売で大儲けする予定だったのが、今はせめて入居者を見つけて家賃でしのごうとしています(そしてテナント探しもうまくいっていないようです)。

香港ビジネス界のレジェンドたちも不動産市況を読み誤ったかもしれず、もしこの先香港の不動産市況がさらに冷え込むことがあればどのように状況を切り抜けていくのか。一代で財を築いた方が、本業以外の投資にのめり込んでついには会社のカネを横領し株主から三行半を突きつけられて自分が創業した会社から追い出されるというのはよくあるパターンですが、その手腕が試されるところですね!

債券市場一言コメント

先述の通り、株式も債券も銘柄関係なくマーケットが総崩れとなりました。株式では特にITセクターの売りが強くございました。債券市場はやはり新興国や格付けの低いものから売られました。米国債だけはやや買われており、数ヶ月間動きのなかったゴールドもやや買われる展開となりましたが、金融市場からは数兆ドルの価値が失われたでしょうね。

かつてのように今後強いインフレが起こる可能性は低く、長期でみると株式よりも債券のほうがよいリターンを出す可能性がより高まってきましたし事実そのような論調もあります。数年前はポートフォリオにおける債券のバランスは低かったものの、これからはふつうに債券も組み込まれることになるでしょうし、そうでないポートフォリオマネージャは「時代についていけてない」ということで淘汰されるかもしれませんね。

クローズド・アカウントで購入可能な債券本数

先月から3本増えて現在

579

本がクローズド・アカウントにて購入可能です。購入可能な債券リストはこちら(Google Spredsheetに飛びます)。

ランキング

1. 値動きトップ 2. 値動きワースト 3. ハイイールド の3つのカテゴリーでのランキングです。ランキングの母体は上述のリストからです。同じ会社で複数債券を発行している場合は、その中でもっとも良い(悪い)ものを1つだけ選んでいます(数字は9月30日時点のものです)。値動きの計測期間は過去1ヶ月。オファープライスはお取引価格(債券価格と未確定クーポンを足したもの)、格付けは特に断りがない限り発行体に付与されたものではなく債券に付与された、S&Pのものを使います。 以下出てくるような値動きが激しいものは、売買が成立しづらい(流動性がない)ものですから投資するには担当アドバイザーとよく相談してください。このランキングは購入できる債券が限られた「クローズドアカウント」内のものです。

値動きトップ3本

この1ヶ月で債券価格が上昇したもの上位3本です。

上昇幅+80.73%, NOBLSP 6.000% Perpetual Corp (USD)

売り買いがあまり発生していないと、こういう状態になりますね… 永久債ですが、この会社が存続するとはどの投資家も考えておらず…

オファープライス USD26,504.11
格付け N.R
満期までのイールド(実質利回り) 61.46%
表面利回り 6.000%
償還期限 永久債

上昇幅+3.94%, HONAIR 7.125% Perpetual Corp (USD)

香港航空の債券です。このブログでも何度か取り上げた、NHAグループの傘下会社ですね。NHAグループは次々と資産を処分してキャッシュ確保に努めています。放漫経営からの脱却の道筋もついて、投資家も一安心といったところでしょうか。

オファープライス USD183,265.32
格付け N.R
満期までのイールド(実質利回り) 8.103%
表面利回り 7.125%
償還期限 永久債

上昇幅+1.44%, HKRINT 4.300% 21May2020 Corp (HKD)

香港ではディスカバリー・ベイというゲーテッドコミュニティがございますが、香港リゾート・インターナショナルはそこのデベロッパーとして有名ですね。香港のデベロッパーでは、新鴻基不動産なんかが債券の発行元としては存在感があります。

オファープライス HKD 1,033,706.85
格付け N.R
満期までのイールド(実質利回り) 2.696%
表面利回り 4.300%
償還期限 2020年5月21日

値動きワースト3本

この1ヶ月で債券価格が下落したもの上位3本です。投資家の方はこちらをより参照されるのでしょうね。

下落幅-31.01%, CSSXF 7.950% 15Feb2019 Corp (USD)

中国のソーラー会社です。中国国内は政府のクリーンエネルギーもあって順調なんです。しかしモロに米中貿易戦争の犠牲者となっていることから、極端に売られているようです。

オファープライス USD114,177.50
格付け N.R
満期までのイールド(実質利回り)
表面利回り 7.950%
償還期限 2019年2月15日

下落幅-15.32%, FTHDGR 7.950% 05Jul2022 Corp (USD)

中国の不動産会社です。”花様年”控股集团有限公司というオシャレな会社名ですね。国建節で思うように不動産売上が伸びませんでした。地方都市にいくとバナナの叩き売りのように不動産が売られていますね。

オファープライス USD185,770.83
格付け B
満期までのイールド(実質利回り) 21.255%
表面利回り 7.950%
償還期限 2022年7月5日

下落幅-13.72%, KAISAG 9.375% 30Jun2024 Corp (USD)

こちらも中国深センの不動産会社です。9.375%というクーポンレート… この水準となるとちょっと脳内アラームが鳴り始めますね。

オファープライス USD139,388.33
格付け N.R
満期までのイールド(実質利回り) 19.765%
表面利回り 9.375%
償還期限 2024年7月30日

ハイイールド トップ3本

満期までのイールド128.81%, HSINCG 8.500% 22Jan2019 Corp (USD)

香港の不動産会社、Hsin Chong Groupです。5月時点で別の債券でデフォルトを起こしております。あと2ヶ月少しでデフォルトを起こさず戻ってきたら投資家の勝ち、5月のようにデフォルトを起こしたら負けという博打銘柄。

オファープライス USD91,123.29
格付け N.R
満期までのイールド(実質利回り) 128.81%
表面利回り 8.500%
償還期限 2019年1月22日

満期までのイールド94.58%, NOBLSP 6.750% 29Jan2020 Corp (USD)

このブログの常連、香港の商社です。いまだ光は遠く…

オファープライス USD50,834.79
格付け N.R
満期までのイールド(実質利回り) 94.58%
表面利回り 6.750%
償還期限 2020年1月29日

満期までのイールド81.86%, CSSXF 7.950% 15Feb2019 Corp (USD)

前述のソーラー会社ですね。

オファープライス USD114,177.50
格付け N.R
満期までのイールド(実質利回り) 81.86%
表面利回り 7.950%
償還期限 2019年2月15日

これら現物債券の購入アドバイスや手数料についてのご相談はこちらからどうぞ。

QRコード https://amgwealth-jp.com/?p=1302

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