キャップジェミニの富裕層レポートから透けて見えるもの – 1/2 – 概観

キャップジェミニというフランスのコンサルティング会社が毎年発行しているものからの抜粋。

世界の富裕層についてのまとめ。

  • 世界の富裕層数は年7%程度のペースで増えている
  • アジアの富裕層の勢いが鈍化
  • スーパー富裕層 / 中間富裕層 / プチ富裕層の人数割合は1:10:100、資産額割合は3:2:5
  • 資産構成では株式、キャッシュの割合が多く不動産が少ない
  • GAFAがもし資産運用サービスを始めたら

キャップジェミニ(Capgemini)というフランスのコンサルティング会社が毎年発行している”富裕層レポート”について。

富裕層レポートというと、ヨットや別荘など富裕層の豪奢な金遣いが嫌味っぽくレポートされているものとどうしても考えがちだが、キャップジェミニのこの富裕層レポートにはそういうった話は一切出てこない。レポートの内容は富裕層は増えたのか減ったのか、富裕層は何に投資をしているのか、富裕層が資産運用で気にしていることはなにか、というテーマに絞っている。またレポートにはそれに関わる数字しか出てこない。数字しか出さないことで余計な情報が排除され、世界の富裕層の実態をむしろリアルに俯瞰できて面白い。レポートは無料で以下から誰でもダウンロード可能である。

https://www.worldwealthreport.com/

レポートは3種類、それぞれワールド、アジア・パシフィック、北米とある。レポートの種類によって本稿ではそれぞれWR(ワールド)、AP(アジア・パシフィック)と表記する(北米レポートについては今回は参照しない)。

まずは富裕層の定義から。レポートでは富裕層とは

HNWIs are defined as those having investable assets of US$1million or more, excluding primary residence, collectibles, consumables, and consumer durables.

(自宅や絵画などの所蔵品を除いてUSD1,000,000以上の投資可能な資産があること)

される。なので松濤に自分が住む豪邸を持っていても、ピカソの絵を保有していても預貯金USD10,000しかない人は富裕層には該当しないことになる。自宅でなければいいので、賃貸に貸し出している不動産は「投資可能な資産」に含まれる。また純資産でなく単に資産なので負債を差し引く必要はない。すなわちUSD1,000,000の資産があってその2倍のUSD2,000,000の負債があったとしても(すなわち純資産はマイナスUSD1,000,000だとしても)、レポートの”富裕層”の定義に当てはまる。日本円に直せば借金は脇においてざっくり1億円を持ってる人、ということになろうか。

キャップジェミニはプライベートバンクなど金融機関の協力を得て富裕層にアンケートを取り、その結果を公表している。アンケートに答えてくれた人にはアンケート結果の仔細をフィードバクすることで富裕層が回答するインセンティブを与えているようだ。毎年1度発行されており、世界の富裕層統計を知るには有効だ(数年前までは日本のニュースにも取り上げられていたのだが最近見なくなった気がする)。このレポートを読んだところで富裕層になることはできないが、富裕層をターゲットにしているビジネスマンなら必読といったところか。今回のレポートは2017年度版である。

世界の富裕層は毎年7%増えている

富裕層の数は全世界に1,650万人いるとされる(WR p7)。その数自体は年々増え続けて、過去7年間ではおよそ7%の割合で増え続けている。国別でいうとロシアが20%近く伸び、オランダやスウェーデンといった国が続く。アジアではインドネシアが13.7%、タイ12.7%の伸びを示し、中国や日本では伸びが鈍化している(とは言ってもそれぞれ9%, 6%)。また富裕層一人あたりの資産額は年8%で増えている。ここ7年に限っていうと、「持てるものが更に持つ」という構図が当てはまる。レポートでは、現在富裕層が保有する資産総額は62兆米ドルだが2025年までにそれが100兆ドルにまで達すると見積もっている(WR p8)。

ロシアが20%近くも伸びたのは原油価格のリバウンドが大きいと思われる。オランダの富裕層が増えた要因ははっきりわからないが、経済的な要因というよりは富裕層移民を多く受けて入れているからではないか。ドイツやフランスの重税を嫌って移住する富裕層は多い。アジア中国と日本が足を引っ張ったが、もともと母数が多く(日本の富裕層人口は270万人、中国は103万人)社会が成熟してくると伸びはいずれ鈍化する。

富裕層内格差

レポートで”富裕層”は上記のように”USD1,000,000の資産を持つ人”と定義付けられているものの、富裕層の中でも資産ボリュームによって更に3段階に分けられている(WR p10)。

  • USD30,000,000 – 超富裕層
  • USD5,000,000 – USD30,000,000 – 中間富裕層
  • USD1,000,000 – USD5,000,000 – プチ富裕層

レポートでは上からざっくり30億円、5億円、1億円がしきい値となっている。面白いのが、この切り分けで全世界の富裕層人口がそれぞれ15万人、150万人、1,500万人と1:10:100となっているということだ。ちなみに日本はプチ富裕層が多く超富裕層が少ない国だが、全世界でみると富裕層の中でも1:99という構図がある。ただ全員富裕であるので”ウォール街を占拠せよ運動”のような階級間闘争はないけれど。

またこの切り分け方だと1%が富裕層全体の35%の資産を、その下の10%が22%の資産を、残りが43%の資産を持つ。人口100人の富裕層村があるとすると、村民の1人が村民全員の資産をあわせた3分の1の資産を保有する計算となる。よくこういうニュースがネットに流れるが、数字の上でもそれを実感する。

富裕層の資産ポートフォリオ

富裕層のポートフォリオはなかなか表に出てこないが、レポートには詳細に富裕層の資産の振り向け先が出ている。たとえば10億円の資産があるとすると、平均的な富裕層は3億円を株式に、3億円を現金またはMMFなど現金に準じるものに、2億円を債券に、1億円を不動産に、そして残りの1億円をヘッジファンドなど変わったもので運用しているということになる。フロー的にはビジネスで手に入ったキャッシュを株式や債券などリスク資産に振り向けるているのだろう。外貨ポートフォリオには触れられていなかったが、想像するに先進国では自国通貨偏重だろう。たとえば日本人富裕層なら日本円を多く持つ、といった具合だ。

個人的には日本では富裕層の不動産保有割合が全世界平均より多いと考えていたが、実際にはその逆で日本人富裕層の資産中不動産割合は一貫して世界平均よりも少ない(WR p17, Figure 13)。そのかわり特徴的なのは現金が突出して多い。2017年度のデータでは全資産の半分近くを現金に振り向けていることになる。日本の2016年度のデータでは不動産割合が13.4%と多かったのが、2017年度には8.0%となったことから日本の富裕層は過去数年で不動産が高値圏にあるとみてキャッシュアウトしたのだろう。富裕層はアパマン経営に関心がないわけではないだろうが、全資産を傾け一極集中で不動産経営に乗り出すのは富裕層の振る舞いではないかもしれない。日本の富裕層については稿を改める。

なお、90%の回答者が株式投資をポートフォリオ運営にとって”非常に大切”あるいは”大切”と回答している。また2017年度においては株式が他の資産クラスよりも良い成果をあげている。ポートフォリオに株式投資が存在しない富裕層はほとんどいないということになる。

とはいえ卵を一つのかごに盛らないのが富裕層だ。今後は中央銀行の利上げが世界的な潮流となり債券市場にとっては逆風だろうが、ポートフォリオ中債券割合は減っていない。

富裕層の運用アドバイザーに対する期待

富裕層は通常資産運用のためのアドバイザーを置いている。レポートには富裕層が運用アドバイザーをつけている割合は出てこなかったが、そもそもこのレポートの回答者がプライベートバンクなどの顧客であるのでアドバイザー率は非常に高くなっているだろう。富裕層全体では、こういった運用アドバイザーに支払う手数料は年間USD65,795(WR p19)。半数程度の富裕層、そして年齢的に上の富裕層は年間で預かり資産総額の1%を支払うという伝統的な方法を好むが、若い富裕層だとサービスの質に応じて手数料を可変にすることを望み、結果手数料が高くなることもいとわない(AP p16)。

アメリカでは様々な資産運用アドバイス・サービスが充実しており競争が激しいためフィーに対する満足感は高い(61.5%)が、日本では突出して低い(20%、WR p19 Figure17)。日本では手数料の安いネット証券には富裕層に対する手厚いサービスを提供しておらず、逆にそういったサービスを提供している大手銀行、大手証券会社には手数料カルテルともいうべきものが非公式に存在しているので、日本人富裕層は金融機関に支払う手数料に納得がいっていないようだ。

ちなみに、資産運用アドバイザーには以下のようなことを期待している(カッコ内は”非常に重要”と”重要”をあわせたもの、WR p18 Figure 15)。

  • 資産運用マネジメント(87.2%)
  • ファイナンシャル・プランニング(86.9%)
  • 税金・法務アドバイス(81.4%)
  • 相続・信託マネジメント(76.5%)
  • 事業承継・リタイアプランのアドバイス(75.8%)
  • 預金/出金機能(バンキング)・生命保険(75.4%)
  • 社会貢献・フィランソロピー(55%)

トップの資産運用マネジメント、次点のファイナンシャル・プランニングは、まさにそれが資産運用アドバイザーの仕事であるし期待するのは当然だろう。しかしそれだけでなく、税法務のアドバイスや事業承継のアドバイスまで求められるとなるとワンストップでサービスできるところはなかなかない。弊社にも、国際税務のご相談が増えてきた。これは日本人の富裕層に限ったことではないが、クロスボーダービジネスを展開している中小企業オーナーは国際税務に強い大手監査法人にお願いするにはハードルが高すぎ、国際税務に疎い街の税理士では頼りないため仕方なく私たち運用アドバイザーに意見を求めてくるという構図がある。帯に短しタスキに長し、だが、そのあたりをまとめる力のあるアドバイザーは重宝されるだろう。

ホリスティック・アプローチ

このように富裕層は一口に”資産運用”といっても切り口によって様々な専門家に聞かねばならない必要があるため、面倒である。資産運用は◯◯さんに、税務は◯◯先生に、法務は◯◯先生に、保険は◯◯さんに… という具合に。このやり方だといちいち一から同じことを説明しなければならず、忙しい富裕層にとってはめんどくさい。しかし一人が全ての分野の専門家になるのは不可能だ。

そこで、誰かが窓口となりその窓口となった人が各分野のエキスパートに聞くということが行われる。これをホリスティック(全体)・アプローチといい、こういったやり方の必要性は繰り返し叫ばれる(WR p30)。窓口に立つ人は自分が信頼している人であれば運用アドバイザーでも弁護士でもいい。富裕層が抱える複雑な問題を理解してくれ、そのニュアンスを上手に各専門家に伝えてくれ、正しいフィードバックを受けられさえすればいい。窓口はまさに富裕層のバトラー的な立場になろう。

このホリスティック・アプローチは大手銀行でしか無理だと思われがちだが、意外と大手だと昔から付き合いのある税理士事務所や法律事務所とのしがらみから抜け出せず、富裕層顧客からのフィードバックは良くなかったりする。

Tech企業が資産運用サービスを始めたら

そのサービスに興味がある、というのが半数以上(WR p22, Figure20)もいる!

テクノロジー企業についてはいわゆるGAFA、Google Apple Facebook Amazonの4社が並べてまとめられることが多いが、その中でもAmazonはコンビニや最近では生鮮食品業界のやり方を根本から破壊するインパクトがあり、しかも小口金融に参入しようとしていることから、ウェルス・マネジメント業界も安穏とはしていられない。

回答者は、効率化・透明化・オンラインで完結する簡便さなどをテクノロジー企業の(もしかしたら始めるかもしれない)資産運用ビジネスに期待している。一方でプライバシー・セキュリティ・人間が関わらないこと・テーラーメイドのプランでないことを心配としてあげている(WR p23, Figure21)。しかし銀行や証券会社がすでにアマゾンのウェブサービス(AWS)を使っていることを考えると、個人情報のセキュリティレベルはアマゾンの運用サービスを使おうが使おまいが同じということになる。

救いは、デジタルでは定型化できないヒューマン・タッチだが、これらテクノロジー企業のとてつもない財力をもってすれば幾つか小さい運用会社を買収して人間のアドバイザーを調達することは造作もないだろう。

まとめ

単純に平均すれば一人あたりUSD4,000,000くらいの資産額となるが富裕層内格差も大変大きい。彼らは比較的バランスの取れたポートフォリオを組み、株式投資の割合が比較的多い。資産運用アドバイザーに対しては、日本以外の富裕層はおおむね満足している。テクノロジーが資産運用にもたらす恩恵には関心があるが、一方でヒューマン・タッチも望んでいる…

本稿ではレポートを俯瞰してみたが、次回は同レポートから、日本人富裕層について掘り下げていく。日本人富裕層には顕著な特徴があるので、それについてまとめてみたい。

QRコード https://amgwealth-jp.com/?p=1059

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